幕が上がる文字起こし3 (スランプ〜県大会) | yoskのブログ

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県大会

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
夏休みが終わり、地区大会を1カ月後に控えた頃、明美ちゃんが突然行き詰まった。
 
 
 
先生「みなさん今日は星祭りの日ですね!」
 
さおり「はいはい!その手が要らない」
 
明美ちゃん「あ、はい」
 
さおり「最初の台詞から」
 
明美ちゃん「はい」
 
 
先生「川に烏瓜の実を」
 
さおり「動いてる。落ち着いて」
 
明美ちゃん「はい」
 
さおり「ゆっくり」
 
 
先生「星の動きで季節を」
 
さおり「あるいは、の後も。もうちょっと空けて」
 
 
 
何て言えばいいか分からない。だから私も、行き詰まった。
 
 
 
 
 
三宅先生「落し物?」
 
生徒「なんかあっちに、ありました」
 
三宅先生「ふーん」
 
 
グッチ「吉岡さん?今日…出張なんだよ。しばらく稽古も出れないかもな。新人だからさ、研修とか?色々あんだよ」
 
 
 
こんなとき、吉岡先生ならどうするんだろう。
 
 
 
灯台守り「おお、今日はたくさん捕れたみたいだね」
 
カンパネルラ「ほんとだ!」
 
ジョバンニ「すごーい!」
 
 
 
吉岡先生なら、どうするんだろう。
 
 
 
さおり「ごめーん!今から作業の時間にします」
 
部員「はい!」
 
がるる「じゃあみんな、上で作業しよっか」
 
部員「はい!」
 
 
さおり「明美ちゃん」
 
明美ちゃん「はい」
 
さおり「どうすればいいんだろうね」
 
 
 
 
 
先生「大きな望遠鏡で、この天の川を眺めると」
 
 
先生「では、カンパネルラさん」
 
さおり「はい」
 
 
さおり「もっっとゆっくり」
 
明美ちゃん「そうでしたね、ジョバンニさん」
 
 
さおり「この天の川を」
 
明美ちゃん「この天の川を」
 
さおり「うんうん」
 
明美ちゃん「はい」
 
さおり「もっとでも大丈夫なくらい」
 
明美ちゃん「はい、分かりました」
 
 
 
 
 
ムラ「明美なら大丈夫だよ。さおさんいるし」
 
ナリさん「うん、そうだね」
 
 
中西さん「外で一緒にやらない?」
 
ユッコ「…いいよ」
 
 
がるる「私分かるんだよねー、ジョバンニの気持ち。父親いないし」
 
1年「どういうことですか?」
 
がるる「いやだから!まぁ受け入れなきゃいけない孤独もあるけど、受け入れきれもしないわけよ。だって信じてもいたいし。1人だけど、1人じゃない!みたいな」
 
高田「え?えごめんなさい、え?」
 
がるる「いやもうだから!ちょっと、台本持って来な!」
 
 
 
 
 
さおり「いっぱいあるよやれること」
 
明美ちゃん「はい!」
 
さおり「むしろこっちがごめん。私が1番ダメだ、吉岡先生いないと」
 
明美ちゃん「そんな事ないです!」
 
さおり「正直怖い。大会とか無くていいのにね。あ、みんなには内緒ね」
 
明美ちゃん「はい」
 
さおり「こうやって何かに向かって、ずっと歩いてるだけでいい。どっかに辿り着いたら、そこで終わっちゃうかもしれないでしょ?」
 
明美ちゃん「私も似たようなこと考えます。このまま時間が過ぎれば、さおさんがいなくなる日は絶対来る。残酷です。
部活って、いつか必ず辞めなきゃいけない。時間は止められないんです。この本にも書いてありますよね。カンパネルラが死んで、でも、ジョバンニは生きてて。ジョバンニだけは、生きていかなきゃいけなくて。それって、生き死にだけの話じゃなくて、私たちみんながそうで」
 
 
 
この子は凄い。合わせてやりたいよ、2年の頃の私に。
 
 
 
