『§まっすぐに生きるのが一番』
「第83話:「与えることが、生きること」
哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。
前回哲也は、優花のおばあちゃんから、『有ることが難しいことの大切さ』を改めて知った。
いろんなことがあたり前に有る世の中を勘違いして、本当は有ることがどれほど素晴らしく、感謝に値するかを肝に銘じたのだった。
「哲也、ご飯の準備できたわよ。と言ってもほとんどお母さんが作ったんだけどね。おばあちゃん、哲也を借りるわね」
「哲也さんお腹空いたでしょう。私の無駄話にお付き合いいただいて、ありがとうね」
「いえいえ、とてもいつもためになる話をありがとうござまいます。おばあちゃんは、いつもの時間にもうお食事を済まされたのですか」
「ええ、私は決まった時間に食事をいただいて、決まった時間に寝て、決まった時間に起きることが、生活のリズムになっているから、また時間があるときにいらっしゃい」
哲也はおばあちゃんとの大切の一時を過ごし、優花の家族が待つ食卓へと立ち上がったのだった。
夕食が終わると、哲也縁側の方へ歩いていくと、そこにはおばあちゃんが体操をしていた。
哲也は縁側に腰掛けると、おばあちゃんの体操を見ていた。
そこに夕食の後片付けをした優花がやってきて、哲也の側に腰かけた。
「哲也はおばあちゃんのことがよっぽど好きなんだね。なんかちょっと妬けるな」
「そんなこと思ってもないくせに」
「まあね。それにしておばあちゃんよく動くよね」
「毎日の日課にしているだろう。すごいと思うよ」
「そうね、私たちの方が不規則な生活をしてるわね」
「俺たちってさ、格段の不自由なくお金もあって、運もまあまあで、健康で特に不自由のない生活ができてるじゃん。
まあそうなるために、現在の環境や境遇を努力して獲得してきたわけなんだけど。
ふと、なぜ自分はそんなふうに幸福なんだろうかと」
「また難しいこと考えてるんだね。答えは決まってるじゃない。そういうふうになろうと努力してきたからじゃない」
「まあ、そうなんだけど。平均的人並みにはね」
「それ以上になにを求めるの?」
「なにと言われても・・・ね」
「貧しい時代から豊かになって、現代を生きる人たちの大きな課題でもあるわね」
「おばあちゃん、私たちの会話を聞いていたの」
「聞こえてきたと言うのが正解かな。現在に不満がある人は、与え方が不十分ということかな」
「与え方が不十分?」
「そう、私たちの最も基本的な成功の秘訣、最も有用な行動基準、そして最も生産的な方針は、おそらく一つの簡潔な言葉に集約することができると言えるわね。
それは、与えること。『与えることは生きること』。
すなわち、『生きるとは、与えること』。
まさかあなたたち、得られる物は何でも貰えるだけ貰って、出すものは損するので極力抑えるなんて、そんな考えで生きてはいないわよね」
哲也と優花は、おばあちゃんの言った言葉の真意を確かめるように互いに見合っていたが、答えを出せずまま二人して首を傾げた。
それを見たおばあちゃんは、
「与えることとは、与えることで相手が喜ぶということは人間の本源の心情・心根の理念。
見返りのない愛に根差していれば、与えるとは結局は取りも直さず自らに与えること。
すなわち、物心ともに豊かで健康な生活が約束され、これからも幸福を手に入れられる。
哲也さんの、なぜ幸福なのかの答えになったかしら」
哲也は、おばあちゃんの奥の深い言葉を一生懸命に理解しようとし、
何ごとにもまっすぐに、人が喜ぶために生きることだと、自分に納得させたのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
