普段はメールくらいでしか鳴ることのない携帯電話。
それを母は肌身離さず、トイレにもお風呂場にも持って行った。
何度見てもどこからもかかってこない携帯電話。
鳴るのは、家族からのメールを知らせる短い通知音ばかりだった。
「トルルルルル・・・・」
夕方突然鳴り響いたその音に、母は一瞬思考が停止した。
ずっと待っていたはずの電話。
なのに、いざ実際にかかってくると、うまく反応ができない。
見ると、知らない都内固定電話の番号だった。
鼓動が一層速まる。
え、どうしよう・・・。
いや、どうしようじゃなくて、早く出ないと。
誇張ではなく、高鳴る鼓動で震える指先。
通話ボタンを押した。
「はい。〇〇ですけど」
普段なら自分からは名乗らないはずなのに、今回だけは違う。
「もしもし・・・わたくし・・・」
電話の相手は女性だった。
女性の声だ!!!
「〇△⬜︎銀行××支店の☆☆と申します。
資産運用の件で・・・」
ブチッ!
話の途中で切ってやった。
そして、普段なら仕事柄絶対に使わない言葉で悪態をついた。
「ねっ!!!!!」