【症例報告】
社会不安障害の研究
カメ太郎
【抄録】
筆者は3年前より社会不安障害に対して flunitrazepam を使用し、多数の成功を収めた。flunitrazepam の社会不安障害に奏功する機序は flunitrazepam には強い抗不安作用が存在し、その作用で奏功すると推測する。しかし、副作用として強い眠気がある。
【key words】Social anxiety disorder, Flunitrazepam, benzodiazepine
【はじめに】
現在まで筆者は社会不安障害に対し flunitrazepam を頻用し、それも対人緊張を避けたい場面の直前に口腔内溶解させ口腔粘膜より吸収させるよう指導してきた。他のベンゾジアゼピン系薬物では社会不安障害に対しては対人緊張を弛めることが不充分である。
そして最近は flunitrazepam と methylphenidate を同時処方し、2例の成功を収めている。この2例は、methylphenidate を服用すると対人緊張は弱くなる、と言う。対人緊張に対し methylphenidate を用いた経験はこの2例が初めてである。
methylphenidate は覚醒作用が存在するため対人緊張を強めると短絡的には考えられる。しかし、methylphenidate を服用すると、活動性の亢進、積極性の向上、精神の安定化を認め、そして対人緊張は弱くなる、と2症例は言う。症例1は methylphenidate を服用すると身体が柔らかくなると言う。それ故に対人緊張が弛むとも推測される。
筆者が社会不安障害の患者に対し頻用している flunitrazepam は一時的効果のみ得ることが出来、根治あるいは略治に持って行くことができた例は現在まで一例もない。flunitrazepam には強い催眠作用が存在するため methylphenidate との併用は合理的と思われる。
症例1は生来、胃弱であり、flunitrazepam の催眠作用を弱めるために飲用するコーヒーなどで治療抵抗性の胃潰瘍を併発した。
症例2は自閉傾向極めて強かった。
症例3は心気傾向強い社会不安障害である。 症例は対人緊張を多少覚えるのみの肉体労働に従事していたときは bromazepam を少量服用するのみで充分であった。しかし職場が変わり、対人緊張に困る場面が多くなる。etizolam、 flutoprazepam、 cloxazolam と加えてゆき、現在、対人緊張に苦しみながらも辛うじて社会適応している。flunitrazepam は眠気のため服用できないでいる。心房細動を持つためmethylphenidate を使用し難いが、次回より methylphenidate を flunitrazepam とともに併用する予定である。抗不整脈薬である disopyramide phosphate の併用が必要となると考えられる。
症例4は筆者の努力及ばず、自殺した。
症例5は社会不安障害として治療されてきた。しかしこれは統合失調症の妄想に基づく対人緊張であった。抗精神病薬の服用を開始すると妄想とともに、生来、神経質な性格でなかった故に、対人緊張も軽快(寛解に近い)していった。
症例1から症例4まで、幸運にも発病初期に医師より自己臭などが思春期に頻繁に見られる誤解・妄想であることを指摘され理解・納得したが、生来、神経質な性格だった故に、対人緊張はそのまま存続した。
【症例】
<症例1>39歳、男性。
主訴:対人緊張
診断:社会不安障害、確信型から緊張型への移行。
家族歴:3人兄弟の第3子。精神科的遺伝負因なし
血液生化学的所見:特記すべき所見なし
神経学的所見:特記すべき所見なし
頭部CT:特記すべき所見なし
脳波:特記すべき所見なし
既往歴:幼少時より軽症の吃音あり。幼少時より神経質であった。
生育歴:特記すべきものなし
現病歴:高校3年時、中学3年時よりの長い片思いの2歳年下の少女といつも同じスクールバスであった。その少女とは小学5年時、および中学1年時にその少女の父親が経営する小さな写真店でカメラの現像のフィルムを渡すとき、僅かな会話を行ったのみである。一年間の同じスクールバスで症例は座れたが、その少女は座れず、順序的にいつも症例の座っている横に少女は少女の同級生と立っていた。その2人の少女の会話を座って勉強しながら聞くことが、幸せであったという。症例はその少女と結局、高校3年時、一度も会話することはなかった。
高校3年の終わり、受験勉強の最後の追い込み、およびその少女への長い片思いへの煩悶、それらがストレスになり、軽症であった吃音が国語の本も読めないほど重篤化する。高校3年の終わり、恋愛妄想めいたものが存在していた。激しいストレス下、大学入試2次試験の1週間ほど前、自己臭妄想(誤解)が出現。対人緊張が発症する。
大学受験が終わった翌日、大学病院へ対人緊張(自己臭)のことで受診。医師より、自己臭は誤解であること、思春期に非常に多い誤解であることを懇切に説明される。自己臭妄想(誤解)は消失。しかし発症して間もない対人緊張はそのまま存続。
対人緊張のため現役時、大学受験失敗。一浪後、現役時にも容易に合格できていた大学へやむなく進む。
対人緊張に悩み苦しみながらも大学時代より宗教を熱心に行い、その宗教を心の支えにして生きてきた。
症例は大学時代より対人緊張に対し精神科医院にて治療を受けてきた。三環形抗うつ薬の投薬も受けたが、症例は三環形抗うつ薬の抗コリン作用に敏感であり、元来の持病であった吃音が極めて重症となり人と話すことさえ不可能になると訴え最初の2ヶ月間で投薬を中止された経歴がある。また2ヶ月間投薬されたが服用したのは2回のみであると言う。
気功法、ヨガ、絶食療法、玄米自然食、整体、鍼、森田療法、歯の噛み合わせで病気を治す治療法であるテンプレート療法、ほぼ毎日の激しいランニングなど、数多くの治療法を受け、また行ってきたが、全て一時的または僅かな効果しか得られなかった。
5年半前、頭部CTを希望して本院初診。それ以来、筆者が主治医となり、ベンゾジアゼピン系薬物(bromazepam、 cloxazolam、 flutoprazepamなど)のみの処方を行う。
前医院で血中ノルアドレナリン濃度が正常上限であったこと、それ故、軽症の褐色細胞腫をも疑われたが、精査されないでいたと言う。しかし、神経質な人は血中ノルアドレナリン濃度が正常上限になることが多いことを説明する。
症例は会社に着いた直後 bromperidol 3mg 錠を1錠服用し、夕刻まで対人緊張をほとんど自覚しなかった経験を持つ。しかし症例は、その日は対人緊張を自覚する機会がほとんど無かったこと、前立腺肥大がありbromperidol の副作用であるパーキンソンニズムを防ぐための抗コリン剤を服用することが極めて難しいこと、それらの理由によりbromperidol を服用するのを拒否する。パーキンソンニズムの副作用を防ぐ薬剤として amantadine、 droxidopa という前立腺肥大が有っても使用可能なものが存在すると説明を行うも、その日は対人緊張を自覚する機会がほとんど無かった故であると主張し、bromperidol の服用を拒否し続ける。haloperidol 3mg 錠、risperidone 1mg 錠、sulpiride 200mg 錠をbromperidol 3mg 錠を服用する以前に服用したことがあるが、全く無効であったことも理由となっている。
症例は sodium valproate(徐方剤)を出社直後に服用し、対人緊張が非常に和らいだ経験も持つ。しかしそれは朝1200mgという大量服用であり、肝機能障害を怖れ、また異常な飢餓感に襲われる経験もし、6回ほどのその大量服用を行った後、中止する。1日目の大量服用の時は対人緊張に劇的なほど効果があったが、2日目より効果は次第に弱くなっていった。症例には脳波上、異常所見らしきものは存在しない。
SSRI(serotonine selective reuptake inhibitor) が対人緊張に奏功する情報を症例自身、インターネットより得、SSRIの使用を懇願する。SSRIの投薬を開始する。fluvoxamine、milnacipran、 paroxetine と2ヶ月の期限おきに使用してゆく6)。 paroxetine のみ効果有り。服用1日目は劇的に効果を自覚。しかし、2日目、3日目と急激に効果が弱くなるのを自覚。かつ、インターネットより情報入手した paroxetine の副作用である勃起障害を嫌い、1週間ほどの服用で中止する。そして症例自身、対人緊張に paroxetine よりも良く効くとインターネットより情報入手したmoclobemide を個人輸入し、対人緊張を治したい一心で8ヶ月間に渡り服用する。しかし無効であった。
flunitrazepam の投与を開始するも、他のベンゾジアゼピン系薬物と異なり催眠作用が強いため眠気を弱めるためにコーヒーなどを服用するが、遺伝的に胃が弱く、胃潰瘍が発生し、最も効果的とされる胃潰瘍の治療を行ったが効果は判然とせず。よってmethylphenidate の投薬を開始。
