問い 足場、高所を移動するときの安全対策は必要ですか。

回答

 

 移動中に鉄筋が前方に突き出していると、不自然な姿勢となりますが(危険状態)、このときに背中側に手すりなどの「安全方策」がなければ、リスクレベルは高いと評価すべきです。加えて5.4㍍の高所であれば、墜落時の衝撃荷重は極めて大きいので、重篤度も高いと評価すべきです。

 このような作業はレベル4とみて、作業指示することは出来ません。

 しかし、現実は、現場では日々このような作業が行われています

 

現実的な安全対策はどうか

 現場では、2丁掛けを推奨しています。

 もちろん墜落しないものではありませんが、墜落制止用器具を親綱に取り付けていれば、墜落時には、地面までではなく、ランヤード1.7㍍だけ落ち、衝撃荷重は少ないとされています。

これらは、確実に墜落制止用器具が着用されて、使用された場合ですが、安全配慮義務の世界では、安全担当の責任者が「どういう取り組み」をしたかが問われます。場合によっては高額な損害賠償を裁判で言われます。

 「つきっきりで、吉村の作業を見ている」は、現実離れしていて、出来ませんが、新規入構時教育時に説明した、程度では不足しています。

 毎朝、朝礼の時に、2丁掛けの体験をして、それを責任者を含む職員が観察して、大丈夫、その日の体調もよし、であれば、現場に入って作業が出来るという体制が、現実的であり、あちこちでやっているところです。

 また、当該基準が理解され、遵守されているかを日常の安全パトロールで確認し、その際に、現場で行っているKYシートに当該事項が盛り込まれているかを併せ確認する等が推奨されます。

 写真をとり、安全日誌に添付するのも一方法で、管理しているということが報告できるよう心がけか必要です。掲示物も有効です。

 

 次に、移動中は労働安全衛生法の適用があるのかについて申し上げます。

関係法令は次のとおりです。

 518条では「箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合

519条では「作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所

と限定しています。

 通行が「作業」なのかどうか。個別事案として評価されると思料します。

 解釈が分かれるにしても、事故があっては困りますから、また、安全管理に是非とも必要ですから、現場では、(通行時には、墜落しないとは言い切れませんので、)通行時にも墜落制止用器具の着用、使用を現場基準としても、実施をお勧めします。

 

 第519条は、「作業床」がある場合について「囲い、手すり、(おお)い等(以下この条において「囲い等」という。)を設けなければならない。」とります。第518条は「作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設け」とありますから、第518条と第519条をつなぐと「それぞれは、作業を行う場合」に限定されると思料します

 

 災害事例の写真を見ますと、作業床の上を歩いているようです。第519条の適用があると思料されます。

(作業を行っているのか、がポイントです。

(例えば、何か目的があってA地点からB地点へ移動のため通行の途中に落ちたのか、どうか。それとも、当該箇所でボルトを点検でもしていたのか。そもそも写真では「移動する際」となっています。)

 

 

 

以下ご参考

(作業床の設置等)

第五百十八条 事業者は、高さが二メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。

2 事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。

(昭五〇労令五・平三〇厚労令七五・一部改正)

 

 

第五百十九条 事業者は、高さが二メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、囲い、手すり、(おお)い等(以下この条において「囲い等」という。)を設けなければならない。

2 事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。

(昭五〇労令五・平三〇厚労令七五・一部改正)

第五百二十条 労働者は、第五百十八条第二項及び前条第二項の場合において、要求性能墜落制止用器具等の使用を命じられたときは、これを使用しなければならない。

 

 

(昇降するための設備の設置等)

第五百二十六条 事業者は、高さ又は深さが一・五メートルをこえる箇所で作業を行なうときは、当該作業に従事する労働者が安全に昇降するための設備等を設けなければならない。ただし、安全に昇降するための設備等を設けることが作業の性質上著しく困難なときは、この限りでない。

2 前項の作業に従事する労働者は、同項本文の規定により安全に昇降するための設備等が設けられたときは、当該設備等を使用しなければならない。

 

「通行」について

 労働安全衛生規則に「通行」とあるのは次の条文です

(船舶と岸壁等との通行)

第五百五十一条 事業者は、労働者が船舶と岸壁又は船舶とその船舶に横づけとなつている船舶との間を通行するときは、歩板、はしご等適当な通行設備を設けなければならない。ただし、安全な船側階段を備えたときは、この限りでない。

2 労働者は、前項の通行設備又は船側階段を使用しなければならない。

 

通行と作業とは違いますが、条文では、意図的に使い分けていると思料します。

518条では、作業又は通行するときはとなっていません。

 

 

 519条は、「墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所」とありますが、「作業又は通行」等の条件はありません。当該箇所では、微妙と思いますが、通行に墜落制止用器具がいると指導される可能性もあるわけです。

 

 では、519条にいう「高さが二メートル以上の作業床の端、開口部等」に、垂直タラップの昇降は適用されるのか、これも通行ですが、これにつきましては意見があると思いますが、消極だろうと思っています。

 そもそも、519条は、作業床に限定されているともいえると思料します

 

よって、詳しくは所轄労働基準監督署長に問い合わせを。