ヒラメ男とサイヤ人その3 | 睦美の短歌日記

ヒラメ男とサイヤ人その3

(続き)

誰かに気づいてもらおうと大声出しながら暴れてたけど、頭は比較的冷静で、一瞬で色んなことを考えてた。
レイプされる?大人しくしてたらレイプだけで済む?それとも殺される?最後まで抵抗したほうが助かる確率は高い?どうしたら助かる?ヤバイ、分からん。
てか国道を走ってる車の中の人たち、なんで誰も気づかないの?気づいてるけど、ただの痴話喧嘩だと思って無視してんの?
とにかく車に引きずりこまれたら会話しよう。会話でこのヒラメの性格を探ろう。性格探って傾向と対策を練ろう。
落ち着け私、とにかく落ち着け。

「こらー」という声が遠くで聞こえた。
道路の反対側で、学生服を着た二人連れが、こっちを見ていた。国道をぶっ飛ばす車の波が途切れたら渡ってくるつもりなのが分かった。てか途切れないのに無理やり渡ろうとしてる。
私は「助けて!」と絶叫。
ヒラメ男はこの状況はマズイと思ったのか、私をパッと離して、ダッシュで車のほうへ逃げた。エンジンをかけっぱなしにしてた車は、そのまま素早く立ち去った。
「逃げんなアホ!」と追いかけようとした私は、自分の力量が分かってないアホです。
車のナンバーを確認しようとしたけど、コンタクトも眼鏡もつけてなかったから見えなかった。くそっ!
学生服二人連れは、遅れて到着。ヒラメ男を取り逃がしたのを悔しがりながら、私に「大丈夫?怪我してない?」と声をかけた。
その声で一瞬にして戦闘スイッチが切れた。

ああ…助かった。

へたりこもうとする私を一人が支えてくれた。
安心した。気が抜けた。
恐怖が今さらのように訪れて、ブワッと涙が出た。年下の学生くんの前で、恐怖でぽろぽろ涙をこぼしてる自分なんて、想像したこともない状況だ。
でもどうにも止まらなかった。
足が生まれたての小鹿のようにガクガクし始めて、立ってるのも難しかったのだ。
このヘタレっぷり、どうやら私はサイヤ人の落ちこぼれだったみたい。
学生くん二人は、私が落ち着くまで、「もう大丈夫やで?」「お姉さん怖かったんやな」と、まるで子供を相手にするような言葉を掛けながら待ってくれた。ガッデム、一生の不覚だ。
お礼を何度も言う私を、彼らはマンションの玄関前まで送ってくれた。
後悔したのは、興奮してて彼らの連絡先を聞き忘れたことだ。改めてお礼がしたいのにできない。いまだに後悔してる。ありがとう、ごめんなさい。

(続き)