セーフティレターズ から
主人は現場責任者でした。ロボットを動かしながらティーチングをすると言っていました。なんでそんな危ないことするの、というと、作業効率が下がるからだといっていました。主人はロボットに挟まれたままでした。ロボットを操作できるのは工場長しかいなくて、駆けつけてくれるまではそのままでした。
1万人にひとりの話 から
私は大企業の総務担当で、そのときも現場で被災した労働者のご家族のところに弔問にお伺いしました。ご遺族の奥さんは黙って私の説明をきくだけでした。もういいかな、そろそろ帰らせてもらおうかなと思ったときに「会社は何人従業員の方がいますか」と聞かれました。意味不明でした。なんでそのようなことをと思いました。1万人です、と答えたときに奥さんは「1万人の中のひとりなんですね」と言いました。そのときハッと気がつきました。
労災、その中のひとつ、よくあること、事務的に早くすませばという思いが私の言動に現れ、ご遺族の奥さんにその気持ちを突き付けていました。会社にとっては1万人にひとりであっても奥さんにとっては全てを失った、ということです。
労使、行政が迅速・適正な補償事務を
まずは、法令の理解と活用を
質問 療養補償給付は認められましたが、休業補償給付は認められませんでした。審査請求はできますか。
回答 休業3日目までは、労災保険による休業補償給付ではなく、使用者によります。(こちら)(認定基準等)
1 労働保険成立手続き
労働保険
労災保険と雇用保険を総称した言葉で、政府が管掌する強制保険です。農林水産の一部の事業を除き、労働者を一人でも雇用すれば加入手続きをおこなわなければなりません。
対象となる労災保険の適用事業場
と対象となる労働者の範囲
労災保険 労働者の方が業務中や通勤途中に事故に遭った場合に、必要な保険給付を行い、被災された方や遺族の方の生活を保護し、併せて社会復帰を促進する事業を行うための保険制度です。
労働災害が発生したとき
労働者災害補償保険法第12条の8では、保険給付は(中略)補償を受けるべき労働者若しくは遺族(中略)に対し、その請求に基づいて行う、とあり、また、またその第5章 不服申し立て及び訴訟では 第38条 保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし(後略)とあります。
雇用保険
労働者の方が失業した場合に失業等給付を支給したり再就職を促進する事業を行うための保険制度です。
新たに労働者を雇い入れた場合は、保険料の納付とは別に、その都度、事業所を所轄する公共職業安定書(ハローワーク)に
「雇用保険被保険者資格取得届」
の提出が必要です。
労災保険料率表をネットで検索
労災保険料の申告・納付
2 特別加入制度
(1) 社会保険労務士に委託
社会保険労務士に委託社会保険労務士会員を通して一人親方の特別加入
厚生労働省ホームページを検索
兵庫SR経営労務センターを検索
(労働保険事務組合)を検索
事業主・家族従事者の特別加入3回の分割納付が可能に
(2) 中小事業主等労災補償制度
ただし、加入の要件があります。
まずは、事業を行っているということです。
(具体的には、常時300人以下の労働者を使用する事業主であること。業種により小売業等の場合は常時50人以下、サービス業等の場合は100人以下となっています。)
そして、その事業について労災保険関係が成立していることが必要です。
(労災保険関係の成立とは、具体的に労働者がいることが前提となり、その要件としては、常時労働者を雇っているか、少なくとも年間延べ100日以上労働者を使用していることが求められます。)
手続きについては、直接事業主が行うことはできません。労働保険事務組合(兵庫SR経営労務センター)に加入し、手続きをしてもらうことになります(所轄労働局長の承認)。
また、労働保険事務組合は保険関係の加入手続きは行いますが、労災補償請求の事務手続きができないので、これらを業務として行うことができる社会保険労務士に委託することが多いと思料します。
包括加入の原則
事業主の他家族従業者など労働者以外で業務に従事している人全員が包括的に加入することが必要です。
特別加入者の業務の範囲については、所定労働時間における自社の労働者と同じ業務、作業内容が原則です。
