「運命との出逢い」


優しい姉妹が営む料理旅館の母屋で守られるように働くようになっていた絹子。


ある日の事です…

いつもと同じように、絹子はその日の出向き先・用事を書きこんだ用紙を手渡たされました。


そして、

『今日は天気も良いし、団体予約のお客様は、無いし宿泊客のお客様だけだから用事がすんだら後は好きなようにしても構わないよ』と言われ、絹子は前回いった時に気になっていた店があったので出向いてみようと思いました。

その店は、敷地の半分は駄菓子屋、そして後の半分は天ぷらやコロッケ、とんかつなどの揚げ物屋を営むお店でした。


店の前を通った時、いつも行列が出来ていて駄菓子屋のコーナーでは焼きそばの香りが漂い、とても美味しそうで気になっていたのです。


叉、そのお店を切り盛りしている店主が絹子の歳から考えると叔父さんや、伯母さんぐらいの年齢でした。


絹子は両親に育てられていないので、両親ぐらいの年齢の人や祖父母ぐらいの年齢の人には何故か惹かれていたのです。

絹子は、“今日 用事が終わったら必ずそのお店に行こう”と決め、母屋の仕事を終えて早速に出掛けました。

娘の私が思うに、母(絹子)は買った物をその場で食べられるような、いわゆる“立ち食い”をするような人ではありませんでした。


又、一人で“うどん屋”や“喫茶店”、“食堂”などに入る事が出来ない人だったので、母(絹子)の行動を推測すると、用事を終えた母(絹子)は電車や車など使わずに遠回りになるけどそのお店へ向かって歩いたのだと思います。


母(絹子)は、馴れぬ町だった名古屋での生活から、とにかく道を覚える為と交通費節約の為だとか、なかでも一番大切だったのは、生んでくれた母への深い想いがあったのです。


それは何があろうと、どんな事があろうと自分には生まれて与えて貰えた“歩ける足がある”という想いから、何処へでも何処まででも地を踏みしめるようにひと足ひと足を大切に歩く人でした。

そんな母、絹子は用事を終えて目的の店へ向かいながら道端に咲く小さな花を見つけては話し掛け、まるで遠足でも行くかのような気持ちで向かったのです。



時間が掛かりながらもようやく到着した店の前は、この前と同じように行列が出来ていましたが、その行列に並ぶのも絹子には嬉しくて、まるで心臓も喜んでるようでした。


長い列に並ぶ絹子、その前に並んでいた男性は普通の人より頭ひとつ半ぐらい背が高かったので何となく気になっていたそうです。


そうこうしているうちにやっと絹子の順番となったので、絹子は母屋で一緒に住み込みをしている人達の人数分のコロッケと、薩摩芋の天ぷらを買い、母屋に帰ったのです。

自分の足で稼いで手に入れたものは、やっぱり嬉しいものです。しかも自分以外の者にもその幸せを分けられる事もいまは出来るのです。絹子はそんな想いを感じながら、買ってきたコロッケと天ぷらを母屋の皆と広げました。


小腹がすいた時のコロッケと、薩摩芋の天ぷらを皆は食べるとみるみる満面の笑みで『美味しい』と言ってくれました。その笑顔と言葉が嬉しくて、またあちらに用事があればあのお店に寄り道して買って来ようと思ったそうです。

それから二週間程たった時、あの店の近くに用事があったので、その行列のお店に行きました。


時間帯にすると17:30~18:00ぐらいでした。だからでしょう、きっと夕飯のお惣菜の一品にするらしい婦人が今回は多く見られたのです。


その時、前回 訪れた時に少し気になっていた背の高い男性も列に並んでいたそうです。


何となく印象に残っていたので絹子はまた何故かその人が気になりましたが、コロッケと天ぷらを買うと帰り道を急ぎました。



そんな小さな出来事ですが、絹子は気になったので姉妹の女将二人にその男性のことを話してみたのです。


この時、絹子が初めて感じる心の動揺が何なのか分からなかったそうです。


だけどこれも、母(絹子)らしい相談事です。

女将二人は言いました。


『今度また逢うことがあったら、その時は軽く会釈してごらん。その後に何かあれば叉話しを聞いてあげますからね。』


絹子は、女将たちの言葉が何だか気になりましたが「はい。」と返事をしました。


それからも幾度か用事を終えた帰りにあのお店に寄るのですが、その男性に会う事は出来なかったそうです。


絹子はなんだか残念にさえ感じ、気が付けば諦めみたいな気持ちでいました。


月日も流れ、風鈴の音が涼しさを運ぶ季節となった頃、木漏れ日を見つけては、ついついその木の下で育ての親、祖父と祖母がいる生まれ育った紀州を思い出しては黄昏る絹子がいました。


そんなある日、女将から久々に『明日、いつもの所へ行って来てね。明日は久し振りにゆっくりしなさい。絹ちゃんは365日仕事してるようなものだし、盆や正月も、どこにも行かないのだから偶には映画でも観るかして遊んで来なさい。』と言われたので、絹子は驚きながらも「有難うございます。お言葉に甘えて、そうさせて頂きます。」と返事をしました。

あくる日、絹子は母屋のいつもの仕事を朝早くからこなし、女将から言われた所へ行って用事も済ませました。

それから好きな映画を観に行き(当時は二本立が主流)、観終わると少し空腹感を感じたのであの行列の店に行くことにしたのです。


そして行列に並んで順番を待つ絹子を後ろから“トントン”と肩を叩く人がいました。


“なんだろう…”と絹子が振り向くと、其処にはあの背の高い男性がいました。


~つづく~


母にしたら、初めての心の動揺ですね
それ迄は、仕事 仕事
どこかに実父が居るのでは何かと
外出もし無かった母が、安心して
外出も出来、仕事も綺麗好きな母に
ぴったりの仕事  母の事を事情を聞かされて
居る 料亭の姉妹女将が、護ってくれてる
様な眼差しで、幼い頃 私も会いに
行った時 母の部屋を教えて貰いその時の
優しい眼差しで、母をわが子の様に
話し掛けて居る様子が今思うと母の穏やかな
心を取り戻す事が出来たのだと
思いました。

m(_ _)m