明美ちゃん「私、好きですさおさんのこと」
 
さおり「…ん、それは、あれだね?先輩として、ってことだね?」
 
明美ちゃん「…はい!」
 
さおり「びっくりしたぁ!ちょっといきなり何?ほんとにびっくりした!」
 
明美ちゃん「だって、思ったから!」
 
 
さおり「いやいやいやいや、ちょいちょいちょいちょいちょい、違うから!どうぞどうぞ」
 
1年「あの袴田が明美先輩のこと心配して!」
 
1年「すいません邪魔しちゃって!」
 
明美ちゃん「いいのにみんな!」
 
1年「だって明美さんいつも私たちのこと心配してくれるから」
 
明美ちゃん「いいのにほんとにもう!」
 
さおり「人望あるんだね、明美ちゃんって」
 
明美ちゃん「いやいやいやいやでも、私は、さおさんのことが好きだから。さおさんが1番ですからね!」
 
さおり「いやいいよ!」
 
明美ちゃん「だよねみんな?」
 
袴田「私は明美先輩が好きです!」
 
1年「空気読んで葵!」
 
明美ちゃん「嬉しいなぁあはは」
 
袴田「これお2人で食べてください!」
 
明美ちゃん「いいの?」
 
さおり「いやみんなで食べようよ!」
 
 
 
 
 
中西さん「いいチーム」
 
ユッコ「え?」
 
中西さん「みんなほんとにここに居たがってる。羨ましい」
 
ユッコ「羨ましいって、同じチームじゃん、中西さんも」
 
 
ユッコ「ね、この台本って中西さんのアイディア?そんな気がしたから」
 
中西さん「それは全部演出が」
 
ユッコ「でも!書かせたのは中西さん。私こそ羨ましいよ。できないもん私には、そんなこと」
 
中西さん「ないものねだり!」
 
ユッコ「だってほら、どっちもなんか欠けてるから、人として?」
 
中西さん「よく言うよ!もう!」
 
ユッコ「ねえ待って!…まさか分かってて組ませたのかな、あいつ」
 
中西さん「あ、あるかも。嫌なとこばっか見てるしあいつ」
 
ユッコ「そうなんだよあいつ」
 
中西さん「何にも分かりません、とか言うくせにね、あいつ」
 
ユッコ「あいつ!」
 
 
1年「先輩!さおさんが呼んでます、そろそろ稽古したいって」
 
ユッコ「はーい」
 
中西さん「はーい。ねぇなんでここにいるって思ったの?」
 
1年「さおさんが多分ここだって」
 
ユッコ&中西さん「あいつ~!」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ユッコ「吉岡先生は?」
 
さおり「まだ」
 
 
 
 
 
審査員「7校の演目には、私たちの心に伝わってくるものが、きっとあるに違いない!そう信じて、それをしっかり受け止めて、見届けたいと思います」
 
 
 
 
 
グッチ「吉岡さん遅い… 吉岡さん…」
 
係員「富士が丘高等学校の皆さん、スタンバイお願いします」
 
部員「はい」
 
グッチ「ちゃんとした顧問がまだ来てないんですけど」
 
係員「あ、大丈夫です先生でも」
 
グッチ「いや、大丈夫じゃなくて、こっちが大丈夫じゃないんで」
 
 
さおり「行こうか」
 
部員「はい」
 
 
ユッコ「遅い先生!」
 
吉岡先生「ごめん!ごめんね」
 
さおり「いえ」
 
がるる「先生、なんか一言」
 
吉岡先生「…じゃあ、目を閉じて。稽古場のことを思い出そう。…どう? 
…いい顔。思う存分やっちゃいなさい!」
 
部員「はい!」
 
 
 
 
 
部員「お疲れ様でした!」
 
係員「富士が丘高等学校、始めてください」
 
部員「よろしくお願いします!」
 
 
 
仕込み終了まで20分。
 
 
 
さおり「10分前!」
 
部員「はい」
 
 
部員「ファイトー、オー!」
 
 
 
 
 
