幕が上がる文字起こし2 (われわれのモロモロ〜合宿) | yoskのブログ

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目次

われわれのモロモロ

行こうよ!全国

悪夢

一緒に来て、全国

比奈駅

合宿

新宿の星空

シングルベッド

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
吉岡先生「いいと思う。ただ、橋爪さんは最後に回さない?」
 
さおり「ユッコですか?」
 
吉岡先生「だめ?」
 
さおり「あ、いえ」
 
吉岡先生「まあ、かなりムラがあるみたいだし、今はうまく嵌ってないけど」
 
 
 
やっぱり。見抜いてる。
 
 
 
吉岡先生「でも、他にいる?あんな女優さん」
 
 
 
そうだ。私が信じないでどうする。
 
 
 
吉岡先生「ん~?」
 
さおり「いえ、分かりました。それから、本番までもっとビシビシ教えてください。もっと頑張れると思うから、みんな。それと、どうやったらお客さんにいっぱい来てもらえるか、考えたいです」
 
吉岡先生「はい」
 
さおり「お願いします」
 
 
 
見てろよ、清進学院演劇部!
 
 
 
グッチ「ん?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
高橋母「何してんの?」
 
さおり「別に」
 
高橋母「字間違ってる、これじゃ消えちゃうよ」
 
さおり「うそ?」
 
高橋母「さおりが演出なの?!」
 
さおり「そうだよ~」
 
高橋母「宮本亜門みたいな!」
 
さおり「宮本亜門ではないけどそうだよ」
 
高橋母「蜷川幸雄?」
 
さおり「でもない。なんでおじさんばっかなの?」
 
高橋母「だって!」
 
さおり「みんなで作ってるから。演出って言っても私ひとりの仕事じゃないの。役者に作ってもらうところもあるし、みんなでアイディア出し合ったり… え?」
 
高橋母「ここまた違う」
 
さおり「うそ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
吉岡先生「お好きな席にお座りください」
 
グッチ「どうぞ~中入ってください、奥空いてますから~」
 
 
部員「1,2,3,4,5,6,7,」
 
さおり「ファイト~」
 
部員「オー!」
 
吉岡先生「さあ、行こうか」
 
部員「はい!」
 
 
 
 
 
さおり「本日は、富士ヶ丘高校演劇部、"われわれのモロモロ-七人の肖像画-" にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。上演に先立ちまして、皆様にお願いがございます。携帯電話、アラーム付きの時計など、音の出るものは電源からお切りください。それでは、ごゆっくりご覧ください」
 
 
 
 
 
明美ちゃん「加藤明美、肖像画 "父の手"。
私の家族はお父さんとお母さんです。兄弟はいません一人っ子です。
私のお父さんは工場で働いています。家に帰ってくるお父さんはいつも、油まみれの真っ黒い手と真っ黒い顔。私はそんなお父さんが、中学生の頃まで、あんまり好きではありませんでした。
“お父さんお弁当忘れたから届けてあげて”
やだよ!
“学校行くついででしょ。届けてね"
私は届けるふりをして届けませんでした。お父さんの工場なんか行きたくなかった。
気がつくと目の前に油まみれの手がありました。工場で小さな部品を加工している、お父さんの手です。私はその手を、そっと握りました。初めて、ギュッと握りました」
 
 
 
 
 
さおり「"3,2,1,試合終了!"  私たちのチームは負けた。
私の家族は、製紙工場で働く父と、その会社で事務をしている母と、3つ下の弟がいる。
お父さんの運転する車が、途中の脇道で停まった。
ねぇお父さんどこ行くの?ねぇお父さん?
ニコニコしているお父さんの先に海が開けて、そこには真っ赤な夕陽が浮かんでいた。
もしもしお母さん、今日の晩御飯なに?」
 
 
 
 
 
がるる「“ただいまー!”
"おー、帰ってきたか。美樹さん、ちょっと座って。お酌、美樹さん!"
これがうちのおじいちゃん。毎日何かしら理由を付けては呑んだくれている、酔いどれ爺さん。
うるさいなー、寝んのこっちは!
うちは早くから母子家庭だったから、私の世話はずーっとおじいちゃんが見てきてくれて
ちょっとそのまま寝ないでよ!おじいちゃん?おじいちゃーん!
いつかおじいちゃんがもっと歳をとったとき、守ってあげられるのは私だけなんだ。だから今、私は看護師を目指してます。
ねーんねんーころーりーよー」
 