現在の処方は《methylphenidate 10mg 錠を3錠/日、flunitrazepam 1mg 錠を2錠/日、bromazepam 5mg 錠を4錠/日、etizolam 0.5mg 錠を6錠/日、 flutoprazepam 2mg 錠を2錠/日》。薬は対人緊張で困るときの前に服用するよう、対人緊張で困るときが無いときは服用しないよう、指導している。処方分は多少余る傾向にあるが、手持ちが少なくなると不安になることから、このように比較的多量処方を行っている。現在、仕事は対人緊張に苦しみながらも比較的問題無く行っている。
カフェインの入ったコーヒー類は覚醒作用があり、また筋肉を固くさせる、しかしmethylphenidateには筋肉を固くさせる作用が存在しない、却って筋肉は柔らかくなる、そして対人緊張は軽くなる、気分高揚作用が存在し性格を社交的にし、明るく積極的になったと周囲から言われる、と症例は言う。
<症例2>33歳、男性。
主訴:対人緊張
診断:社会不安障害、確信型から緊張型への移行。
家族歴:4人兄弟の第3子、精神科的遺伝負因なし。双生児として生まれた姉が出産時、脳出血を起こし“てんかん”を持ち、本院に入退院を繰り返している。
既往歴:特記すべきことなし
血液・生化学的所見:特記すべき所見なし
神経学的所見:特記すべき所見なし
頭部CT:特記すべき所見なし
WAIS-R:言語性(68)、動作性(70)。
現病歴:発症は中学時代。級友たちから「臭い」と言われ“いじめ”を受け、登校拒否を行う。自宅にて登校拒否中、自己臭妄想となり、対人緊張が発症。幾つかの精神科医院を受診し、自己臭が誤解であることを理解する。しかし対人緊張は少しも軽くならず続く。
現在、フリーアルバイター。対人緊張の治療は現在まで全て一時的な効果で終わったと言う。木材を運ぶ作業中、木材で頭部を強打。本院へ頭部CTを希望して来院。頭部CT上、特記すべき所見なし。このとき、症例の様子を看護婦が異様であると言い、筆者が診察。対人緊張と診断。
症例は中学卒業と共に親元を離れ、自動車製造工場に住み込みで働く。その自動車製造工場にて9年間働いた後、親元に戻り、フリーアルバイターとして過ごす。
初診時よりflunitrazepam 1mg 錠を昼間、対人緊張で困るときの直前に口腔内で溶解させて口腔粘膜より吸収させるよう指示したが、「眠くなり駅を3つも乗り過ごした」と言い、flunitrazepam の服用は症例自ら僅か1回で中止する。
fluvoxamine、milnacipran、 paroxetine を2ヶ月間の期限毎に処方。fluvoxamine、milnacipranは無効であったが、paroxetine のみ服用1日目に劇的な効果を覚える。しかし2日目、3日目と効果を次第に覚えなくなり、2週間で服用を中止する。これは待合室で知り合った症例1より paroxetine を服用し始めて自覚した勃起障害が paroxetine の副作用であることを知らされたためであった。
初診4ヶ月目に flunitrazepam が対人緊張に劇的な効果が存在することを症例は経験する。
症例は濃いコーヒー類を服用しても胃潰瘍薬を服用すると胃は大丈夫であったが、長年の社会不安障害により歪められたと推測される内向的性格傾向が極めて強く、methylphenidate を初診6ヶ月目より投与開始。症例には外向性が出てきた。そして現在まで対人接触のほとんど無いアルバイトのみ行ってきたが、自ら進んでアメリカ系の軽食店で働くようになる。(これは若い女性との接触を求めての行動であった。中学生時、発病以来、症例は若い女性との接触がほとんど無かった。)
現在の処方は《methylphenidate 10mg 錠を3錠/日、flunitrazepam 1mg 錠を2錠/日、bromazepam 5mg 錠を4錠/日、etizolam 1mg 錠を3錠/日、flutoprazepam 2mg 錠を2錠/日》。薬は対人緊張で困るときの前に服用するよう、対人緊張で困るときが無いときは服用しないよう、指導している。症例は勤務先の軽食店に到着した直後、および昼食後にflunitrazepam 1mg 錠、flutoprazepam 2mg 錠、methylphenidate 10mg 錠を1錠ずつ服用している。
bromazepam、 etizolam は対人緊張を和らげるために適宜服用している。処方分は多少余る傾向にあるが、手持ちが少なくなると不安になることから、このように比較的多量処方を行っている。症例は対人緊張に苦しみながらも今までになく充実した毎日を送っている。
この症例もmethylphenidate を服用開始より、明るく積極的で外向的になったと周囲より言われている。
<症例3>24歳、男性。
主訴:対人緊張
診断:社会不安障害、確信型から緊張型への移行。
家族歴:2人兄弟の第1子。祖母が統合失調症の診断の下、精神病院にて死亡。その他、親族に多数、不安障害により精神科通院中の人が存在する。
既往歴:特記すべきことなし
生活歴:正常分娩にて出生。幼少時より特に問題となるエピソードはなかった。高校生時は1年生の頃のみであったが陸上部に所属しており、800mを1分57秒で走り、新人戦で優勝した経験もある。しかし練習しない自分が優勝し、練習を真面目に行っている人が勝てないのはおかしいと悩み込み、退部する。
頭部CT:中~大程度のベルガ腔あり。他に特記すべき所見なし。
ECG:心房性不整脈あり。脈拍は 53/min。
血液・生化学的所見:特記すべき所見なし。
頭部MRI:中~大程度のベルガ腔あり。他に特記すべき所見なし。
24時間ホルターECG:心房性不整脈あるも軽症~中等度であり、ストレスからのものと判断し、抗不整脈薬の投与は見合わせる。脈拍は 50~54/min と少ない。
現病歴:「時おり、心臓がドクドク鳴り、このとき、胸が締め付けられるようになる」「頭が時おり、締め付けられるようになる。痛みはない」「上肢に限局して起こることが多いが、時おり、全身の力が抜ける」など多彩な症状を訴えて受診。心気傾向強くあり。故に上記の様々な検査を「検査する必要性はない」と説得するにも拘わらず聞き入れず、症例が執拗に希望する故、施行する。
bromazepam 5mg錠、etizolam 1mg錠、flutoprazepam 2mg錠をそういう症状が出たときに服用するよう処方する。bromazepam 5mg錠が最も良く合い、他のはあまり良くないと言う。後、 cloxazolam、alprazolam など多種のbenzodiazepine 系の抗不安薬、多種の抗てんかん薬、抗精神病薬、抗うつ薬を試す。そして「レキソタン(bromazepam)が良く合い、他のは合わない、飲む必要性が無い」と言う。強迫性障害の保険病名の下に bromazepam 5mg錠を4錠/日として処方することに落ち着く。症例の仕事は肉体的労働が主であり、対人緊張に困る場面は少ない。
初診より2ヶ月半経過時、「人と一緒に居ると緊張してしまいます。その緊張から心臓など色々な症状が出ています。一人の時は緊張しないから、そういう色々な症状は全く出ません。この緊張は3年前、自分が臭っているという誤解というか妄想のようなものを抱いたときからです。そのときは失恋や両親の離婚などストレスが溜まりきっていました。ノイローゼ状態の時の発症です。精神科に行きました。そして自分の抱いていたものは強いストレス下に生じた誤解であると説明を受けました。そしてなるほどと思いました。良く理解することが出来ました。でも緊張は軽くなりませんでした。3年間、変わりません。3年間、ほとんど軽くも重くもなっていないと思います。そして心臓などの症状が出始めたのは最近です」と言う。この時点で初めて対人緊張の診断が付く。今まで診察や検査を受ける待ち時間に人から離れたところに一人立っていたことに納得が行く。抗うつ薬が対人緊張に良く効くことを説明するも以前、服用した抗うつ薬である fluvoxamine により激しい嘔吐および全身倦怠感を覚えたため抗うつ薬は服用しようとしない。
職業を変更し、対人緊張に困る場面が多くなる。bromazepam 5mg錠 4錠/日のみでは不足するようになる。 etizolam 1mg錠 3錠/日を追加する。更に2週間後、 flutoprazepam 2mg錠 2錠/日を追加する。更に cloxazolam 2mg錠 6錠/日を追加する。不眠も訴え始め、triazolam 0.5mg/日(眠前)も追加する。triazolam 以外は対人緊張で困るときの前に服用するよう、対人緊張で困るときが無いときは服用しないよう、指導している。flunitrazepam は強い眠気のため服用を拒否している。
体の不自由な母親と高校生の弟を抱えながら仕事を真面目に行い家計を支え、対人緊張に苦しみながらも辛うじて社会適応している。
<症例4>22歳、男性。
主訴:対人緊張。
診断:社会不安障害、確信型から緊張型への移行。
家族歴:2人兄弟の第2子、精神科的遺伝負因なし。
既往歴:特記すべきことなし。
血液・生化学的所見:特記すべき所見なし。
神経学的所見:特記すべき所見なし。
頭部CT:特記すべき所見なし。
WAIS-R:言語性(78)、動作性(80)。
現病歴:4年前、初診。症例(Y君とする)は中学1年ほどまでは腕白坊主を絵に描いたような少年だった。しかし、中学2年生辺りから急に物静かになり、人を避け、一人で遊ぶことを好むようになる。勉強こそできていなかったが、美少年で腕白坊主であったクラスの人気者もののY君がそのようになったのは、憧れていた同級生の少女から「臭い」と言われ、その失恋とともに対人緊張発症。同時に幾つかの医院を受診し、自身に「臭い匂い」は無いこと、思春期に非常に頻繁に起こる誤解であることを説明され理解するも、対人緊張は少しも軽快せず、そのまま続く。