さおり「照明、音響、最終確認」
 
1年「照明聞こえてます」
 
1年「音響、聞こえます」
 
さおり「1分前!」
 
 
さおり「定刻通りです」
 
「了解。定刻スタート」
 
さおり「緞帳スタンバイ。5秒前、4、3、2、スタート」
 
 
 
 
 
先生「さて、では。これまでの授業のまとめをします。
こうして、夜の空に…」
 
 
ジョバンニ「洗濯液の匂いが手について、ザネリにいつも、臭い!って言われます。それからザネリには、お父さんがラッコの毛皮を狩ってくるよー って、馬鹿にされます。
アイロンがけはまだやらせてもらえないので、1番の仕事は、洗濯物を干すことです!」
 
 
町人「こんにちはジョバンニ」
 
ジョバンニ「こんにちは!」
 
町人「町にお使い?」
 
ジョバンニ「ミルクを取りに」
 
町人「まあ、そう、偉いのね」
 
ジョバンニ「ありがとう!」
 
 
ザネリ「ジョバンニ、お父さんがラッコの毛皮を持ってくるよ~!ハハハハ…」
 
 
ジョバンニ「天空をゆっくりと動いてく、星座盤みたいだった」
 
 
車掌「銀河ステーション、銀河ステーション」
 
 
カンパネルラ「人のために1番いいことをしたら、お母さんは喜んでくれるかな」
 
 
ジョバンニ「あ!もうすぐだね!
降りてみようか!」
 
カンパネルラ「うん、降りよう!」
 
 
ジョバンニ「先生!」
 
先生「ジョバンニさん!」
 
ジョバンニ「先生、カンパネルラが、あの、僕、さっきまで…」
 
先生「カンパネルラが!川に落ちました」
 
 
ジョバンニ「カンパネルラ!あ」
 
カンパネルラの父「ジョバンニ君」
 
ジョバンニ「カンパネルラのお父さん」
 
 
ジョバンニ「どこまでも、どこまでも一緒に行きたかった。でも、一緒に行けないことは、僕も知っていたよ。
カンパネルラ、僕にはまだ、本当の幸せが何かは分からない。それでも僕は、それを探して生きていく。
カンパネルラ!また、いつか、どこかで!」
 
 
 
 
 
さおり「緞帳ダウン。3、2、スタート」
 
 
係員「撤収お願いします」
 
さおり「はい。撤収!」
 
 
さおり「反省は後。バラシに集中して、怪我したら出れないよ県大会」
 
明美ちゃん「…はい」
 
 
 
 
 
吉岡先生「3年生は客席へ。清進学院の上演見てきて。片付けは1,2年で」
 
部員「はい」
 
中西さん「お願いね」
 
 
中西さん「行こう。行こう!」
 
 
 
 
 
「ざわざわざわ!ばさばさばさばさ!
偶然じゃないわ!私ここで待ち伏せしてたの。2年1組の松尾ケンジ君、あなたの事は調べさせてもらったわ
でもぉ!言えるわけねぇだろ!
大変失礼なんですが!野球、教えられますか?
わが教えられるのは、イタコの技だけだ
か、ち、か、ち、か、ち
すばばばばばば、バーン!キャプテン!カズキ君!
俺、…ピッチャー!
よっしゃー!」
 
 
 
 
 
司会「それでは、審査結果の発表に移ります」
 
 
 
予選を通過するのは3校。
 
 
 
審査員「最優秀校は、清進学院高等学校」
 
 
司会「続いて、優秀校2校の発表です」
 
 
 
負ければそこで終わり、そんなことは分かってる。
 
 
 
審査員「優秀校は」
 
 
 
ごめんなさい。我儘なのは分かっています。でも、お願い。
 
 
 
審査員「犀川大附属高等学校」
 
 
 
神様、もう1度だけ。もう1度だけ私たちにチャンスを。
 
 
 
司会「そしてもう1校、優秀校は」
 
 
 
神様、お願い!
 