 
ユッコ「橋爪裕子、肖像画 "海に行った日"。
"今日はみんなで海に行こう"
本当?嬉しい~!パパと海行くの初めて!
"はいユッコ、帽子被って行きなさい"
ありがとうママ!
こうして私たちは海に向かった。
パパが私のために作ってくれた、私だけのお城。パパはこのお城を作ってくれるために、大嫌いな海にまで来てくれた。常日頃から、お姫様になりたい!って言っていた、私のために。絶対に忘れない」
 
 
 
 
 
さおり「せーの!」
 
部員「ありがとうございました!」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
部員「あ、え、い、う、え、お、あ、お」
 
明美ちゃん「はい、OKじゃあ、次あめんぼいきます。じゃあ頭からいくよ、せーの」
 
部員「あめんぼ赤いなあいうえお」
 
 
 
 
 
吉岡先生「目標ってある?チームとして。結局は勝負だからさ、どこまで勝ちたいか。まあ勝負は度外視っていう選択肢も無くはないけど。
私なりに勉強してきました、高校演劇。その上で、まぁ私の勝手な見込みなんだけど、地区大会なら、今すぐでも勝てると思う、多分」
 
がるる「ま、まじで?」
 
吉岡先生「過去の映像見たけど全然遜色ない、大丈夫」
 
がるる「ぉおい!」
 
吉岡先生「で、仮に10月の地区大会、11月の県大会を突破して、ブロック大会まで行ったとする」
 
がるる「ブロック大会だってさ」
 
吉岡先生「西条さん、仮の話。ただそうなると、君たちは確実に1月まで拘束されることになる」
 
がるる「どういうことですか?」
 
グッチ「つまり、受験とどう折り合いをつけるか、って話だ」
 
吉岡先生「もしもこの先本気で勝ちにいくなら、きっと楽しいだけじゃ済まされない。君たちにもそれ相応の覚悟を求めることになります。結果、人生を狂わせることにだってなるかもしれない。でも正直そこまで責任持てないからさ。みんなはどうかなって。
…じゃあ、さらに正直に言うね。私は行きたいです、君たちと、全国に!」
 
グッチ「いや待って待って吉岡さん」
 
吉岡先生「行こうよ!全国」
 
 
 
まただ。また一瞬、そこに神様が現れた。
 
 
 
グッチ「はい!ここまで。これはあくまでも吉岡先生個人の」
 
吉岡先生「ちなみに、その場合は高橋さん」
 
グッチ「顧問俺だよ~」
 
吉岡先生「出演したい?最後の大会。この先、演出家に専念する気は無い?」
 
がるる「それって、もう、さおりは舞台に立たないってことですか?」
 
吉岡先生「全ての責任を全うできるほど器用じゃないなら、そうすべきだと思う。ただ問題が1つ。作る家庭なんて何とでも出来ると思ってるんだけど、提出だけはしなくちゃいけないのね」
 
さおり「台本、ですか」
 
吉岡先生「そう。書ける?」
 
がるる「肖像画じゃダメなんですか?」
 
吉岡先生「あれは人真似。勝負するなら、自分たちの作品でしょ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
がるる「あーーーーー!!!!!あぁ、バイトのシフト相談しないとな~。なんか言えよ!」
 
ユッコ「人生かぁ」
 
がるる「重たいよ!てかさ、本気で行く気かな、全国」
 
ユッコ「あー腹減った!」
 
がるる「お!きたぁ勝負だ!」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
吉岡先生「そうじゃないでしょ!何度言ったら分かるの!もう1回!」
 
明美ちゃん「ロミオ、ロミオー!」
 
ユッコ「どうしてあなたはロミオなの?」
 
吉岡先生「なんだそれ大根かぁ!」
 
がるる「先生!もう暑くて伸びちゃいそうです!」
 
 
吉岡先生「高橋さん、あんたが台本書かないからこんなことになってんのよ!」
 
さおり「ごめんなさーい!」
 
 
 