人との関わり合いを避けるようになってクラスで居るのか居ないのか解らないような存在になっても、影でY君を慕う少女がいた。同じ学年の以前同じクラスだった少女である。しかしY君はその少女があまり可愛くないため、その少女を避け続けていた。人と一緒にいると緊張するため勉強を行わず、一人で家の周りの猫たちと遊んでいるのが常であった。しかし登校拒否は親が厳しく、ほとんど無かった。高校には行かないと親などに主張していた。そして強制的に受験させられた高校には故意か、全て不合格となり、中卒として社会に出なければなかった。就職先を担任の教師が見つけてきても、全て「自分にはできない」と断り、アルバイトをしてやっていくと言い、それに父親も母親も祖母もやむなく同意し、アルバイト派遣会社に登録し、またアルバイトニュースでアルバイトを見つけては働いた。社会人となって半年余りした頃、一年間のうち忙しいのは春と秋だけという工場に非常勤で働き出した。その工場は1年のうち3ヶ月間が2回、仕事としてあるだけのところであり、冬と夏は他のアルバイトを見つけねばならなかった。工場での春と秋のみそれぞれ3ヶ月間の仕事は、ベルトコンベアで機材が流れてゆくものの中から、これはここ、これはここ、と機材を抜き出す仕事で、対人緊張の強いY君にもできる仕事だった。
冬と夏の仕事のないとき、コンビニエンスストアで働くことは対人緊張の強いY君にはできない仕事だった。外見は良く、コンビニエンスストアに最適に見えるため、勇気を出してコンビニエンスストアで働くことを強く勧めたが、以前、コンビニエンスストアで働いたことがあり「駄目だったんです」と口惜しそうに答える。それならばアメリカ系列の軽食店で働いてみては、と言うと「それも駄目です。やったことがあるんです」とこれも口惜しそうに答える。
初診前からY君の飲酒は始まっていた。初診時すでに「完全自殺マニュアル」など“鶴見済”の著作を幾冊も熟読していた。未来に希望を見失い、自殺の決意は初診時から強かった。
当時は fluvoxamine が発売された直後の頃であった。これは対人緊張を根本的に治癒させる可能性のあるものと説明し、初診時より積極的に投与したが、効果は全く認められなかった。 paroxetine は未発売であった。
抗精神病薬(bromperidol、haloperidol)の投与も行ったが無効であった。発売された直後の milnacipran の投与も行ったが無効であった。
これら薬剤による治療があまり効果が無いことをY君は嘆いていた。しかし自殺する13ヶ月前(初診より4ヶ月目)に flunitrazepam が劇的に効くことを知りY君は希望を見い出したはずだが、すでにアルコールへの耽溺に陥っていたらしい。またflunitrazepam が一時凌ぎのものであり、根本的に治すものではないことを嘆いていた。そのためもあるのか「人格改造マニュアル」に書かれている「アルコールが対人緊張に非常によく効く」という内容を彼は隠れて実行していた。
初診以前に「完全自殺マニュアル」を本屋で立ち読みし、暗記するほどに繰り返し読む。「飛び降り自殺を行って何階から落ちたら苦しまずに死ねるか知っていますか?」と筆者に問うたことがある。そして「人格改造マニュアル」はお金の余裕があったのだろう、書店より購入し、完全にその本に浸りきっていた。
またY君は自殺する9ヶ月前に父親から、森田療法が効く、と言われ森田療法の会に出席したが「効かない」と言って一度行くに留まった。
自殺する6ヶ月前ほどに筆者の知り合いの紹介で測量のアルバイトに通い始めた。しかし、おそらく測量する場所への行き帰りの車の中での対人緊張のためと思われるが、今日はどうだったか電話すると「今日は体が怠くて行きませんでした」などと欠勤が重なり、ここも解雇になる。
自殺する2ヶ月前、父親の推薦で、ある民間団体であるq会の博多祇園山笠の実行委員に任命される。それまでもq会の会員となっていたが、q会の会員が車で誘いに来ないとq会の集まりに参加していなかった。しかし、それからは自ら進んで博多祇園山笠の実行委員のバンドのメンバーとq会の集まりに参加するようになった。彼はボーカリストになっていた。以前の暗い彼ではなく、明るい青年に変わっていた。自分の役割は終わったという安堵感を筆者は思った。
それからは若い博多祇園山笠の実行委員のバンドのメンバーと2日に1度程、博多祇園山笠のその練習に元気に参加していた。
自殺する1週間前、筆者の診察室に元気に立ち寄った。このときは病院のすぐ近くにあるカラオケハウスの従業員の面接に行く直前であった。そして「デパス(etizolam)も効きます。これで効くクスリが2つになった」と言って喜んでいた。(etizolam は今まで0.5mg錠を処方していたが、前回より1mg錠に変更した)最後に、ネクタイを締めて立ち去った。
自殺する3日前、再び突然来院し「抗うつ薬が良く効くと本屋で読みました。でも自分には以前あれだけ飲んだのに効きませんでした。先生が勧めるmoclobemide は買う金がありませんし、moclobemide も抗うつ薬ですから、以前の抗うつ薬と同じように自分には副作用だけで効かないと思います。それからデパスは1日何錠まで飲んで良いのでしょう」と言う。彼はこの日、呂律がよく回らなかった。彼はこの日、アルコールを飲んで来院していた。今までにないことだった。しかし彼はアルコールのことを隠し続けた。筆者も深くは問わなかった。そして退室するとき、こう言った。「僕は人が好きなんです。でも、それを阻んでいるものがあるんです」
そしてそれから3日後、Y君はアルコール泥酔状態の中、遺書を残し、祖母の妹のマンションの8階から飛び降り自殺した。
<症例5>27歳、男性。
主訴:対人緊張。
診断:社会不安障害、緊張型(疑)。後、統合失調症と診断名が変わる。
家族歴:2人兄弟の第1子、精神科的遺伝負因なし。
既往歴:特記すべきことなし。
血液・生化学的所見:特記すべき所見なし。
神経学的所見:特記すべき所見なし。
頭部CT:特記すべき所見なし。
現病歴:大学卒業の年である4年時(22歳時)、12月頃、強い対人緊張を自覚。このとき、片思いの末の失恋や、数名の男性から暴行を受け頭部を怪我するなど、ストレスが重なっていた。
処方内容より、最近2年間は社会恐怖と診断され治療されていた。2ヶ月前より、sulpiride 150mg/日・分3を処方され、その副作用で体重が2ヶ月間の内に30kg増えた(症例は薬物に過敏なところが存在する)、として本院へ転院希望して来院。筆者が主治医となる。
「人の居るところへ行くと、緊張して、自分の表情が硬く強張り、周りの人に変に思われるし、迷惑を掛ける」「表情が硬く強張ると、周りの人に変に思われるので、人の居るところに行くのがとても苦痛なのです」と言う。性格の偏りは全く見受けられない。極めて素直で穏やかである。対人緊張として治療開始。
sulpirideが投与される直前の処方に fluvoxamine が有り、その投薬は2ヶ月間続いていた。「これを飲んでいる間、身体がとても具合が悪かった。これは革命的な薬でこれで良くなると言われて我慢して飲んでいたけど、症状は少しも改善されなかった」と言う。症例は精神科の薬に対し非常に懐疑的になっており、前医で処方され服用して自身に合っていたというclonazepam のみ処方を希望する。clonazepam のみでなく漢方薬も処方すると言うと「自分は漢方薬が欲しかったのです」と笑顔で答える。clonazepam と漢方薬の抑肝散のみの処方とする。以来、この処方が続く。
2回目の診察時、待合室で待っているとき緊張して苦しいと訴え、症例は来院せず、母親のみ来院。以来、母親のみ来院するようになる。時折、電話にて症例と薬のことなどを会話することを行う。電話にては非常に素直。また、医院のすぐ近くに住んでいたため、筆者が夜、訪問したり、一緒にジョギングをすることも、しばしば有った。この状態が2年間続く。症例は昼間は両親が共働きであるため自宅に一人で閉じ籠もり、夜、母親とジョギングをするという毎日を送る。
本人の“とじこもり”状態強いため、いつものclonazepam と抑肝散の処方に、これを服用して外出するようメモし flunitrazepam 1mg 錠を加える。しかし flunitrazepam を服用すると「気分がハイになり、抑えが効かなくなった」と電話してくる。統合失調症の脱抑制と推測し、flunitrazepam の服用を中止するよう指示する。このとき、母親から症例の手記を手渡される。それは症例の対人緊張が発症した同じ時期である大学4年時の12月より書かれているもので、隣の一人暮らしの老人に対する被害妄想が綿々と記されてあった。risperidone を処方して母親に渡すも、症例は服用せず。