 
 
審査員「富士が丘高等学校」
 
 
部員「…やったああ!!うおおおおお!!やったあああ!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
グッチ「美味しいねえ。うん、美味しいねえ!」
 
ユッコ「美味しい~」
 
グッチ「今日は先生の奢りです!」
 
部員「イェーイ!」
 
がるる「はいはいみんな、ジャンジャンおかわりしてね!」
 
部員「はーい!」
 
グッチ「おい!」
 
 
中西さん「先生、来週は来られるんですか?」
 
吉岡先生「ごめん、肝心なときに力になれなくて。大丈夫、まだまだ良くなる。もっといける!」
 
さおり「はい!」
 
 
明美ちゃん「よーし、県大会は~ ぶっちぎりで、勝ーつ!」
 
吉岡先生「よーし、絶対に、勝ーつ」
 
さおり「勝ーつ!」
 
部員「勝ーつ!」
 
グッチ「ちょっと静かにしようか、レストランだから。静かにしよう、うん」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
滝田先生「もしもおまへが
よくきいてくれ
ひとりのやさしい娘をおもふやうになるそのとき
おまへに無数の影と光の像があらはれる
おまへはそれを音にするのだ
みんなが町で暮らしたり
一日あそんでゐるときに
おまへはひとりであの石原の草を刈る
そのさびしさでおまへは音をつくるのだ
多くの侮辱や窮乏の
それらを噛んで歌ふのだ
もしも楽器がなかったら
いゝかおまへはおれの弟子なのだ
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光でできたパイプオルガンを弾くがいゝ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
部員「5、6、7、8!1、2、3、4。5、6、7、8!」
 
グッチ「ちょっとストップ」
 
 
グッチ「彼女から手紙を預かってます。読み上げます」
 
がるる「え待って、全然分かんない」
 
グッチ「だから、…辞めるんだ先生を、吉岡さん」
 
 
グッチ「読みます。
 
演劇部の皆さんへ。地区大会通過、おめでとう。そして、ありがとう。皆さんと一緒に、この喜びを分かち合えないことが、残念でなりません。
私は、この10月で教師を辞め、役者になります。本当に、本当にもう諦めたつもりでした。ごめんなさい。ただ、皆さんには、きちんと経緯を説明しておいたほうがいいと思って、この文章を書いています。
夏休み、東京で合宿をしたときのことです。そのときに見学に行った劇団の、若い演出家が、不意に大きな舞台を任されることになり、そこで女優を1人探していると話してくれました。当然私には関係の無いことだと思いました。でもその演出家に、オーディションだけでも受けてくれと言われ、私は溝口先生に相談して、仕事の合間にそこに参加することにしたのです。その時点で、私の気持ちはもうどうかしてしまっていたのでしょう。
そのオーディションは本当に楽しかった。一流のスタッフ、一流の出演者、そんな中に混ざって、一緒に何かを作っていくことが、私にはたまらない喜びでした。そして私が選ばれました。私は、お願いしますと答えていました。やはり私は、教師ではなく、役者でした。
ただ1つだけ言い訳させてもらえるなら、あなたたちに出逢わなければ、オーディションを受けようなんてきっと思わなかった。あなたたちを見ていて、私は演劇の豊かさを思い出したんです。それほどまでに、あなたたちは眩しかった。あなたたちは素晴らしい。本当に。
相談した母は、泣き崩れて反対しました。私は母を裏切り、皆さんを裏切り、それでも尚、演劇の道を進もうとしています。でも今はそれしか考えられません。
高橋部長、あなたは、自分で思っている以上に優れた演出家です。大丈夫、絶対大丈夫。
せめて県大会まではと思っていたけど、それも無理なようです。もう、会うことすら出来ないかもしれません。ごめんなさい。
私も頑張ります。頑張ってください。皆さんの力を信じています。吉岡美佐子」
 
 
 
 
 
グッチ「以上。確かに俺も相談を受けてた。黙っていて、すまん。」
 
 
明美ちゃん「あの、…行くん、ですよね、私たち、県大会!」
 
グッチ「…今日は、解散」
 
 
 
 
 
