◎月軌道内空間の広大さ

 私が「ガンダム」の宇宙設定に最初にショックを受けたのは、その作品世界がほとんど月軌道内の直径100万kmぐらいの「狭い」範囲だったことだ。

 私が当時練っていた話では、物語は太陽系全体が舞台であり、物語の始まりは、地球から1億5千万km離れた地球軌道上のラグランジュポイントにある「スペースコロニー」からだったのだ。

 ガンダムによって私は、自分が狭いと思って無視していた月軌道内空間が実はどれほど広大な空間なのかを思い知らされた。

 考えてみれば当たり前で、直径100万kmに及ぶ空間が狭いわけがない。

 そしてこの月軌道内空間の広大さを理解できない者が太陽系内空間の広大さを理解できるはずもなく、ましてや銀河系空間の広大さなど判るはずもないということだった。

 脳天気に「超光速航法」などという科学ではなくファンタジーによる疑似科学を駆使することに慣れきってしまっていたSFからは湧いてこない発想だった。

 「銀河狭し」と飛び回るSFは、文字通り銀河系を狭くしているのに気づかなかったのである。

 そして、ガンダムという実例を突きつけられながら、SFファンという人種はそのことが全く理解できなかった。

 あるSFファンはこういった。

 「あんな狭いところでせこせこやって」

 自分たちが光年単位の話を作っているから広い世界観を持っていると勘違いしている典型だった。

 全く愚かしい話だが、こういう愚劣さに落ち込んでいたのである。

 私はガンダムによってSFが陥っていた勘違いに気づいてしまったのである。

 そして残念ながらSFファンは今でもその愚かしさから抜けていないように思う。

 私はSFから足を洗って久しいが、それでもSF界から漏れ出る印象からいえばそうである。