これより9ヶ月後、「近所の家から電波を頭に掛けられている、その家に抗議に行きたい」と電話を掛けてくる。筆者は医院よりすぐ近くの症例の家へ自転車で駆けつけ、症例とともにその家の玄関まで行き、この家は暴力団らしいから抗議したら物騒だ、などと言い含め(性格は極めて素直で穏やかである)、抗議することを中止させる。同時にrisperidone を服用するようrisperidone を入れた処方箋袋を手渡す。risperidone 服用にて妄想は収まる。同時に対人緊張もほぼ消失。以来、risperidone 4~6mg/日単剤服用(昼間服用。夜間の不眠はない。自ら服用量はコントロールしている。)し、現在、明るく元気になり、父親の営む鮮魚店を手伝っている。症例は、生来、神経質でない性格だった故に、妄想が治まるとともに対人緊張も消失していった。症例は、生来、神経質でない性格だった故に、加害念慮、忌避念慮が存在していたとき、そのときの対人緊張は強かったが、条件反射(緊張反射)はほとんど形成されずに留まったと推測される。
【考察】
社会不安障害、それは孤独との戦いである。孤独との、いつ果てるとも知れぬ戦いである。戦いに疲れている患者は日本全国に多数存在していると思われる。そして世界中にはもっと多数の戦いに疲れている患者が存在していると思われる。現在、ある種の抗うつ薬など対人緊張に効能があるとされる薬剤が複数発売されている。しかしそれも軽快そして寛解まで持ってゆくことは重症の症例に対しては困難を極めている。
社会不安障害の患者にはリビドー(活力・精力)の亢進と抑圧が見られる。社会不安障害の患者は肉体的精神的過緊張を持つ、それがリビドーの亢進となる。また社会不安障害の患者は対人緊張のため内向的に成らざるを得ない。そのリビドーの抑圧が肉体的精神的過緊張を形成する。その悪循環が形成されている。
対人緊張に対して、日本には古くから森田療法8,9,18)が存在する。筆者は社会不安障害の患者に対し、「薬を服用しながら“あるがままに生きれ”。それが10年、20年続こうと“あるがままに生きれ”。“てんかん”のような病気だと思え。」と指導している。
対人緊張は重症になればベンゾジアゼピン系抗不安薬なしには社会生活を正常に送ることは極めて困難である。“ひきこもり”に近い毎日からベンゾジアゼピン系抗不安薬を服用し始めると患者は生き返ったように“ひきこもり”を脱し、外向的で明るくなることが頻繁に見られる。海外ではSSRIs の有効性が言われているが、筆者の経験では未だSSRIs が効果が有ったと症例は存在しない。
筆者は、対人緊張を次のsubtype に分けている。このsubtype で解るように問題となるのは重症である。
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軽症:抗不安薬などの服用無しに比較的満足に社会生活を送って行ける。
(これは恥ずかしがり屋、はにかみや、そして極く軽症の赤面、極く軽症の書痙、極く軽症の表情の強張りなどに相当する。)
中等度:抗不安薬などの服用を行い、比較的満足に社会生活を送って行ける。
(生来、神経質でない性格だった人が対人緊張を発症した場合、よく見られる。)
重症:効力の強い抗不安薬などの比較的大量服用を行い、辛うじて社会生活を送って行ける。
(生来、神経質な性格だった人が対人緊張を発症した場合、よく見られる。)
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社会恐怖と対人恐怖の概念は等しくなく相違が存在する。対人恐怖は、社会恐怖とほぼ等しい緊張型対人恐怖と、関係妄想・前分裂症症状を伴う確信型対人恐怖に分けられる34~36)。
社会不安障害の特徴36)は以下となっている。「自己の視線、体臭など身体的欠陥のため、周囲に不快感を与え(加害念慮)、結果として他者から蔑まれ避けられる(忌避念慮)。」
これら緊張反射、心的外傷を解きほぐすのは、患者が神経質な場合、至難の業である。また、加害念慮・忌避念慮を理解・納得しても、患者が神経質な場合、加害念慮・忌避念慮は条件反射として存続することが極めて多い。
flunitrazepam は鎮静催眠薬として使用されているが、症例1は「これを服用すると身体が非常に解れる、とくに広背筋が解れる、その故か対人緊張が非常に和らぐ、この他の抗不安薬・鎮静催眠薬でも対人緊張が和らぐが不充分である」と言う。これは症例2に於いても同じである。広背筋の筋緊張と対人緊張の強さが比例する症例を幾例も経験している。
flunitrazepam は昼間服用するため 2mg 錠では調節が困難と考え 1mg 錠を頻用している。他のベンゾジアゼピン系薬物は何mg錠を処方するかは症例個々の好みに従っている。
社会不安障害には特に男性患者に於いてflunitrazepam 1日 2mg では不足であり1日 3mg(朝・昼) また1日 4mg (朝・昼)として使用せざるを得ないことが頻繁に存在する。flunitrazepam は他のベンゾジアゼピン系薬物と比較して催眠作用が強く、それ故にもmethylphenidate 併用の必要性がある。
今回のようにmethylphenidateを併用したのは初めてのことである。今まで対人緊張にmethylphenidate が使用された報告は見当たらず、methylphenidate の併用は未だこの2症例のみであるが、flunitrazepam の催眠作用を和らげるため、社会不安障害の患者の避けられない自閉傾向を緩和させるため、また明るく外向的で積極的になる、と2症例が主張するため、今後は併用する予定である。
症例5ではrisperidone 4~6mg/日の服用により劇的に対人緊張が和らぎ、それまでの強い“ひきこもり”より脱し、家業を不足なしに手伝えるようになった。この症例は統合失調症の妄想に依る激しい対人緊張を示していた。妄想が存在しながらも症例はそれを妄想とは思わず真実と思っていた。このような例も少数存在すると推測する。この症例には肘圧療法が奏功していた。
対人緊張は肉体的過緊張と精神的過緊張がその基盤に存在している。そのため筆者は社会不安障害の患者の肉体的精神的過緊張を弛めるため、社会不安障害の患者を診察台にうつ伏せに寝かせ、後背部を肘で圧して広背筋を弛める治療を行うこともある。社会不安障害の患者の広背筋は共通して異常に硬化している。その硬さが精神的過緊張に繋がっていると認識している。また、精神的過緊張が広背筋の異常な硬化を招いていると認識している。この肘圧療法を受けた患者は、身体だけでなく心も解れる、と共通して言う。
仏教には「心身不二」という思想がある12)。心と身体は別ではなく同じである、という考えである。故に「身体を解せば心も解れる」との考えの下に肘圧療法を施すが、筆者の腕の拙さ故、一時的効果のみ得られるだけである。
あるストレスまたは心的外傷が肉体的精神的過緊張を生み対人緊張が発症すると考える。また、肉体的精神的過緊張という基盤の下にある種のストレスまたは心的外傷が加わり対人緊張が発症するとも考える。そしてその肉体的精神的過緊張という基盤が弛むとともに対人緊張も軽症化してゆくと確信する。しかし生来、神経質な性格だった患者の一度形成された肉体的精神的過緊張の悪循環を軽くすること・消失させることは非常に難しい。
筆者は社会不安障害の患者全員に運動を強く勧めている。また、できる限り激しい運動を行うよう強く勧めている。社会不安障害の患者は若く、元気である。またリビドーの鬱積がある。激しい運動を行うことにより肉体的精神的過緊張は弛んでゆく。そして心の過敏性も軽快してゆく。肉体的精神的過緊張を弛めるよう、できる限り激しいスポーツのスポーツクラブに入るように強く勧めている。柔道、ラクビー、ボクシングなどを勧めている。これらは行動療法になり、また、症例の孤独を防ぐためにも勧めている。
これら激しいスポーツにより社会不安障害が軽症化傾向にある患者を複数経験している。
【最後に】
ベンゾジアゼピン系薬物は常用により効力が弱まるため、必要性の無い時にはベンゾジアゼピン系薬物は服用しないよう、対人緊張を避けたい場面の有る時のみ服用するよう指導している。また、対人緊張を避けたい場面が無い休日などには休薬日(drug holiday)をできる限り設けるよう指導している。
flunitrazepam のその効用と使用法は少なくとも日本の精神医学書には見出せなかった。筆者は症例4よりflunitrazepam を昼間服用すると非常に効果的であるという情報を得た。
以来、社会不安障害の患者に対しflunitrazepam を夜間の催眠薬としてではなく、対人緊張を避けたい場面の有る時のみ服用するよう指導している。そしてその他のベンゾジアゼピン系薬物も同じく、対人緊張を避けたい場面の有る時のみ服用するよう指導している。また、口腔内溶解させ口腔粘膜より吸収させると効果の発現が早いことも強調して指導している。
一度形成された条件反射を消すのは難しい。症例毎にその条件反射の形成された基盤は異なる。その基盤を取り除くことも難しい。
筆者は現在、丹田呼吸法に社会不安障害治療への道を模索しつつある。これは肉体的精神的過緊張を弛めるための最善の方法と考え行っている。
---flunitrazepam の社会不安障害への有効性を示唆した今は亡きY君に捧ぐ---
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:Two Case of Social Phobia, Flunitrazepam and Methylphenidate Dramatically Effected.