グッチ「高橋、お前に」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
高橋母「どうしたの?」
 
さおり「なんでもない」
 
高橋母「ご飯は?」
 
さおり「大丈夫」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
滝田先生「宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした
 
えーここで言う、宇宙がどんどん膨らんでゆくとは、つまり、相対性理論のことですね。まぁ皆さんにはバンドの名前と言ったほうが通りがいいのかもしれませんが」
 
生徒「ふっ、若い」
 
 
滝田先生「ところで、先日、演劇部の大会を観てきました。我が校の銀河鉄道の夜も拝見したんですが、これが実に素晴らしかった。あれは、高橋さんが書いたの?」
 
さおり「え、いえ。みんなで。」
 
滝田先生「そう。いや、いずれにしても素晴らしかった。
宮沢賢治は相対性理論や、当時の最新の宇宙論に大きく影響を受けたと言われています。例えば、どこまでも行ける切符だとか、最後のブラックホールの話なんか、その表れでしょう。宇宙は光の速さで広がっていく。だから私たちは、どうやっても、宇宙の果てには辿り着けない。辿り着きようがない。でも、切符だけは持っている。どこまでも行ける切符。君たちの作品を観ながら、私はそんなことを考えました。
…残念、今日はここまで」
 
生徒「起立!例!ありがとうございました」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
さおり「このノートには、色んなことが書いてあるのね。作品のこととか、私のこととかみんなのこととか。ごめん、結構色々書いてある。
で、これ読み直すとね、だいぶ遠くまで来たかんじがするの。最初の方とか酷いよ。お前ら大丈夫か?ってかんじ。
でも、実は今もあんまり変わんないんだよね。大丈夫か私たち、って思ってる。気づいたらずっとそう思ってる。なんなんだろうね、この …不安感?
でね、思ったの。今日の授業中に。私たちは、舞台の上でならどこまででも行ける。想像するだけなら無限だよ。でもね、でも私たちは、どこにも辿り着けないっていうか、私たちが歩いた分だけ、いや、私たちより、何倍も何十倍も速く、宇宙とか世界とかも広がってて、どんなに遠くに来たつもりでも、そこはやっぱり、どこでもないどこかでしかないんだなって。辿り着けないんだ、宇宙の果てには。それが不安ってことなんだなって。私たちのことだなって。そう思いました。
最初は、ただもう必死で書いた、下手くそな台本だったけど、みんなのこととか考えながら書いてるうちに、ちゃんと、ちゃんと私たちのことが詰まってたんだなって。
だから、ここで辞めるわけにはいかない。だってそれは、自分自身を辞めるってことだから。私は続けます。行こう、全国に!」
 
 
 
 
 
ユッコ「…行くぞ!全国!」
 
&がるる「行くぞ!!全国!!」
 
&中西さん「行くぞ!!!全国!!!」
 
&2年「行くぞ!!!!全国!!!!」
 
&1年「行くぞ!!!!!全国!!!!!」
 
 
ユッコ「こんなかんじですけど?部長」
 
さおり「うん!やろっか、稽古」
 
部員「はい!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
さおり「見んなよ」
 
高橋母「ごめーん。どう?演劇のほうは」
 
さおり「楽しいけど?」
 
高橋母「今やすっかり演劇の人だ」
 
さおり「心配?」
 
高橋母「そりゃあ、勉強してくれたほうがいいに決まってるけど、でもそればっかり考えてる親なんていないからね実際は。やりたいことがあってくれれば、それでいいのよ」
 
さおり「ふーん」
 
高橋母「ねぇ、行きたい?東京」
 
さおり「なに?急に」
 
高橋母「続けたいんじゃないの?演劇」
 
さおり「…分かんない」
 
高橋母「…プッ、もう」
 
さおり「なに!」
 
高橋母「だって!損だよその性格!」
 
さおり「親が言うなよ」
 
 
さおり「痛ーい」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ザネリ「先生!」
 
先生「何?」
 
ザネリ「ジョバンニが寝てます」
 
先生「あら」
 
ザネリ「起こしますか!」
 
先生「いいえ…」
 
 
車掌「これは、三次元空間の方からお持ちになった物ですか?
本当の天井にまで行ける…」
 
 
少年「いつかお別れをしなければなりません」
 
ジョバンニ「いいや、僕たちはどこまでも一緒だ!どこまでも一緒に行ける、切符を持っているんだ!」
 
 
ジョバンニ「宇宙はどんどん広がっていく。だから、人間は、いつも1人だ。
僕もずっと持ってるからね。
カンパネルラ!また、いつか…」
 
 
 
