「静かなる行動」


冬の風が肌に凍てつき、世間では暖かいコートを着こなす人達を見掛けるようになっていました。

 


絹子は、以前ならそんなに世間の変化を見る事などなかった。

名古屋に連れて来られてからは、いつも下ばかり見て歩いていた事に、やっと気付くのでした。


そういえば、2~3日前から義母と実父の態度がこれまで以上に冷たく、針を刺すかの様な視線を感じるようになっていた。

その理由は絹子も分かっていた。

 

“絹子の給料の前払いを店長に断られたに違いない” と、そう思った。

 

 

(もう実父が絹子の給料を取りに来ても、“絶対に渡さないで欲しい”という願いを、店長はその言葉を待っていたかのように固く約束してくれていた。)

そう、今日は絹子が働き始めてやっと初めて自ら手にするお給料日なのです。

 

 

朝から出勤する足取りも早く、叉 世間の衣替えを見る余裕さえ出ている自分に驚くほどでした。

いつもと同じ仕事なのに、気持ちがまるで違う。

 

 

この跳ねるような気持ちが、一ヶ月仕事してお給料を頂けるという“喜び”。

 


それが普通なのに、絹子には今まで手に取ることの出来ない“喜び”だったのです。

仕事が終わり、いつもの様に後片付けをして店長室に行きました。今日はお給料を受け取る為の印鑑を持参し、店長からは、『いつも良く頑張ってくれているね、ありがとう。ここで働くようになって始めてお給金を渡せられるね、ご苦労様です。』と、丁寧にお給料を渡して下さったのです。

絹子はお給料を手にしたとき、働く事の喜びが“お金”という形ある物だけではなく、この一瞬の言葉や気持ちにもある事を初めて知った。


絹子の頬には、おもわず歓びの涙が一筋流れ落ちた事も気にせずに店長に『ありがとうございます』と一言御礼をいうと、店長は絹子に『何かあったら、いつでも私に相談に来なさい。』と、言葉を掛けて下さいました。

 
 

その夕方、帰宅する絹子の足取りは羽でも生えたかのように軽やかだった。

 

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足の疲れさえも忘れるかのように家路を辿りながら考えた事は、紀州(新宮)に居る育ての親…祖父母の事だった。

絹子は帰路の途中にある文房具屋に寄り“封筒・便箋を買おう…”と思いました。小さな物だが絹子にとっては始めて自分のお給金から自由に買う品物です。

 

 

それほどまでに、義母と実父に、いままで遠慮し、身を小さくして生活していたのです。

 


そして絹子は、文房具屋で買った封筒に“一ヶ月分の食生活費”としての金銭を入れて帰宅しました。

絹子は、まず手荷物を置く為に部屋へ行き扉を開けました。

 

まだ嫁入り道具の和箪笥と鏡台は、無事でした。

 

 

ついこの間、義母と実父は絹子に黙って和箪笥を一竿売り払った所でした。だからまだ、その時の金銭に余裕があったのでしょう。

 


しかし、油断禁物です。

 

絹子は、“嫁入り道具がまだ残っている間は、ここに居られる時間がまだ残されている”と、そう思っていた。

荷物を部屋に置いて義母に年の暮れという事もあり、一ヶ月の食費“絹子の分”を渡しました。

 

 

義母は、ついこの間“絹子の和箪笥”を無断で売り払ったのに、当たり前のように食費の入った封筒を有難みも無く不服そうに受け取ったのです。

 


絹子は何も話さず、いつものように漬け物でご飯を食べた。

寂しい食事ですが、自分の主菜の事を聞くと虚しい思いになるばかりなので、今ではもう聞く事もしなくなったのです。

そんな母(絹子)の胸の奥にしまった考え、それはまず “この家を出る事”、“新しい仕事を探す事” 実父から逃げる為と、職場の店長に私情でご迷惑を掛けている理由もあったそうです。


そして、もう一つの思い。

 

それはいつか将来、“結婚する時は、子供の居る人と結婚する。”と、決めたそうです。


私は子供ながらに母(絹子)に「何故?」と聞きました。母(絹子)は、『血が繋がってなくても優しく出来るし、優しい義母に成りたかったから。』と、答えてくれました。


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翌日、そんなことを心に固く決めた絹子は、店長に業務後の報告をする時にこれからの事を相談しました。


店長は絹子の仕事ぶりを認めておられたので、ずっと勤めて欲しかったのが本心でした。だけど今となっては絹子の理不尽な父親の事を知っていたので年明け早々に店長は自分の知り合いに転職先の話をしてあげよう。」と言ってくださいました。

なぜに絹子は、こんなにも信念強く生き、そして一念発起さながらに行動出来たのか…それは、紀州(新宮)を出る時に祖父母が「何かあったら、いつでも帰って来るんだよ。」の一言があったからです。

 

“ここまで我慢したのだから、もう義母と実父の元から離れても良いんだ。”という、自尊心と自衛心からなる思いに背中を押される絹子、あともう少し、あともう少しと、指折り数えて踏ん張る絹子がいました。
 

 

~つづく~

母の虚しく辛い時を過した時を、何故私が
知る事が出来たのか!
其れは私の記憶と母の心に閉まった事を
二人きりの時に少し話してくれましたが
私の記憶と同じ事に気が付いた時
涙が止まらなく成ったのです
其の時の母は、優しく微笑み 私の手を
握り締めてくれました それだけで二人が
不思議っ子だと繋がる心で話す瞬間です

御訪問 ありがとうございます
m(_ _)m