 
 
さおり「!夢、か… あぁどうしよう… え?え?!」
 
 
吉岡先生「このちんちくりん共が!」
 
さおり「いやぁ!」
 
 
 
 
 
吉岡先生「こんなこともあろうかと、切り札を用意しておいたわ。先生、お願いします!先生!
ロミジュリを演じて420年、滝田先生です」
 
部員「420年!まるで妖怪!」
 
滝田先生「おぉジュリエット、僕の魂よ!」
 
吉岡先生「なんて良い声なのかしら!高橋さん、この美声を耳元で聞かせてお貰いなさい!お願いします、先生」
 
滝田先生「おおぉぉロミオ、ロミオ!なぜあなたは」
 
さおり「キャー!!!」
 
 
 
 
さおり「痛… あ! …病んでんな」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
中西父「ちょっと!お姉ちゃん、お姉ちゃんほら!これ。お姉ちゃん!いやいやいや、お姉ちゃん、ちょっと!ちょっとお姉ちゃん、これ落としたから、お姉ちゃん!お姉ちゃんちょっと、お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
 
さおり「ごめんなさい!」
 
中西父「これ、落としたって!」
 
中西母「何やってるのよ怖がってるじゃないの!」
 
中西父「いや…」
 
中西さん「もうお父さんうるさい!」
 
中西母「そうよ!いつも声が大きいのよ!」
 
中西父「いやお母さんのほうが大きいよなこれな!」
 
中西母「大騒ぎしすぎよ!勘違い!泥棒!」
 
中西父「お母さんのが大きいだろ!いやいやいや、お姉ちゃん!」
 
 
さおり「あの!聞きたいことがあるんですけど」
 
中西母「悦子、お友達?」
 
 
 
 
 
中西母「はい、はいどうぞ」
 
さおり「すいません。…どうやって書くんですか?台本って」
 
中西父「これ、返したからね!」
 
さおり「はい!…全国に行こうとか言うんです先生が。昨日なんか合宿やろうって言い出すし、しかも東京で。東京って…。なんか展開が怒涛っていうか。こんなはずじゃなかったっていうか」
 
中西さん「高橋さんって、なんで演劇やってるんですか?」
 
さおり「それ吉岡先生にも言われた。なんでか」
 
中西さん「良かったと思いますよ、この前の公演。うまく使ってた、みんなのこと。言ってみればいいじゃないですか、合宿でも、全国でも。じゃあ」
 
 
 
 
 
中西さん「来週、来週全国大会があるんです。言ってみたらどうですか?どうせならボランティアスタッフで参加したほうがいいかも。本番以外のところも見られるし、勉強になりますよ。じゃあ」
 
 
さおり「一緒に行きません?お願い。一緒に来て、全国」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
高校演劇は不思議だ。
例えば今年、うちが秋の予選に勝ったとしても、出場できる全国大会は来年。つまり今年は、来年のための予選ってことになる。だから全国に行けたとしても、私たち3年生がその舞台に立つことはない。
でもそれより今は、中西さんと旅をしている自分のほうが不思議でならない。
 
 
 
さおり「あっつ…」
 
中西さん「あ、高橋さん!ここだ」
 
さおり「着いたぁ。行こ!」
 
 
 
 
 
「おはようございます」
「おはようございます!」
「今日は1日よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「会場の準備をしてもらいます。その際必ず、IDカード、これを身につけるようにしてください」
「はい!」
 
 
 
 
 
「すいません、2人でお願いします」
 
中西さん「この学校、仕込みがすごいよ。これを20分で仕込むの。上演時間60分以内。1秒でもこぼれれば、審査対象外になる」
 
さおり「すごい…」
 
 
 
 
 
さおり「こんなレベル目指してたんだね、みんな」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
中西さん「全国優勝。去年の清進学院の目標。でも、結局、全国に行くこともできなかった。遠いなぁ、どれだけ頑張っても」
 