 
 
さおり「ステージ袖から、みんなのことを見守ってます。
伝えてあげてお客さんに!」
 
部員「はい!」
 
 
 
 
 
がるる「片付け完了!」
 
さおり「ありがとう」
 
ユッコ「はい、じゃあ並んで!明美ちゃんも」
 
明美ちゃん「はい」
 
ユッコ「地区大会の前にもやったんだけどね」
 
がるる「最後の稽古のときは、3年生だけでこうするの」
 
さおり「じゃあいい?…ありがとうございました!」
 
3年「ありがとうございました!」
 
明美ちゃん「ありがとうございました!」
 
ユッコ「いいねぇ」
 
がるる「来年は、明美ちゃんがこれをみんなに教えるんだからね」
 
さおり「ちょっと!それは大会終わってから言うって決めたじゃん!」
 
明美ちゃん「え?もしかしてもしかして、そういうこと?そういうことですかね?そういうことですよね?はあー!」
 
 
ユッコ「星でてるかも!」
 
中西さん「見えた?」
 
さおり「姫と王子。…どれどれ?」
 
中西さん「人生そうそう上手くいきませんなぁ」
 
さおり「いいよ。これで星まで見えたら出来過ぎだよ」
 
 
明美ちゃん「そういえば、お誕生日ですよねさおさん」
 
さおり「え?」
 
明美ちゃん「今日」
 
さおり「あぁ…」
 
ユッコ「やだ忘れてたの?」
 
がるる「てかみんな!」
 
さおり「だってそれどころじゃなかったんだもん!」
 
中西さん「覚えてたんだ。マメだね明美ちゃんって」
 
 
明美ちゃん「はい!じゃあ私歌います!」
 
3年「おぉ~!」
 
明美ちゃん「はぁっぴばーずでーとぅーゆ~」
 
&がるる「はぁっぴばーずでーとぅーゆ~」
 
&ユッコ&中西さん「ハッピーバースデ~ ディアさおり~」
明美ちゃん「さおさん~」
 
4人「ハッピーバースデートゥーユー」
 
さおり「ちょっと!」
 
がるる「ロウソク!火!火!火消して!」
 
さおり「あぁ、ふーっ」
 
がるる「ヒュン」
 
4人「おめでとー!」
 
さおり「どうも。少しは大人になれたかしら?」
 
がるる「なれたのじゃ、ないかしら?」
 
さおり「おぉ!」
 
ユッコ「なれてないのじゃないかしら?」
 
さおり「ちょい」
 
 
明美ちゃん「なんかさおさん、吉岡先生みたい。…あ、ごめんなさい」
 
さおり「いいじゃん。なれるもんならなりたいよ、あんな風に」
 
がるる「逢えるかな、いつか」
 
明美ちゃん「観に行きたいですね、吉岡先生の舞台」
 
がるる「いいねぇ!」
 
ユッコ「いや、私は共演するね!」
 
中西さん「いいや私も!」
 
がるる「じゃさおりが演出で」
 
さおり「え~」
 
ユッコ「それいい!シゴいてやろうよビシビシ。いつやろっかそれ」
 
がるる「その前に受験…」
 
ユッコ「やめてよそれ言うの」
 
 
さおり「先生がくれた手紙にね、書いてあった。いつかあなたの舞台に立ちたい、って」
 
ユッコ「えぇ凄い!」
明美ちゃん「フゥフゥ!」
 
さおり「いやいつかね!いつか!分かんないよ。明日負けたら、もう2度と演劇なんて、って思うかもしれないよ私」
 
ユッコ「ちょっとぉ」
 
明美ちゃん「じゃあ絶対負けない!絶対」
 
がるる「うん!」
 
 
さおり「ま、いつか逢えますさ」
 
中西さん「いつかね」
 
 
ユッコ「あ、見て見て!」
 
がるる「うっそー」
 
さおり「人生も、なかなか乙なもんですなぁ」
 
4人「ですなぁ~!」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
