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鹿児県警トップの本部長が主導した警察官の犯罪隠蔽を暴露したかった――鹿児島県警の捜査情報漏洩事件は、逮捕された県警元警視正の本田尚志・前生活安全部長(60)がこう主張したことで当初とは全く違う様相を帯びてきた。事件は、公益通報者の保護や報道の自由の保障のありかたが問われる問題へと発展しつつある。

 

トイレの盗撮をした署員に対し、県警本部長は「最後のチャンスをやろう」

鹿児島県警は5月31日、本田前部長が職務上知り得た秘密情報を、退職後の今年3月下旬に外部に漏らしたとして国家公務員法(守秘義務)違反容疑で逮捕した。

 

「同県では4、5月にすでに3人の警察官が逮捕されており、地元採用警察官の最高のポストである生安部長にまで上り詰めた人物も逮捕されたことで、県警警察官全体の質が問われる空気になりました。ところが、6月5日に本田前部長が勾留理由の開示を求める裁判の法廷で行なった供述で、事件そのものが一変しました」(社会部記者)

 

本田前部長は鹿児島簡裁で容疑事実を認めながら「私がこのような行動をしたのは、鹿児島県警職員が行なった犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことがあり、そのことが、いち警察官としてどうしても許せなかったからです」と爆弾証言を始めた。

 

本田前部長は、昨年12月に起きたトイレの盗撮事件での犯行を枕崎署の巡査部長が行なった疑いが強まり捜査に着手しようと指揮伺いをしたところ、野川本部長が「最後のチャンスをやろう」「泳がせよう」と言って捜査着手を認めなかったと発言。

 

公にされていない別の警察官不祥事も挙げながら「本部長が警察官による不祥事を隠蔽しようとする姿にがく然とし、また、失望しました」と当時の心境を述べ、「不祥事があった場合には、それを隠すのではなく、県民の皆様に明らかにした上で、改善を図っていくべきだ」との信念の先に、個人情報を適切に扱うだろうと考えた記者に資料を送った、と供述した。

 

「この主張が真実なら、“不良警官”扱いされた本田前部長の行動は、不正目的ではなく組織で起きた法令違反を外部に知らしめる『公益通報』にあたります。

 

そうなれば、保護すべき内部通報者を逮捕した警察の妥当性が問われ、しかも不正の“主犯”と本田前部長に指摘された野川本部長が捜査の指揮をしていることから、事件の性質は全く変わってきます」(前出・社会部記者)

 

 本田前部長が言う“隠蔽”を野川本部長は否定し、実際に盗撮容疑で柏崎署の巡査部長を逮捕していることをその根拠として挙げている。だが、取材で判明した捜査の経緯を見れば、この反論には疑問もある。

 

異例中の異例、ニュースサイトへの家宅捜査

実は県警は、今年4月8日に別件で福岡にある調査報道を扱うニュースサイト「ハンター」を家宅捜索し、ある取材データを押収している。大手メディアはこの件をほとんど報じていないが、日本で取材機関が強制捜査を受けることは極めて異例だ。そしてこの捜索が、本田前部長への捜査の端緒となったとみられるのだ。

 

「ハンター」を運営する中願寺純則代表が話す。

 

「本田前部長は退職3日後の3月28日に警察官の不祥事4件が書かれた資料を、『ハンター』で警察不祥事を執筆してきた北海道のジャーナリストに郵送、4月3日に受け取ったそのジャーナリストが同日中に資料のデータを私に送ってきていました。

 

この情報の扱いを検討していた4月8日に、鹿児島県警捜査二課を中心とする警察官がやって来て私の携帯電話やパソコンなどを押収しました。パソコンにあったデータを見て柏崎署員の盗撮事件の記録が外部に漏れていることに県警は気づき、『隠蔽』と書かれないよう5月になって(盗撮の疑いがある)巡査部長を逮捕したとみています。

 

また、このデータの存在に気づいたことで本田前部長の行動への捜査が始まったことに間違いありません」

 

それまで本田前部長の行動に気づいていなかった県警は、なぜニュースサイトへのガサという強硬な捜査を行ったのか。

 

「実は今回の一連の事件の背景には、2021年9月に新型コロナウイルス感染者の療養施設で起きた強制性交事件での県警の不審な捜査があります。『ハンター』は何度もこの問題を報じており、その過程で捜査がゆがめられたことを示唆する県警内部資料も入手し、報道しました。

 

この資料を流出させたとして県警は4月8日に曽於警察署の巡査部長を逮捕し、その関係先として同じ日に『ハンター』にもガサにきたんです」(中願寺代表)