さおり「ねぇ、なんで中西さんってうちに転向してきたの?目指してたんでしょ、全国」
 
中西さん「滑舌、悪いじゃないですか私。それで、みんなに迷惑掛けるのが、もう嫌で。もうこの辺でいいかな、って。要は、追いつけなくなったんです、みんなの目標に」
 
さおり「それで転校?変だよ。だって忘れてないじゃん演劇のこと。
ねぇなんで1人でいようとするの?演劇って1人じゃできないでしょ?たとえひとり芝居だったとしても」
 
中西さん「出なくなったんです声が。
みんな、私のために必死に協力してくれて。でも、でもそれが、逆にものすごいプレッシャーになって。学校も休むようになって。それで、心配した親が、もう学校変えたらどうか、って。だから、だから、逃げたんです」
 
 
 
 
 
さおり「この前、聞いてくれたよね、中西さん。なんで演劇やってんの?って。私、最初ただの付き添いだったの、ユッコの。で、部活見学に行って、ちょっと台本読んでみ、とか言われて、読んで。そしたらなんか褒められて。私、あんまり人に褒められるタイプじゃなかったからさ。まんまとハマって。それで入ったの、演劇部。だから、何にも分からないんだね、多分。
でも、楽しいってことは分かるの。今も楽しい。だって、みんなと話がさ、できるしさ。今もこうやって話せてるし。私、元々こんなにペラペラ喋れる人じゃないのね。演劇のお陰で、こんなに話せてる。それって、んーだから… あぁ演劇って1人じゃできないんだね、って。うん、そういうことだと思う。
だから、始めた理由は大して無い。でも、辞める理由はもっと無い。私は多分、…ううん、絶対。最後までやり通す演劇部を」
 
中西さん「なんの決意表明ですか?それは」
 
さおり「分かんない。言いたくなった」
 
 
中西さん「高橋さん。それでも、人は1人だよ。宇宙で、たった1人だよ」
 
さおり「でもここにいるのは2人だよ」
 
 
さおり「中西さん。やりませんか?演劇。私と一緒に」
 
 
中西さん「銀河鉄道みたい」
 
さおり「え?」
 
中西さん「知ってますか?銀河鉄道の夜」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
さおり「…うん、僕だってそうだ。カンパネルラの目に、綺麗な涙が浮かんでいました。けれども本当の幸いは一体なんだろう、ジョバンニが言いました。僕分からない、カンパネルラがぼんやり言いました。僕たちしっかりやろうね、ジョバンニが胸一杯、新しい力が湧くように、ふーっと息をしながら言いました。あ、あそこ石炭袋だよ、空の穴だよ、カンパネルラが少しそっちを避けるようにしながら、天の川のひとところを指差しました。君はもらわなかったの?…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
吉岡先生「1人で書いたの?」
 
さおり「ある人から、ヒントをもらって」
 
吉岡先生「そう。よく書けてる。すごい気合いが入ってる」
 
さおり「足りない部分は、みんなに助けてもらいます」
 
吉岡先生「うん」
 
さおり「先生、もうひとつ相談が」
 
吉岡先生「ん?」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ユッコ「お待たせー!」
 
橋爪父「どゔも"」
 
グッチ「橋爪さんこの度はありがとうございます!」
 
 
がるる「これ誰のバス?」
 
ユッコ「ん?パパのバスだよ」
 
 
明美ちゃん「さおさん」
 
さおり「ん?」
 
明美ちゃん「さおさんどうしたんですか?」
 
さおり「うん」
 
 
グッチ「旅行は、お好きですか?」
 
吉岡先生「ごめんなさい、研修で徹夜が続いてて」
 
グッチ「あ、そうですか!ではゆっくり休んでください。あの、是非あの、弾力性のある肩なんで、こちらに、あそっちのほういきますか、全然使っていただいて大丈夫なんで…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ユッコ「行こうよ早く」
 
さおり「うん!」
 
橋爪父「ユ"ッゴ、○×>〒☆$%#×〆¥」
 
ユッコ「分かった!」
 
 
 
 
 