時間外労働、休日労働の場合は自社の労働者とともに労働を行っていることが原則で、これらのときに被災した場合に労災補償が所轄労働基準監督署長により認定されると思料します。
通勤災害の場合は、一般の場合と同様に補償されます。
保険料は給付基礎日額を選択できます。この365日分に保険料率(建築事業なら9.5/1000)を掛けると年間の保険料として計算できます。
3 費用徴収のはなし
(1)
加入を怠っていた期間中 に労働災害が発生した場合
事業主が故意または重大な過失により、労働保険関係成立届(労働保険への加入届)を提出していない期間中に労働災害が生じ、労災保険給付を行った場合、事業主から次を徴収することになります
①最大2年間遡った労働保険料及び追徴金(10%)
②労災保険給付金の100%又は40%
労働保険の加入手続きについて労働局職員等から加入勧奨・指導を受けていた場合
⇒ 事業主が故意に手続きを行わなかったものと認定し、労災保険給付額の100%を徴収
上記の場合以外で、労働保険の適用事業となってから(労働者を雇用したのに)1年を経過していた場合
⇒ 事業主が重大な過失により手続きを行わなかったものと認定し、労災保険給付額の40%を徴収
(2)労災保険の加入後において 業務災害や通勤災害が発生した場合の徴収
① 事業主が一般保険料を滞納している期間中に業務災害や通勤災害が発生した場合、労災保険給付額の最大40%
② 事業主の故意または重過失により業務災害が発生した場合、労災保険給付額の30%
各種事務手続きは社会保険労務士に依頼することができます。
4 労災補償 請求事務手続き
労働者災害補償保険法
●業務災害に関する補償給付
(療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護補償給付)
●障害補償給付は、厚生労働省令で定める障害等級に応じ、障害補償年金又は障害補償一時金とする。
5 労働者とは
(1) 労働者かどうか
労働基準法第九条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう
労働条件通知書等の様式
賃金台帳
労働者名簿
賃金控除に関する協定書
口座振り込み同意書
労働者性の判断基準
基本的には、事業に「使用される」者であるか否か、労働の対償として「賃金」が支払われるかどうかによって判断されます。
この判断が困難な場合もありますが、労務提供の形態や報酬の労働対償性及びこれらに関連する諸要素を勘案して総合的に判断する。
(参考)昭和60年12月19日
労働基準法研究会報告
「労働基準法の労働者の判断基準について」
使用従属性に関する判断基準チェック
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する許諾の自由の有無
業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
通常予定されている業務以外にも「使用者」の指揮命令に、依頼の業務に従事する拘束性の有無
代替性の有無(本人に代わって他のものが労務を提供)
報酬の労働対償性チェック
欠勤の場合の控除時間給を基準として算定されるなど
「労働の結果」による較差が少ない残業手当の支給など一定時間の労働の提供に対する対価と判断される
事業者性の有無チェック
報酬の額が正規従業員に比して著しく高額
自らの計算と危険負担に基づく「事業者」に対する代金の支払いと認められる機械、器具の負担
業務遂行上の損害に責任を負う
独自の商号使用
専属性チェック
他社への業務従事が制約されている、
または時間的に無理である
生計を維持しうる程度の固定給がある
その他チェック
源泉徴収、
労働保険の対象
服務規律の適用
退職金制度、
福利厚生
(2) いわゆる重役は
昭和23年3月17日基発461号
法人の所謂重役で業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて労働基準法第9条に規定する労働者である。
(3) 請負契約と労働者派遣(偽装請負)
Q
作業工程の指示
発注者が、請負業務の作業工程に関して、仕事の順序の指示を行ったり、請負労働者の配置の決定を行ったりしてもいいですか。また、発注者が直接請負労働者に指示を行わないのですが、発注者が作成した作業指示書を請負事業主に渡してそのとおりに作業を行わせてもいいですか。
A