中西父「おいおい立派だねこれ!」
 
中西母「うるさいって言ってるでしょ!」
 
 
グッチ「橋爪さん!先日は車ありがとうございました」
 
橋爪父「あぁいえいえどうもどうも。あぁ先生、これユッコの€<・¥4]$+€7→・¥:%÷88[・」→$°*♪」
 
グッチ「おぉ、ああそうですか!ああ初めまして、溝口と申します。おぉ、全然似てない、ですね」
 
橋爪父「いやいや¥$○→÷°〆,[:+€%々*」
 
グッチ「ハッハッ…え何て?」
 
 
加藤母「あ、先生!あの、加藤明美の母親でございます」
 
滝田先生「あぁそれはそれは」
 
 
係員「おはようございます!」
 
高橋母「いらっしゃいよもう!ダラダラダラダラしてお前は」
 
 
加藤母「ほらあなた早く早く!すいません」
 
滝田先生「いえ」
 
加藤母「早く早く!」
 
加藤父「ママ早いよぉ~」
 
 
西条祖父「いつも美紀がお世話になっております」
 
高橋母「あ、がるるちゃんのお爺ちゃん!」
 
西条祖父「が、がるる?」
 
高橋母「がるる」
 
西条祖父「がるる」
 
高橋母「えぇ、下がるんです」
 
 
 
 
 
 
係員「はい、それでは。仕込み、開始してください」
 
さおり「富士が丘高校です!」
 
部員「よろしくお願いします!」
 
 
 
先生。この手紙は、このノートに書いた手紙は、きっと誰にも届きません。届けるつもりもありません。だけど、それでも今、私はここに手紙を書いています。
今先生に会ったら、私はきっと酷いことを言ってしまいます。だって本当に酷いから。でも間違ってない。先生は正しいです。
 
 
 
さおり「集合!」
 
 
 
先生に会うまで、私はずっと何かにイラついていました。イラついて、いつも胸の奥で毒づいていました。そしてそんなことしか出来ない自分が嫌いでした。
 
 
 
さおり「どう?」
 
ユッコ「勝てる気しかしない」
 
中西さん「同じく」
 
明美ちゃん「私も」
 
がるる「楽しみすぎる!」
 
 
 
そんな私が今、ここにいます。
 
 
 
さおり「行くよ!劇部ー、1,」
 
部員「2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12、ファイト~、オー!」
 
 
 
ユッコがいて、がるるがいて。中西さんがいて、明美ちゃんたち後輩がいて。溝口先生もまぁいて。お父さんやお母さんや、たくさんの人がいて。私は今、ここにいることを許されています。
私にとっては、勉強も進路も、恋や友情だって全部現実です。でも、
 
 
 
さおり「照明、音響、最終確認」
 
1年「音響聞こえます」
 
1年「照明聞こえます」
 
さおり「定刻通りです」
 
 
 
でもそれ以上に今、目の前にあるこの舞台こそが、何よりも現実で、何よりも今で、
 
 
 
さおり「1分前」
 
 
 
何よりも私自身なんです。
それがやっと分かりました。
 
 
 
さおり「さあ行こうか」
 
 
 
先生。私をここまで連れてきてくれて、本当にありがとうございました。
 
 
 
 
 
吉岡先生「吉岡美佐子です。よろしくお願いします!」
 
 
 
 
 
さおり「よろしくお願いします」
 
 
 
私はここから、宇宙の果てを目指します。
 
 
 
さおり「緞帳スタンバイ。5秒前、4、3、2、スタート」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
fin.