さおり「中西さん!」
 
中西さん「高橋さん!はぁ良かった」
 
吉岡先生「はじめまして」
 
 
吉岡先生「今日から入部してもらう、中西悦子さん」
 
中西さん「中西です。よろしくお願いします」
 
がるる「キターーー!戦力アップゥ⤴︎プゥ⤴︎」
 
さおり「やだがるる恥ずかしい」
 
 
吉岡先生「各自!部屋に荷物を置いたら、ジャージに着替えてロビーに集合。ウォーミングアップから始めるよ。返事は?」
 
グッチ「はい!」
 
中西さん「はじめまして」
 
グッチ「吉岡さん、知らない生徒がいます」
 
 
 
 
 
さおり「この本は、まだ未完成です。これをみんなで、完成させたいです。よろしくお願いします」
 
部員「よろしくお願いします!」
 
 
さおり「じゃあ配役。ジョバンニ、ユッコ」
 
ユッコ「はい」
 
さおり「カンパネルラ、中西さん」
 
中西さん「はい」
 
さおり「先生、明美ちゃん」
 
明美ちゃん「はい!」
 
 
 
 
 
明美ちゃん「では一体、本当はなんでしょう?」
 
さおり「みんなそれぞれに手を挙げる」
 
 
中西さん「こっちは胡桃の実だ!たくさんある。川から流れてきたのかな」
 
ユッコ「違うよ、これは岩の中にあったんだ」
 
中西さん「どういうこと?」
 
ユッコ「ねぇカンパネルラ、」
 
 
 
 
 
ユッコ「どうした?あんなに書けないって言ってたのに」
 
さおり「ふっ、ちょっと、降りてきた。神様が」
 
ユッコ「へぇー」
 
さおり「どう?大丈夫かなあれで」
 
ユッコ「いんじゃない?どうせならさおりとやりたかったけど。今更か」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「え?」
「赤とか、あんま好きじゃないのかなって思っちゃうかな」
「ああ、なんか。こういうのもいいかなって思って」
「いいんじゃない。すごい似合ってる」
「そうですか」
「なんか明るい色のほうが似合うんじゃない?」
「そうかなぁ」
「うん、可愛い」
「ふーん」
 
「早く夏くればいいのにね」
杉田先輩「えぇ?終わったばっかじゃん」
「うーん、そうだけど」
杉田先輩「暑いのやだなぁ」
「そう?」
杉田先輩「うん、秋が1番好き」
「あぁ…そうかねぇ」
 
 
 
 
 
吉岡先生「チラシとか見ると面白いのいっぱいやってるよ」
 
さおり「こんなにたくさんやってるんですね」
 
吉岡先生「すごいいっぱいやってる」
 
 
杉田先輩「高橋さん!」
 
さおり「先輩!」
 
杉田先輩「あはは!みんなだ!ありがとうございます」
 
吉岡先生「どうも、春から演劇部を手伝ってる吉岡です」
 
杉田先輩「杉田です。お話、うかがってます」
 
がるる「先輩雰囲気変わったね」
 
 
杉田先輩「どうだった?難しかった?」
 
明美ちゃん「面白かったです!」
 
杉田先輩「本当!出番ちょっとだから、見てもらうの申し訳なかったんだけど」
 
明美ちゃん「全然!杉田先輩の演技が見れて、すごい感動しました」
 
杉田先輩「本当?良かった」
 
 
劇団員「すいません、ちょっとごめんなさい」
 
部員「なにこれ動いてる!可愛い」
 
中西さん「オリザさんじゃない?」
 
明美ちゃん「オリザさん?見して見して」
 
 
杉田先輩「久しぶり」
 
さおり「良かったです、見に来れて」
 
杉田先輩「なんか、みんなの顔見たら、やっぱり…」
 
 
吉岡先生「頑張ってるね、君たちの先輩」
 
劇団員「吉岡さん?やっぱり吉岡さんだ!え?え何してんすか?」
 
吉岡先生「いやぁちょっと」
 
劇団員「えええ辞めたって聞いてたのに!」
 
 
劇団員「杉ちゃん、片付け」
 
杉田先輩「はい!ごめん、行かなきゃ。感想お願い、メールでいいから。またね」
 
 
劇団員「そうだ、今日うちのスタッフ陣も見に来てるんですよ。良かったら会ってってくれませんか?」
 
吉岡先生「あああ大丈夫です」
 
劇団員「喜ぶんで絶対!お願いします!」
 
吉岡先生「ちょっとごめんすぐ戻るから!」
 
 
がるる「さすがだね、女王様」
 

 
 
