若松英輔さんの、

悲しみの秘儀』を、

読みはじめる。



「ちょうど三十歳になったころだった。自分から言葉が離れて行く、そんな感触を味わったことがある。」


私も、ずっとそうだった。


「人が語ろうとするのは、伝えたい何かがあるかるであるより、言葉では伝えきれないことが、胸にあるのを感じているからだろう」


言い淀む時、

私たちは、

「内なる詩人を呼び覚まさなくてはならない」

と、若松さんは誘う。


悲しみや、憎しみや、悔しさは、

そのままでは、言葉にできない。


言葉が、

さらに自分を、

絡みとってしまいそうで、

怖くて、ただ口をつぐんで、

忘却の彼方に、

流れ去るのを、

じっと耐えて、

待っている。


「涙は、必ずしも頬を伝うとは限らない。悲しみが極まったとき、涙は涸れることがある」。


静かな夜に、

少しずつ、読み進めたい、

エッセイ集。