http://sky.geocities.jp/mmm82888/2975.htm
社会不安障害の研究
カメ太郎
【抄録】
筆者は3年前より社会不安障害に対して flunitrazepam を使用し、多数の成功を収めた。flunitrazepam の社会不安障害に奏功する機序は flunitrazepam には強い抗不安作用が存在し、その作用で奏功すると推測する。しかし、副作用として強い眠気がある。
【key words】Social anxiety disorder, Flunitrazepam, benzodiazepine
【はじめに】
現在まで筆者は社会不安障害に対し flunitrazepam を頻用し、それも対人緊張を避けたい場面の直前に口腔内溶解させ口腔粘膜より吸収させるよう指導してきた。他のベンゾジアゼピン系薬物では社会不安障害に対しては対人緊張を弛めることが不充分である。
そして最近は flunitrazepam と methylphenidate を同時処方し、2例の成功を収めている。この2例は、methylphenidate を服用すると対人緊張は弱くなる、と言う。対人緊張に対し methylphenidate を用いた経験はこの2例が初めてである。
methylphenidate は覚醒作用が存在するため対人緊張を強めると短絡的には考えられる。しかし、methylphenidate を服用すると、活動性の亢進、積極性の向上、精神の安定化を認め、そして対人緊張は弱くなる、と2症例は言う。症例1は methylphenidate を服用すると身体が柔らかくなると言う。それ故に対人緊張が弛むとも推測される。
筆者が社会不安障害の患者に対し頻用している flunitrazepam は一時的効果のみ得ることが出来、根治あるいは略治に持って行くことができた例は現在まで一例もない。flunitrazepam には強い催眠作用が存在するため methylphenidate との併用は合理的と思われる。
症例1は生来、胃弱であり、flunitrazepam の催眠作用を弱めるために飲用するコーヒーなどで治療抵抗性の胃潰瘍を併発した。
症例2は自閉傾向極めて強かった。
症例3は心気傾向強い社会不安障害である。 症例は対人緊張を多少覚えるのみの肉体労働に従事していたときは bromazepam を少量服用するのみで充分であった。しかし職場が変わり、対人緊張に困る場面が多くなる。etizolam、 flutoprazepam、 cloxazolam と加えてゆき、現在、対人緊張に苦しみながらも辛うじて社会適応している。flunitrazepam は眠気のため服用できないでいる。心房細動を持つためmethylphenidate を使用し難いが、次回より methylphenidate を flunitrazepam とともに併用する予定である。抗不整脈薬である disopyramide phosphate の併用が必要となると考えられる。
症例4は筆者の努力及ばず、自殺した。
症例5は社会不安障害として治療されてきた。しかしこれは統合失調症の妄想に基づく対人緊張であった。抗精神病薬の服用を開始すると妄想とともに、生来、神経質な性格でなかった故に、対人緊張も軽快(寛解に近い)していった。
症例1から症例4まで、幸運にも発病初期に医師より自己臭などが思春期に頻繁に見られる誤解・妄想であることを指摘され理解・納得したが、生来、神経質な性格だった故に、対人緊張はそのまま存続した。
【症例】
<症例1>39歳、男性。
主訴:対人緊張
診断:社会不安障害、確信型から緊張型への移行。
家族歴:3人兄弟の第3子。精神科的遺伝負因なし
血液生化学的所見:特記すべき所見なし
神経学的所見:特記すべき所見なし
頭部CT:特記すべき所見なし
脳波:特記すべき所見なし
既往歴:幼少時より軽症の吃音あり。幼少時より神経質であった。
生育歴:特記すべきものなし
現病歴:高校3年時、中学3年時よりの長い片思いの2歳年下の少女といつも同じスクールバスであった。その少女とは小学5年時、および中学1年時にその少女の父親が経営する小さな写真店でカメラの現像のフィルムを渡すとき、僅かな会話を行ったのみである。一年間の同じスクールバスで症例は座れたが、その少女は座れず、順序的にいつも症例の座っている横に少女は少女の同級生と立っていた。その2人の少女の会話を座って勉強しながら聞くことが、幸せであったという。症例はその少女と結局、高校3年時、一度も会話することはなかった。
高校3年の終わり、受験勉強の最後の追い込み、およびその少女への長い片思いへの煩悶、それらがストレスになり、軽症であった吃音が国語の本も読めないほど重篤化する。高校3年の終わり、恋愛妄想めいたものが存在していた。激しいストレス下、大学入試2次試験の1週間ほど前、自己臭妄想(誤解)が出現。対人緊張が発症する。
大学受験が終わった翌日、大学病院へ対人緊張(自己臭)のことで受診。医師より、自己臭は誤解であること、思春期に非常に多い誤解であることを懇切に説明される。自己臭妄想(誤解)は消失。しかし発症して間もない対人緊張はそのまま存続。
対人緊張のため現役時、大学受験失敗。一浪後、現役時にも容易に合格できていた大学へやむなく進む。
対人緊張に悩み苦しみながらも大学時代より宗教を熱心に行い、その宗教を心の支えにして生きてきた。
症例は大学時代より対人緊張に対し精神科医院にて治療を受けてきた。三環形抗うつ薬の投薬も受けたが、症例は三環形抗うつ薬の抗コリン作用に敏感であり、元来の持病であった吃音が極めて重症となり人と話すことさえ不可能になると訴え最初の2ヶ月間で投薬を中止された経歴がある。また2ヶ月間投薬されたが服用したのは2回のみであると言う。
気功法、ヨガ、絶食療法、玄米自然食、整体、鍼、森田療法、歯の噛み合わせで病気を治す治療法であるテンプレート療法、ほぼ毎日の激しいランニングなど、数多くの治療法を受け、また行ってきたが、全て一時的または僅かな効果しか得られなかった。
5年半前、頭部CTを希望して本院初診。それ以来、筆者が主治医となり、ベンゾジアゼピン系薬物(bromazepam、 cloxazolam、 flutoprazepamなど)のみの処方を行う。
前医院で血中ノルアドレナリン濃度が正常上限であったこと、それ故、軽症の褐色細胞腫をも疑われたが、精査されないでいたと言う。しかし、神経質な人は血中ノルアドレナリン濃度が正常上限になることが多いことを説明する。
症例は会社に着いた直後 bromperidol 3mg 錠を1錠服用し、夕刻まで対人緊張をほとんど自覚しなかった経験を持つ。しかし症例は、その日は対人緊張を自覚する機会がほとんど無かったこと、前立腺肥大がありbromperidol の副作用であるパーキンソンニズムを防ぐための抗コリン剤を服用することが極めて難しいこと、それらの理由によりbromperidol を服用するのを拒否する。パーキンソンニズムの副作用を防ぐ薬剤として amantadine、 droxidopa という前立腺肥大が有っても使用可能なものが存在すると説明を行うも、その日は対人緊張を自覚する機会がほとんど無かった故であると主張し、bromperidol の服用を拒否し続ける。haloperidol 3mg 錠、risperidone 1mg 錠、sulpiride 200mg 錠をbromperidol 3mg 錠を服用する以前に服用したことがあるが、全く無効であったことも理由となっている。
症例は sodium valproate(徐方剤)を出社直後に服用し、対人緊張が非常に和らいだ経験も持つ。しかしそれは朝1200mgという大量服用であり、肝機能障害を怖れ、また異常な飢餓感に襲われる経験もし、6回ほどのその大量服用を行った後、中止する。1日目の大量服用の時は対人緊張に劇的なほど効果があったが、2日目より効果は次第に弱くなっていった。症例には脳波上、異常所見らしきものは存在しない。
SSRI(serotonine selective reuptake inhibitor) が対人緊張に奏功する情報を症例自身、インターネットより得、SSRIの使用を懇願する。SSRIの投薬を開始する。fluvoxamine、milnacipran、 paroxetine と2ヶ月の期限おきに使用してゆく6)。 paroxetine のみ効果有り。服用1日目は劇的に効果を自覚。しかし、2日目、3日目と急激に効果が弱くなるのを自覚。かつ、インターネットより情報入手した paroxetine の副作用である勃起障害を嫌い、1週間ほどの服用で中止する。そして症例自身、対人緊張に paroxetine よりも良く効くとインターネットより情報入手したmoclobemide を個人輸入し、対人緊張を治したい一心で8ヶ月間に渡り服用する。しかし無効であった。
flunitrazepam の投与を開始するも、他のベンゾジアゼピン系薬物と異なり催眠作用が強いため眠気を弱めるためにコーヒーなどを服用するが、遺伝的に胃が弱く、胃潰瘍が発生し、最も効果的とされる胃潰瘍の治療を行ったが効果は判然とせず。よってmethylphenidate の投薬を開始。