 
 
1年「中西先輩も、卒業したら東京に出て女優さんになるんですか?」
 
中西さん「まぁおそらく」
 
袴田「先輩は地元に彼氏とかいますか?」
 
中西さん「大丈夫、興味無いんで今は」
 
1年「カッコイイ!」
 
明美ちゃん「ちょっとちょっとちょっと何聞いてんの?ごめんなさいほんと!」
 
ユッコ「ねぇはぐれるよ」
 
明美ちゃん「はーい!ユッコ先輩、人たくさんいますね。すごいなー都会っぽいなー」
 
 
ナリさん「なんか、明美って大変だね」
 
 
 
 
 
さおり「高くない?」
 
がるる「ほんとだー、高ーい!」
 
 
がるる「せんせー!」
 
吉岡先生「ん?」
 
がるる「行きと道違くないですか?」
 
吉岡先生「ちょっと」
 
 
吉岡先生「はい!着いた」
 
部員「うわぁ!すごい!」
 
吉岡先生「さすがに銀河は見えないけどさ」
 
明美ちゃん「綺麗…」
 
吉岡先生「でしょ?あんまり教えたくなかったんだけど」
 
明美ちゃん「先生が!」
 
吉岡先生「何それ?気づかなかったの今まで」
 
 
吉岡先生「ちょっと前まで暮らしてたの。この街で、私も。大学行って、バイトして、稽古通って。いっっぱいいるんだよそんな人が、この街には。それこそ、星の数ほど。今は、君たちもその一員。そう考えるとどう?少しは心強い?」
 
 
がるる「ユッコさーん?感動しちゃったみたいです、うちのお姫様」
 
ユッコ「うるさいなぁもう」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
さおり「寝ないの?」
 
ユッコ「うん、なんだろ。興奮してるのかな」
 
さおり「分かる」
 
 
ユッコ「ごめん」
 
さおり「え?」
 
ユッコ「いや、むしろありがと」
 
さおり「なんだよ」
 
ユッコ「台詞。言いたい台詞ばっかりだよ」
 
さおり「ふふ。じゃあ言え。どんどん言え」
 
ユッコ「言うよ。いっぱい言って、死ぬほど稽古して、死ぬ」
 
さおり「ふふ、死んじゃダメだ」
 
 
ユッコ「謝ったのは、ヤキモチ焼いたから。さおりがどんどん先に行くから、置いてかれる気がして」
 
さおり「そんなこと…」
 
ユッコ「ねぇ、私と中西さん、どっちが好き?」
 
さおり「は?」
 
ユッコ「いや変な意味じゃなくて。あ、じゃあ、さおりが役者で出るとしたら、どっちと共演したい?」
 
さおり「ユッコはユッコ、中西さんは中西さん。私はみんなを、最高に良く見せる人。でしょ?」
 
ユッコ「優等生か」
 
さおり「部長ですから」
 
ユッコ「じゃあ私は、さおりの書いた台詞を、最高に良く言う人。あと、共演者を最高に良く見せる人」
 
さおり「ふふっ」
 
ユッコ「なによ」
 
さおり「そんなことも言えるようになったんだね」
 
ユッコ「なにそれ!」
 
 
吉岡先生「起きてたの?」
 
さおり「出掛けてたんですか?」
 
吉岡先生「うん、大学時代の友達に会ってきた。いやー、元気貰ったわ。寝るよ!」
 
さおり「おやすみなさい…」
 
吉岡先生「あ、良くないよ、睡眠不足は」
 
 
ユッコ「東京来てさらに生き生きしてるね吉岡先生。…どした?」
 
さおり「煙草の匂いがした」
 
ユッコ「東京だね!」
 
さおり「東京だ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
カンパネルラ「2人が宇宙船に乗ってて、2人のうちのどちらかが助かるとしたら、2人とも一緒に死ぬのは幸せだろうか」
 