適切な請負と判断されるためには、業務の遂行に関する指示その他の管理を請負事業主が自ら行っていること、請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して処理することなどが必要です。
したがって、発注者が請負業務の作業工程に関して、仕事の順序・方法等の指示を行ったり、請負労働者の配置、請負労働者一人ひとりへの仕事の割付等を決定したりすることは、請負事業主が自ら業務の遂行に関する指示その他の管理を行っていないので、偽装請負と判断されることになります。
また、こうした指示は口頭に限らず、発注者が作業の内容、順序、方法等に関して文書等で詳細に示し、そのとおりに請負事業主が作業を行っている場合も、発注者による指示その他の管理を行わせていると判断され、偽装請負と判断されることになります。
6 審査請求
身寄りのない天涯孤独の従業員の方が事業場で労災に遭われたときに、ご本人がしっかりしていれば会社の援助のもとにご自身で労災請求手続きを行うことが通例です。ときには、事故の程度が大きくて本人が意識不明のままであり、このため、会社の総務担当者が労災申請手続きを行うことがあります。
専門的な知識、経験があればよいのですが、場合によっては、労基署担当官に十分な情報を伝えることができずに結果、不支給決定がなされることもあります。
もちろん十分な労基署調査の結果としての決定であることは間違いありませんが、従業員の思いを直接伝えられていないということ等が総務担当者として気がかりです。
そういう場合、審査請求制度があり、審査請求すると、労基署の調査結果情報も入手できますが、審査請求をせずにそのまま期間が経過すれば裁判で業務上外を争うしか方法がなくなります。裁判なら当然費用も必要です。ご本人に争う意欲、健康状態になければ、裁判にならず確定してしまうでしょう。
会社の総務担当者としては、反論する材料があれば格別ですが、
審査請求よりも、まずは労基署の決定に従うという判断をされることもあると思います。
すると、労災でもなく、職場復帰もかなわず、ご本人の健康状態が芳しくなくて、介護が必要な状況が続くとなると、収入もなくなって、今後の生活において大変お気の毒なことになります。
総務担当者が苦労して手続きをした結果、業務上外となり、被災者も大変だしということになっています。当初から、あるいは途中からでも、専門家に依頼して、最善の取組をしたということがいえれば、ご苦労も少なく、また、周りからの納得性も高いのではないでしょうか。
ご本人の意思を確認する手段なく、どうしたらよいのか、総務担当には悩みはありますがベターな方法はあるはずです。
お気軽にご近所の社会保険労務士にご相談を。
7 訴訟
建設アスベスト集団訴訟
損害賠償
(2016年1月30日読売新聞報道)
建設現場で建材に使われたアスベストを吸って肺がんなどの健康被害を受けたとして、元建設労働者と遺族が国と建材メーカー32社に約10億円の損害賠償を求めた「建設アスベスト集団訴訟」
1月29日の京都地裁判決の要旨
国は、石綿吹き付け作業では1972年以降、屋内作業では74年以降、屋外作業では2002年以降に、事業者や建材メーカーに対し、防塵マスク着用や集塵機付き電動工具の使用、具体的な警告表示を義務付けるべきだったのに怠ったものであり、国家賠償法上の責任がある。
労働基準法上の労働者でない「一人親方」に対して、労働安全衛生法が保護する「労働者」でないために国は責任を負わないが、警告表示義務を怠った建材メーカーには労働者以外にも責任が及ぶ。
被告企業らも国と同時期には、各建材に具体的な警告表示を行う義務があったのに、怠った過失がある。
(一人親方を含め)建設作業従事者は現場を転々とし、一つの現場に長くとどまらないことなどにかんがみると、おおむね10%以上のシェア・市場占有率を持つメーカーが販売した建材について、販売の時期や地域、使用した箇所、方法などが、被災者の就労状況や粉じん暴露状況と整合していれば、その製品が被害者に到達していた蓋然性が高い。
その建材を製造し、警告表示なく販売し、流通に置いた行為そのものが加害行為に当たる。 どのメーカーの建材が原因で発症したのかは因果関係を立証するのはむつかしいが、地裁はシェなどを根拠に認定している。同様の訴訟への影響は大きい。シェア10%以上で線引きしたことについてはメーカーの反発も予想される。