現在の処方は《methylphenidate 10mg 錠を3錠/日、flunitrazepam 1mg 錠を2錠/日、bromazepam 5mg 錠を4錠/日、etizolam 0.5mg 錠を6錠/日、 flutoprazepam 2mg 錠を2錠/日》。薬は対人緊張で困るときの前に服用するよう、対人緊張で困るときが無いときは服用しないよう、指導している。処方分は多少余る傾向にあるが、手持ちが少なくなると不安になることから、このように比較的多量処方を行っている。現在、仕事は対人緊張に苦しみながらも比較的問題無く行っている。
カフェインの入ったコーヒー類は覚醒作用があり、また筋肉を固くさせる、しかしmethylphenidateには筋肉を固くさせる作用が存在しない、却って筋肉は柔らかくなる、そして対人緊張は軽くなる、気分高揚作用が存在し性格を社交的にし、明るく積極的になったと周囲から言われる、と症例は言う。
<症例2>33歳、男性。
主訴:対人緊張
診断:社会不安障害、確信型から緊張型への移行。
家族歴:4人兄弟の第3子、精神科的遺伝負因なし。双生児として生まれた姉が出産時、脳出血を起こし“てんかん”を持ち、本院に入退院を繰り返している。
既往歴:特記すべきことなし
血液・生化学的所見:特記すべき所見なし
神経学的所見:特記すべき所見なし
頭部CT:特記すべき所見なし
WAIS-R:言語性(68)、動作性(70)。
現病歴:発症は中学時代。級友たちから「臭い」と言われ“いじめ”を受け、登校拒否を行う。自宅にて登校拒否中、自己臭妄想となり、対人緊張が発症。幾つかの精神科医院を受診し、自己臭が誤解であることを理解する。しかし対人緊張は少しも軽くならず続く。
現在、フリーアルバイター。対人緊張の治療は現在まで全て一時的な効果で終わったと言う。木材を運ぶ作業中、木材で頭部を強打。本院へ頭部CTを希望して来院。頭部CT上、特記すべき所見なし。このとき、症例の様子を看護婦が異様であると言い、筆者が診察。対人緊張と診断。
症例は中学卒業と共に親元を離れ、自動車製造工場に住み込みで働く。その自動車製造工場にて9年間働いた後、親元に戻り、フリーアルバイターとして過ごす。
初診時よりflunitrazepam 1mg 錠を昼間、対人緊張で困るときの直前に口腔内で溶解させて口腔粘膜より吸収させるよう指示したが、「眠くなり駅を3つも乗り過ごした」と言い、flunitrazepam の服用は症例自ら僅か1回で中止する。
fluvoxamine、milnacipran、 paroxetine を2ヶ月間の期限毎に処方。fluvoxamine、milnacipranは無効であったが、paroxetine のみ服用1日目に劇的な効果を覚える。しかし2日目、3日目と効果を次第に覚えなくなり、2週間で服用を中止する。これは待合室で知り合った症例1より paroxetine を服用し始めて自覚した勃起障害が paroxetine の副作用であることを知らされたためであった。
初診4ヶ月目に flunitrazepam が対人緊張に劇的な効果が存在することを症例は経験する。
症例は濃いコーヒー類を服用しても胃潰瘍薬を服用すると胃は大丈夫であったが、長年の社会不安障害により歪められたと推測される内向的性格傾向が極めて強く、methylphenidate を初診6ヶ月目より投与開始。症例には外向性が出てきた。そして現在まで対人接触のほとんど無いアルバイトのみ行ってきたが、自ら進んでアメリカ系の軽食店で働くようになる。(これは若い女性との接触を求めての行動であった。中学生時、発病以来、症例は若い女性との接触がほとんど無かった。)
現在の処方は《methylphenidate 10mg 錠を3錠/日、flunitrazepam 1mg 錠を2錠/日、bromazepam 5mg 錠を4錠/日、etizolam 1mg 錠を3錠/日、flutoprazepam 2mg 錠を2錠/日》。薬は対人緊張で困るときの前に服用するよう、対人緊張で困るときが無いときは服用しないよう、指導している。症例は勤務先の軽食店に到着した直後、および昼食後にflunitrazepam 1mg 錠、flutoprazepam 2mg 錠、methylphenidate 10mg 錠を1錠ずつ服用している。
bromazepam、 etizolam は対人緊張を和らげるために適宜服用している。処方分は多少余る傾向にあるが、手持ちが少なくなると不安になることから、このように比較的多量処方を行っている。症例は対人緊張に苦しみながらも今までになく充実した毎日を送っている。
この症例もmethylphenidate を服用開始より、明るく積極的で外向的になったと周囲より言われている。
<症例3>24歳、男性。
主訴:対人緊張
診断:社会不安障害、確信型から緊張型への移行。
家族歴:2人兄弟の第1子。祖母が統合失調症の診断の下、精神病院にて死亡。その他、親族に多数、不安障害により精神科通院中の人が存在する。
既往歴:特記すべきことなし
生活歴:正常分娩にて出生。幼少時より特に問題となるエピソードはなかった。高校生時は1年生の頃のみであったが陸上部に所属しており、800mを1分57秒で走り、新人戦で優勝した経験もある。しかし練習しない自分が優勝し、練習を真面目に行っている人が勝てないのはおかしいと悩み込み、退部する。
頭部CT:中~大程度のベルガ腔あり。他に特記すべき所見なし。
ECG:心房性不整脈あり。脈拍は 53/min。
血液・生化学的所見:特記すべき所見なし。
頭部MRI:中~大程度のベルガ腔あり。他に特記すべき所見なし。
24時間ホルターECG:心房性不整脈あるも軽症~中等度であり、ストレスからのものと判断し、抗不整脈薬の投与は見合わせる。脈拍は 50~54/min と少ない。
現病歴:「時おり、心臓がドクドク鳴り、このとき、胸が締め付けられるようになる」「頭が時おり、締め付けられるようになる。痛みはない」「上肢に限局して起こることが多いが、時おり、全身の力が抜ける」など多彩な症状を訴えて受診。心気傾向強くあり。故に上記の様々な検査を「検査する必要性はない」と説得するにも拘わらず聞き入れず、症例が執拗に希望する故、施行する。
bromazepam 5mg錠、etizolam 1mg錠、flutoprazepam 2mg錠をそういう症状が出たときに服用するよう処方する。bromazepam 5mg錠が最も良く合い、他のはあまり良くないと言う。後、 cloxazolam、alprazolam など多種のbenzodiazepine 系の抗不安薬、多種の抗てんかん薬、抗精神病薬、抗うつ薬を試す。そして「レキソタン(bromazepam)が良く合い、他のは合わない、飲む必要性が無い」と言う。強迫性障害の保険病名の下に bromazepam 5mg錠を4錠/日として処方することに落ち着く。症例の仕事は肉体的労働が主であり、対人緊張に困る場面は少ない。
初診より2ヶ月半経過時、「人と一緒に居ると緊張してしまいます。その緊張から心臓など色々な症状が出ています。一人の時は緊張しないから、そういう色々な症状は全く出ません。この緊張は3年前、自分が臭っているという誤解というか妄想のようなものを抱いたときからです。そのときは失恋や両親の離婚などストレスが溜まりきっていました。ノイローゼ状態の時の発症です。精神科に行きました。そして自分の抱いていたものは強いストレス下に生じた誤解であると説明を受けました。そしてなるほどと思いました。良く理解することが出来ました。でも緊張は軽くなりませんでした。3年間、変わりません。3年間、ほとんど軽くも重くもなっていないと思います。そして心臓などの症状が出始めたのは最近です」と言う。この時点で初めて対人緊張の診断が付く。今まで診察や検査を受ける待ち時間に人から離れたところに一人立っていたことに納得が行く。抗うつ薬が対人緊張に良く効くことを説明するも以前、服用した抗うつ薬である fluvoxamine により激しい嘔吐および全身倦怠感を覚えたため抗うつ薬は服用しようとしない。
職業を変更し、対人緊張に困る場面が多くなる。bromazepam 5mg錠 4錠/日のみでは不足するようになる。 etizolam 1mg錠 3錠/日を追加する。更に2週間後、 flutoprazepam 2mg錠 2錠/日を追加する。更に cloxazolam 2mg錠 6錠/日を追加する。不眠も訴え始め、triazolam 0.5mg/日(眠前)も追加する。triazolam 以外は対人緊張で困るときの前に服用するよう、対人緊張で困るときが無いときは服用しないよう、指導している。flunitrazepam は強い眠気のため服用を拒否している。
体の不自由な母親と高校生の弟を抱えながら仕事を真面目に行い家計を支え、対人緊張に苦しみながらも辛うじて社会適応している。
<症例4>22歳、男性。
主訴:対人緊張。
診断:社会不安障害、確信型から緊張型への移行。
家族歴:2人兄弟の第2子、精神科的遺伝負因なし。
既往歴:特記すべきことなし。
血液・生化学的所見:特記すべき所見なし。
神経学的所見:特記すべき所見なし。
頭部CT:特記すべき所見なし。
WAIS-R:言語性(78)、動作性(80)。
現病歴:4年前、初診。症例(Y君とする)は中学1年ほどまでは腕白坊主を絵に描いたような少年だった。しかし、中学2年生辺りから急に物静かになり、人を避け、一人で遊ぶことを好むようになる。勉強こそできていなかったが、美少年で腕白坊主であったクラスの人気者もののY君がそのようになったのは、憧れていた同級生の少女から「臭い」と言われ、その失恋とともに対人緊張発症。同時に幾つかの医院を受診し、自身に「臭い匂い」は無いこと、思春期に非常に頻繁に起こる誤解であることを説明され理解するも、対人緊張は少しも軽快せず、そのまま続く。