 
さおり「えージョバンニのブラックホールからお願いします」
 
ユッコ「はい」
 
 
さおり「はいストップ!」
 
 
さおり「あと中西さん、最後の立ち位置なんだけど」
 
 
さおり「じゃあ今1回後ろ捌けてみてください
 
 
さおり「はい!」
 
先生「さようなら」
 
生徒「さようなら!」
 
ザネリ「行こうぜカンパネルラ!」
 
カンパネルラ「うん!」
 
 
カンパネルラ「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎えに来たんだと思う、きっと」
 
ジョバンニ「カンパネルラ、髪が濡れてるよ」
 
カンパネルラ「あ、しまった!」
 
吉岡先生「ストップ!語順が一定してない。きっとを前に持ってくるか後に持ってくるかで、微妙にニュアンス変わってくるよね?」
 
さおり「はい」
 
吉岡先生「台詞は正確に」
 
中西さん「はい」
 
吉岡先生「いい?演劇は、1発勝負じゃないの。本番のたびに同じことを繰り返さなきゃいけないの。偶然に頼らない。最後に勝つのは、ちゃんと計算された演技だけ。分かった?
 
部員「はい!」
 
がるる「こえぇ…」
 
グッチ「はい、よしもう一回」
 
 
灯台守り「シグナルのように灯台が、チカチカチカチカしてしまって」
 
鳥捕り「そりゃあ私たちには、…そりゃあ私たちにはありがたいが」
 
 
 
 
 
ユッコ「今も学校に飾ってあるよ」
 
高田「今度はお父さんラッコの毛皮を持ってくるって」
 
 
 
 
 
ザネリ「親父さんはいつ毛皮の、…ラッコの毛皮を持ってくるのかな?」
 
生徒「嘘つきジョバンニ!」
 
 
 
 
 
袴田「先輩、台詞合わせてもらってもいいですか?」
 
中西さん「あ、うん」
 
袴田「ありがとうございます」
 
 
中西さん「あの赤い光はなんだろう?」
 
 
中西さん「そこには、何もないわけじゃない」
 
 
 
 
 
さおり「はい!」
 
ジョバンニ「僕にはただのポケットの紙切れにしか見えないけど」
 
 
さおり「キリのいいところで大丈夫」
 
中西さん「うん」
 
 
吉岡先生「どうした?」
 
さおり「なんか…」
 
 
カンパネルラ「僕たちに信号を送ってるんだ」
 
ジョバンニ「ほんとに?」
 
 
さおり「ちょっと意識してみて」
 
明美ちゃん「はい」
 
 
 
 
 
さおり「集合!」
 
部員「はい!」
 
 
吉岡先生「あっという間の3日間だったね。お疲れ様でした」
 
部員「お疲れ様でした!」
 
吉岡先生「充実した稽古だったと思います。これから先もし、舞台のことでどうしようもなく迷うことがあったら、その時は稽古のことを思い出してください。答えは全て稽古場にある。まあ、私がただの稽古好きだってこともあるんだけど。でも、それくらい大事だと思います、稽古場が。この先、本番までまだ沢山稽古をするけど、ひと時も無駄にしないで。高橋さんを信じて、何度でも何度でも繰り返そう!」
 
部員「はい!」
 
グッチ「3日間お疲れ様でした!えーこの合宿をほんとにお疲れ様でしたお疲れ様でした帰り気をつけましょう!」
 
 
 
 
 
さおり「先生!前に聞かれた質問ですけど、今答えてもいいですか?」
 
吉岡先生「質問?」
 
さおり「責任の話。いいです、取ってもらわなくて。言ったでしょ先生、そこまで責任は取れないって。
いいですそんなの、人生狂っても。だって、私たちの人生だもん」
 
吉岡先生「…だね!」
 
さおり「だから、まだよく分からないことばっかりですけど、これからも、よろしくお願いします」
 
ユッコ「お願いします」
明美ちゃん「お願いします」
がるる「お願いします」
部員「お願いします!」
 
吉岡先生「こちらこそ!」
 
 
グッチ「バス来た、バス来た!バス来た!渋滞してるよもう、早く!」
 
吉岡先生「行くよ!」
 
部員「はい!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
つづく