 

中願寺氏や複数の関係者の証言によると、事件は県医師会職員だった男性A氏が県内の病院から療養施設に派遣された看護師の女性Bさんを襲ったとされるものだ。この男性は自身の父親が鹿児島中央署に勤務する警察官だと女性に伝えていたといい、被害届を抑え込む意図があったと関係者はみている。

 

Bさんを支援する勤務先の関係者はこう証言する

 

「2021年12月にA氏を質すと、彼は行為について『ちょっと強引にした』『強姦です』と認めて平謝りでした。しかし直後に『慰謝料を払うが分割払いにする』と言い始め、その後『(行為)は合意だった』と主張を変えました」

 

「ハンター」の報道や前出の関係者によると、Bさんは2022年1月に鹿児島中央署に告訴しようとしたが、女性警察官が「あなたが望む結果にならない」と受け取ろうとしなかった。

 

Bさんは弁護士とともに再度同署を訪れて告訴状を提出したものの、その後、県医師会会長が「合意の上だった」「A氏には問題がなかった」との主張を始めた。

 

結局医師会は同年中にA氏を懲戒処分しA氏は依願退職。鹿児島県は県医師会に文書で厳重注意も行なったが、捜査は進展しない状況が続いた。

 

この件について、2023年1月になって「ハンター」が報道を始め、情報を得た立憲民主党の塩村あやか参院議員が同年3月に国会でこの問題を取り上げると、鹿児島県警は同年6月にようやくA氏を書類送検している。

 

だが県警は同年12月に嫌疑不十分でA氏を不起訴処分とし、Bさんは検察審査会に不起訴は不当だとして審査の申立てを行なっている。

 

「声が上がったことは情報漏洩というよりは内部通報だと思います」

情報を「ハンター」に内部告発した曽於警察署の巡査部長について県警は、少なくとも書類送検直後の昨年6月と今年3月の2回、告訴、告発事件の処理経過を管理する「告訴・告発事件処理簿一覧表」などを漏洩したとして地方公務員法違反容疑で逮捕している。

 

この巡査部長と本田前生安部長が連携を取っていたことをうかがわせる形跡は今のところなく、二人は別々に行動したとみられる。これについて中願寺代表はこう語気を強める。

 

「巡査部長は強制性交事件を眠らせちゃいけないということで動いた。その過程で『ハンター』がずっと県警を追及してきたから、それを見た本田前部長もうちを信用して、『ハンター』に記事を書いている北海道のジャーナリストに資料を送ったのでしょう。本田前部長の行動は公益通報以外の何物でもないと思っています」

 

また異例のガサを行なった鹿児島県警に対し「強制性交事件を追う中でうちがたまたま処理簿一覧表を入手したことで被疑者扱いされる覚えはまったくありません。これから反撃に移る予定です。記事で勝負をかけます」と予告した。

 

性被害の隠蔽に危機感を持ち、国会で取り上げたという塩村議員は「声を上げた人を守らなければ、声を上げる人がいなくなると思って動いた」と振り返る。

 

そして強制性交事件を発端に捜査情報が外部にもたらされ、波紋が拡大していることについて「警察官の不祥事を身内で抑え込むようなことがあれば、地元の人は警察にものを言えなくなる。これは深刻な問題です。(今回)声が上がったことは情報漏洩というよりは内部通報だと思います。(不正があったのなら)隠蔽しようとしたほうが問われるべき責任があるでしょう。悪いことをしたらバレるという仕組みに是正をする上で、今はいいチャンスかもしれません」と指摘した。

 

本田前部長は県民の信頼に背いた悪徳警官なのか、勇気ある告発者なのか。警察や検察の今後の判断には市民から厳しい目が引き続き注がれそうだ。

 

 

<付記>

警察庁の露木長官はこの件に関して県警に対する監察を実施すると表明したが、記者会見を見る限り「内部文書の漏洩を問題視する」という方向のように見える。

 

 

この問題の本質は

警察という民主的チェックを受けない権力が

自己保身のためにその権力を行使したのか?

(メディアをガサ入れして公益通報者を「逮捕」したのか)

ということなのだ。

民主主義を根底から覆しかねない「メディアのガサ入れ」の令状

誰が出したのか?

ということなのだ。

この件に関して、大手の「報道」はひどく鈍い。

普段「権力の監視」とか「表現の自由」とか言ってる大手メディアが

「不祥事は情報漏洩です」の方に傾いて「報道」している。