人との関わり合いを避けるようになってクラスで居るのか居ないのか解らないような存在になっても、影でY君を慕う少女がいた。同じ学年の以前同じクラスだった少女である。しかしY君はその少女があまり可愛くないため、その少女を避け続けていた。人と一緒にいると緊張するため勉強を行わず、一人で家の周りの猫たちと遊んでいるのが常であった。しかし登校拒否は親が厳しく、ほとんど無かった。高校には行かないと親などに主張していた。そして強制的に受験させられた高校には故意か、全て不合格となり、中卒として社会に出なければなかった。就職先を担任の教師が見つけてきても、全て「自分にはできない」と断り、アルバイトをしてやっていくと言い、それに父親も母親も祖母もやむなく同意し、アルバイト派遣会社に登録し、またアルバイトニュースでアルバイトを見つけては働いた。社会人となって半年余りした頃、一年間のうち忙しいのは春と秋だけという工場に非常勤で働き出した。その工場は1年のうち3ヶ月間が2回、仕事としてあるだけのところであり、冬と夏は他のアルバイトを見つけねばならなかった。工場での春と秋のみそれぞれ3ヶ月間の仕事は、ベルトコンベアで機材が流れてゆくものの中から、これはここ、これはここ、と機材を抜き出す仕事で、対人緊張の強いY君にもできる仕事だった。
冬と夏の仕事のないとき、コンビニエンスストアで働くことは対人緊張の強いY君にはできない仕事だった。外見は良く、コンビニエンスストアに最適に見えるため、勇気を出してコンビニエンスストアで働くことを強く勧めたが、以前、コンビニエンスストアで働いたことがあり「駄目だったんです」と口惜しそうに答える。それならばアメリカ系列の軽食店で働いてみては、と言うと「それも駄目です。やったことがあるんです」とこれも口惜しそうに答える。
初診前からY君の飲酒は始まっていた。初診時すでに「完全自殺マニュアル」など“鶴見済”の著作を幾冊も熟読していた。未来に希望を見失い、自殺の決意は初診時から強かった。
当時は fluvoxamine が発売された直後の頃であった。これは対人緊張を根本的に治癒させる可能性のあるものと説明し、初診時より積極的に投与したが、効果は全く認められなかった。 paroxetine は未発売であった。
抗精神病薬(bromperidol、haloperidol)の投与も行ったが無効であった。発売された直後の milnacipran の投与も行ったが無効であった。
これら薬剤による治療があまり効果が無いことをY君は嘆いていた。しかし自殺する13ヶ月前(初診より4ヶ月目)に flunitrazepam が劇的に効くことを知りY君は希望を見い出したはずだが、すでにアルコールへの耽溺に陥っていたらしい。またflunitrazepam が一時凌ぎのものであり、根本的に治すものではないことを嘆いていた。そのためもあるのか「人格改造マニュアル」に書かれている「アルコールが対人緊張に非常によく効く」という内容を彼は隠れて実行していた。
初診以前に「完全自殺マニュアル」を本屋で立ち読みし、暗記するほどに繰り返し読む。「飛び降り自殺を行って何階から落ちたら苦しまずに死ねるか知っていますか?」と筆者に問うたことがある。そして「人格改造マニュアル」はお金の余裕があったのだろう、書店より購入し、完全にその本に浸りきっていた。
またY君は自殺する9ヶ月前に父親から、森田療法が効く、と言われ森田療法の会に出席したが「効かない」と言って一度行くに留まった。
自殺する6ヶ月前ほどに筆者の知り合いの紹介で測量のアルバイトに通い始めた。しかし、おそらく測量する場所への行き帰りの車の中での対人緊張のためと思われるが、今日はどうだったか電話すると「今日は体が怠くて行きませんでした」などと欠勤が重なり、ここも解雇になる。
自殺する2ヶ月前、父親の推薦で、ある民間団体であるq会の博多祇園山笠の実行委員に任命される。それまでもq会の会員となっていたが、q会の会員が車で誘いに来ないとq会の集まりに参加していなかった。しかし、それからは自ら進んで博多祇園山笠の実行委員のバンドのメンバーとq会の集まりに参加するようになった。彼はボーカリストになっていた。以前の暗い彼ではなく、明るい青年に変わっていた。自分の役割は終わったという安堵感を筆者は思った。
それからは若い博多祇園山笠の実行委員のバンドのメンバーと2日に1度程、博多祇園山笠のその練習に元気に参加していた。
自殺する1週間前、筆者の診察室に元気に立ち寄った。このときは病院のすぐ近くにあるカラオケハウスの従業員の面接に行く直前であった。そして「デパス(etizolam)も効きます。これで効くクスリが2つになった」と言って喜んでいた。(etizolam は今まで0.5mg錠を処方していたが、前回より1mg錠に変更した)最後に、ネクタイを締めて立ち去った。
自殺する3日前、再び突然来院し「抗うつ薬が良く効くと本屋で読みました。でも自分には以前あれだけ飲んだのに効きませんでした。先生が勧めるmoclobemide は買う金がありませんし、moclobemide も抗うつ薬ですから、以前の抗うつ薬と同じように自分には副作用だけで効かないと思います。それからデパスは1日何錠まで飲んで良いのでしょう」と言う。彼はこの日、呂律がよく回らなかった。彼はこの日、アルコールを飲んで来院していた。今までにないことだった。しかし彼はアルコールのことを隠し続けた。筆者も深くは問わなかった。そして退室するとき、こう言った。「僕は人が好きなんです。でも、それを阻んでいるものがあるんです」
そしてそれから3日後、Y君はアルコール泥酔状態の中、遺書を残し、祖母の妹のマンションの8階から飛び降り自殺した。
<症例5>27歳、男性。
主訴:対人緊張。
診断:社会不安障害、緊張型(疑)。後、統合失調症と診断名が変わる。
家族歴:2人兄弟の第1子、精神科的遺伝負因なし。
既往歴:特記すべきことなし。
血液・生化学的所見:特記すべき所見なし。
神経学的所見:特記すべき所見なし。
頭部CT:特記すべき所見なし。
現病歴:大学卒業の年である4年時(22歳時)、12月頃、強い対人緊張を自覚。このとき、片思いの末の失恋や、数名の男性から暴行を受け頭部を怪我するなど、ストレスが重なっていた。
処方内容より、最近2年間は社会恐怖と診断され治療されていた。2ヶ月前より、sulpiride 150mg/日・分3を処方され、その副作用で体重が2ヶ月間の内に30kg増えた(症例は薬物に過敏なところが存在する)、として本院へ転院希望して来院。筆者が主治医となる。
「人の居るところへ行くと、緊張して、自分の表情が硬く強張り、周りの人に変に思われるし、迷惑を掛ける」「表情が硬く強張ると、周りの人に変に思われるので、人の居るところに行くのがとても苦痛なのです」と言う。性格の偏りは全く見受けられない。極めて素直で穏やかである。対人緊張として治療開始。
sulpirideが投与される直前の処方に fluvoxamine が有り、その投薬は2ヶ月間続いていた。「これを飲んでいる間、身体がとても具合が悪かった。これは革命的な薬でこれで良くなると言われて我慢して飲んでいたけど、症状は少しも改善されなかった」と言う。症例は精神科の薬に対し非常に懐疑的になっており、前医で処方され服用して自身に合っていたというclonazepam のみ処方を希望する。clonazepam のみでなく漢方薬も処方すると言うと「自分は漢方薬が欲しかったのです」と笑顔で答える。clonazepam と漢方薬の抑肝散のみの処方とする。以来、この処方が続く。
2回目の診察時、待合室で待っているとき緊張して苦しいと訴え、症例は来院せず、母親のみ来院。以来、母親のみ来院するようになる。時折、電話にて症例と薬のことなどを会話することを行う。電話にては非常に素直。また、医院のすぐ近くに住んでいたため、筆者が夜、訪問したり、一緒にジョギングをすることも、しばしば有った。この状態が2年間続く。症例は昼間は両親が共働きであるため自宅に一人で閉じ籠もり、夜、母親とジョギングをするという毎日を送る。
本人の“とじこもり”状態強いため、いつものclonazepam と抑肝散の処方に、これを服用して外出するようメモし flunitrazepam 1mg 錠を加える。しかし flunitrazepam を服用すると「気分がハイになり、抑えが効かなくなった」と電話してくる。統合失調症の脱抑制と推測し、flunitrazepam の服用を中止するよう指示する。このとき、母親から症例の手記を手渡される。それは症例の対人緊張が発症した同じ時期である大学4年時の12月より書かれているもので、隣の一人暮らしの老人に対する被害妄想が綿々と記されてあった。risperidone を処方して母親に渡すも、症例は服用せず。
