以前書いたブログ記事を「小説(?)」化してみました。😟

ンコ話の苦手な方は読まないでください。

 

 

 小楢平介は目立たない男だった。

 16歳。

 高校1年生。

 偏差値が真ん中へんの高校で、成績も真ん中へん。

 

「小楢? そんな子いたっけ?」

「ああ・・・。そういえばいたね。」

 

 女子からも男子からもそんなふうに言われる目立たないモブだ。

 存在感が希薄で、クラスの中でもほぼ誰にも意識されない空気みたいな・・・いや、時々におう屁みたいな存在だった。

 

 平介があまり他人と関わろうとしないのには理由がある。

 彼は、見えてしまうのだ。

 

 透視能力とか千里眼といわれるやつだ。

 異常視力。

 意識を向けるだけで、目の前の物体を透かしてその向こうが見えてしまい、場所の制約なく遠くの物やそこで起こっていることが見えてしまうのだ。

 

 なに? 羨ましい?

 クラスに女子生徒いるんだろ?

 居ながらにして世界中好きな場所に観光に行けるようなもんじゃないの?

 ・・・って?

 

 たしかに、それもできないこともないのだが・・・。

 もし女子の裸が見たいなら、かなり意識を集中したコンマミリ単位の正確な能力コントロールが必要になるのだ。

 わずかでも狂えば、皮膚の下の血管や内臓や骨が見えてしまうのである。

 

 透視能力は近場に限られていた。

 しかも、能力そのものの発現を抑えることが平介にはできなかった。

 だから平介は、日常がゾンビの集団にならないように他人との関わりを最低限に抑えていたし、その異常視覚の能力発現が「千里眼」のみに向かうように人知れぬ努力をしていたのだ。

 千里眼に能力を発現させている限り、透視能力の発現はほぼ起きなかった。

 

 ところで、千里眼の方も決して羨ましがられるような能力ではなかった。

 起きている間中、どこかを見ていなければ日常がゾンビ世界になってしまうのだ。

 

 世界は風光明媚な観光地だけではなかった。

 世界のあらゆる場所で、紛争や戦争が起こっており、人々が殺され、子どもが殺され、親を失った子どもが泣いている。

 一度見てしまうと、それらから意識を逸らすのはなかなか難しかった。

 意識が向けば、またその惨状が見えてしまう。

 

 なんで人間はこんなことばかりするんだろう?

 なんでこんな残酷な兵器を作り続けるのだろう?

 そのお金で、世界中の飢えている子どもたちを救えるのに・・・。

 兵器なんてクソだ。

 

 ある夜、ついに平介は耐えられなくなって神様にお願いをした。

 そんなものがいるかどうか知らないが。

 

 神様。お願いです。

 どうか僕に・・・・

 

 そういう願いを口にするところが、この少年の尋常ではない別の側面かもしれなかった。

 平介が願ったのは「異常視力を無くしてください」ではなかったのだ。

 

 どうか僕に、あらゆる兵器を無効化できる能力(ちから)をください。

 

 

 驚いたことに、神様は能力(ちから)をくれた。

 

 見てしまった以上、見なかったことにはできない。

 見ていなくたって兵器の犠牲になっている子どもたちはいなくなるわけではない。

 

 あるいはそんな平介の心根に「神様」は反応したのかもしれなかった。

 

 神様とはどういう存在かよくわからないが、神様が平介にくれた能力は・・・

 あらゆる兵器をウ◯コに変える能力だった。

 

 

 初めそれは最前線で起きた。

 

「うわあ!」

 弾丸が飛んでいる間にウ◯コに変わってしまったのだ。

 撃たれた方はヒサンではあったが、撃った方はもっとヒサンだった。

「うわあああ!」

 

 スナイパーは思わずのけぞって手を払った。

 通常スナイパーは何があっても冷静に息を潜めていなければならないのだが、スナイパーは敵から撃たれることはなかった。

 なぜなら、敵も同じ状態だったからだ。

 

 ミサイルは空中でウ◯コとなってバラバラに分解し、迎撃ミサイルとともに戦場の町に降り注いだ。

「うわああ!」

「うわああああ!」

 

 戦車兵はヒサンだった。

 一瞬で崩れ落ちたかつては戦車だったウ◯コの山から、必死で這い出すしかなかったのだ。

「ぶへ! ぶへへ!」

 たぶん彼らはPTSDでしばらくトイレに入れないかもしれない。

 

 大国が配備している核ミサイルは、その発射管の中で悍しい姿に変わっていた。

 確認せよ、と参謀本部から通達がきたが・・・

「だ・・・誰がハッチを開けて確認する?」

「わ・・・私はパスワードを知りません!」

「上官!」

「パ・・・パスワードを忘れてしまった。さ・・・最近、物忘れがひどくて除隊しようかと思ってたんだ。」

 

 

 平介は飛んでいる戦闘機だけは、搭載したミサイルだけにしておいた。

 もし戦闘機自体をウ◯コ化すれば、脱出装置が働かなくなって乗っているパイロットはヒサンな死を遂げることになるだろうから。

 

 戦闘機は着陸してから無力化しよう。

 

 戦艦も空母も全て、その海域のBODを高めるだけになった。

 潜水艦は浮上したところで、やはりその海域を水洗トイレ化した。

 核兵器を搭載する原子力潜水艦は乗組員の食料が続く限りずっと潜っていられるが、魚雷や発射管内でウ◯コ化した核ミサイルの臭いに耐えかねて浮上したところで、その海域を水洗トイレにした。

 

 各国政府は海難救助隊の派遣に忙殺されたが、不思議なことにそれらは何一つニュースにはならなかった。

 自国の抑止力が無化していることを、どの国も他国に知られるわけにはいかなかったからだ。

 厳しい情報統制が行われた。

 一切の武器弾薬を持たないハリボテを使って、これ見よがしに軍事パレードをやった国もあった。

 

 この現象の初め頃、どの国も敵国の新兵器を疑ったが、やがてどうやら全ての兵器が同じ現象に見舞われているらしいということが分かるにつれ、同盟国同士の情報交換は行われるようになっていった。

 

 途方に暮れたのは武器商人たちだった。

 兵器産業の経営者は頭を抱え込んだ。

「おお、神よ!」

 

 その神が1人の少年に与えた能力によって為されたことだよ。

 

 しかし経営者たるもの、嘆いているだけではいけない。

 なんとか活路を見出さねば・・・。

「そうだ! 肥料工場にリニューアルしよう!」

 

 

 かくして、世界は平和になった。

 ・・・・いや、屁ーわになった・・・?

 

 ところで・・・

 世界を変えた少年は、相変わらず存在感の薄いままだった。

 

「小楢? あ、そういえばうちのクラスにそんな子いたよね。」

 

 

 

 

       了