これより9ヶ月後、「近所の家から電波を頭に掛けられている、その家に抗議に行きたい」と電話を掛けてくる。筆者は医院よりすぐ近くの症例の家へ自転車で駆けつけ、症例とともにその家の玄関まで行き、この家は暴力団らしいから抗議したら物騒だ、などと言い含め(性格は極めて素直で穏やかである)、抗議することを中止させる。同時にrisperidone を服用するようrisperidone を入れた処方箋袋を手渡す。risperidone 服用にて妄想は収まる。同時に対人緊張もほぼ消失。以来、risperidone 4~6mg/日単剤服用(昼間服用。夜間の不眠はない。自ら服用量はコントロールしている。)し、現在、明るく元気になり、父親の営む鮮魚店を手伝っている。症例は、生来、神経質でない性格だった故に、妄想が治まるとともに対人緊張も消失していった。症例は、生来、神経質でない性格だった故に、加害念慮、忌避念慮が存在していたとき、そのときの対人緊張は強かったが、条件反射(緊張反射)はほとんど形成されずに留まったと推測される。
【考察】
社会不安障害、それは孤独との戦いである。孤独との、いつ果てるとも知れぬ戦いである。戦いに疲れている患者は日本全国に多数存在していると思われる。そして世界中にはもっと多数の戦いに疲れている患者が存在していると思われる。現在、ある種の抗うつ薬など対人緊張に効能があるとされる薬剤が複数発売されている。しかしそれも軽快そして寛解まで持ってゆくことは重症の症例に対しては困難を極めている。
社会不安障害の患者にはリビドー(活力・精力)の亢進と抑圧が見られる。社会不安障害の患者は肉体的精神的過緊張を持つ、それがリビドーの亢進となる。また社会不安障害の患者は対人緊張のため内向的に成らざるを得ない。そのリビドーの抑圧が肉体的精神的過緊張を形成する。その悪循環が形成されている。
対人緊張に対して、日本には古くから森田療法8,9,18)が存在する。筆者は社会不安障害の患者に対し、「薬を服用しながら“あるがままに生きれ”。それが10年、20年続こうと“あるがままに生きれ”。“てんかん”のような病気だと思え。」と指導している。
対人緊張は重症になればベンゾジアゼピン系抗不安薬なしには社会生活を正常に送ることは極めて困難である。“ひきこもり”に近い毎日からベンゾジアゼピン系抗不安薬を服用し始めると患者は生き返ったように“ひきこもり”を脱し、外向的で明るくなることが頻繁に見られる。海外ではSSRIs の有効性が言われているが、筆者の経験では未だSSRIs が効果が有ったと症例は存在しない。
筆者は、対人緊張を次のsubtype に分けている。このsubtype で解るように問題となるのは重症である。
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軽症:抗不安薬などの服用無しに比較的満足に社会生活を送って行ける。
(これは恥ずかしがり屋、はにかみや、そして極く軽症の赤面、極く軽症の書痙、極く軽症の表情の強張りなどに相当する。)
中等度:抗不安薬などの服用を行い、比較的満足に社会生活を送って行ける。
(生来、神経質でない性格だった人が対人緊張を発症した場合、よく見られる。)
重症:効力の強い抗不安薬などの比較的大量服用を行い、辛うじて社会生活を送って行ける。
(生来、神経質な性格だった人が対人緊張を発症した場合、よく見られる。)
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社会恐怖と対人恐怖の概念は等しくなく相違が存在する。対人恐怖は、社会恐怖とほぼ等しい緊張型対人恐怖と、関係妄想・前分裂症症状を伴う確信型対人恐怖に分けられる34~36)。
社会不安障害の特徴36)は以下となっている。「自己の視線、体臭など身体的欠陥のため、周囲に不快感を与え(加害念慮)、結果として他者から蔑まれ避けられる(忌避念慮)。」
これら緊張反射、心的外傷を解きほぐすのは、患者が神経質な場合、至難の業である。また、加害念慮・忌避念慮を理解・納得しても、患者が神経質な場合、加害念慮・忌避念慮は条件反射として存続することが極めて多い。
flunitrazepam は鎮静催眠薬として使用されているが、症例1は「これを服用すると身体が非常に解れる、とくに広背筋が解れる、その故か対人緊張が非常に和らぐ、この他の抗不安薬・鎮静催眠薬でも対人緊張が和らぐが不充分である」と言う。これは症例2に於いても同じである。広背筋の筋緊張と対人緊張の強さが比例する症例を幾例も経験している。
flunitrazepam は昼間服用するため 2mg 錠では調節が困難と考え 1mg 錠を頻用している。他のベンゾジアゼピン系薬物は何mg錠を処方するかは症例個々の好みに従っている。
社会不安障害には特に男性患者に於いてflunitrazepam 1日 2mg では不足であり1日 3mg(朝・昼) また1日 4mg (朝・昼)として使用せざるを得ないことが頻繁に存在する。flunitrazepam は他のベンゾジアゼピン系薬物と比較して催眠作用が強く、それ故にもmethylphenidate 併用の必要性がある。
今回のようにmethylphenidateを併用したのは初めてのことである。今まで対人緊張にmethylphenidate が使用された報告は見当たらず、methylphenidate の併用は未だこの2症例のみであるが、flunitrazepam の催眠作用を和らげるため、社会不安障害の患者の避けられない自閉傾向を緩和させるため、また明るく外向的で積極的になる、と2症例が主張するため、今後は併用する予定である。
症例5ではrisperidone 4~6mg/日の服用により劇的に対人緊張が和らぎ、それまでの強い“ひきこもり”より脱し、家業を不足なしに手伝えるようになった。この症例は統合失調症の妄想に依る激しい対人緊張を示していた。妄想が存在しながらも症例はそれを妄想とは思わず真実と思っていた。このような例も少数存在すると推測する。この症例には肘圧療法が奏功していた。
対人緊張は肉体的過緊張と精神的過緊張がその基盤に存在している。そのため筆者は社会不安障害の患者の肉体的精神的過緊張を弛めるため、社会不安障害の患者を診察台にうつ伏せに寝かせ、後背部を肘で圧して広背筋を弛める治療を行うこともある。社会不安障害の患者の広背筋は共通して異常に硬化している。その硬さが精神的過緊張に繋がっていると認識している。また、精神的過緊張が広背筋の異常な硬化を招いていると認識している。この肘圧療法を受けた患者は、身体だけでなく心も解れる、と共通して言う。
仏教には「心身不二」という思想がある12)。心と身体は別ではなく同じである、という考えである。故に「身体を解せば心も解れる」との考えの下に肘圧療法を施すが、筆者の腕の拙さ故、一時的効果のみ得られるだけである。
あるストレスまたは心的外傷が肉体的精神的過緊張を生み対人緊張が発症すると考える。また、肉体的精神的過緊張という基盤の下にある種のストレスまたは心的外傷が加わり対人緊張が発症するとも考える。そしてその肉体的精神的過緊張という基盤が弛むとともに対人緊張も軽症化してゆくと確信する。しかし生来、神経質な性格だった患者の一度形成された肉体的精神的過緊張の悪循環を軽くすること・消失させることは非常に難しい。
筆者は社会不安障害の患者全員に運動を強く勧めている。また、できる限り激しい運動を行うよう強く勧めている。社会不安障害の患者は若く、元気である。またリビドーの鬱積がある。激しい運動を行うことにより肉体的精神的過緊張は弛んでゆく。そして心の過敏性も軽快してゆく。肉体的精神的過緊張を弛めるよう、できる限り激しいスポーツのスポーツクラブに入るように強く勧めている。柔道、ラクビー、ボクシングなどを勧めている。これらは行動療法になり、また、症例の孤独を防ぐためにも勧めている。
これら激しいスポーツにより社会不安障害が軽症化傾向にある患者を複数経験している。
【最後に】
ベンゾジアゼピン系薬物は常用により効力が弱まるため、必要性の無い時にはベンゾジアゼピン系薬物は服用しないよう、対人緊張を避けたい場面の有る時のみ服用するよう指導している。また、対人緊張を避けたい場面が無い休日などには休薬日(drug holiday)をできる限り設けるよう指導している。
flunitrazepam のその効用と使用法は少なくとも日本の精神医学書には見出せなかった。筆者は症例4よりflunitrazepam を昼間服用すると非常に効果的であるという情報を得た。
以来、社会不安障害の患者に対しflunitrazepam を夜間の催眠薬としてではなく、対人緊張を避けたい場面の有る時のみ服用するよう指導している。そしてその他のベンゾジアゼピン系薬物も同じく、対人緊張を避けたい場面の有る時のみ服用するよう指導している。また、口腔内溶解させ口腔粘膜より吸収させると効果の発現が早いことも強調して指導している。
一度形成された条件反射を消すのは難しい。症例毎にその条件反射の形成された基盤は異なる。その基盤を取り除くことも難しい。
筆者は現在、丹田呼吸法に社会不安障害治療への道を模索しつつある。これは肉体的精神的過緊張を弛めるための最善の方法と考え行っている。
---flunitrazepam の社会不安障害への有効性を示唆した今は亡きY君に捧ぐ---
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:Two Case of Social Phobia, Flunitrazepam and Methylphenidate Dramatically Effected.
http://sky.geocities.jp/mmm82888/2975.htm