日本農政が戦後一貫してやってきたことは、「弱い」日本の農業を「強い」外国の農業から守ることだった。

 関税や輸入制限の壁を作り、日本農業を保護する。

 それが日本農政の使命であったわけだ。

 日本農業に国際競争力がないのは理の当然と考えられてきた。

 日本国内でも防戦一方なのに、世界で戦うなど考えることもしなかった。

 しかし、本当にそうなのか?

 安いがまずい物を日本人は本当に購入するのか?

 そして海外の富裕層は?


 WAGYUブランドという物をご存じだろうか。

 オーストラリアで作られた、和牛と海外牛をかけ合わせた牛をブランド化した物だ。

 日本の和牛の価値は伝説的でさえある。

 しかし海外にはほとんど出ず、垂涎の的であった。

 その空白を埋めたのがWAGYUブランドなのだろう。

 WAGYUは日本の最高級の和牛には及ばないが、従来の海外牛とは次元が違うという。

 もし日本農政が早くから和牛の世界輸出をやっていれば、WAGYUブランドは和牛ブランドだったかもしれない。


 日本農業は、戦後の約70年の間に究極的なまでに味にこだわった。

 日本人の凝り性のなせるわざと言うべきだろうか。

 その一つが和牛なわけだ。

 そしてその味へのこだわりは他の分野でも圧倒的なレベルに達したと思う。

 米、果物、野菜等々。

 こうした食材は、世界中の富裕層に大受けするのではないだろうか、和牛のように。

 既に世界的なブームを巻き起こした物に寿司がある。

 魚は海からとれる物だが、人の手で作られる農産品は日本農業に大きな恩恵を与えると思われる。

 農業関係品で世界的な評価を受ける物にフランスのワインがある。

 一本何十万、何百万するという高額商品がごく当たり前のように流通している。

 同じように、日本で売られる価格の何倍もの値段で、日本の農産物を海外に売ることは可能ではないのだろうか。

 そうすれば農家の収入は今の何倍にもなり、農家は高額所得者になり、人があこがれる仕事になるのではないか。

 農業高校や大学の農学科が憧れの進学先になるかもしれない。


 もちろん安い商品は海外産が強いだろう。

 しかし高級食品の分野は日本の独壇場となる可能性がある。


 日本農業の強みは量ではない、質である。

 しかるに日本農政は量にばかりこだわってきた。

 量にこだわる限り、海外の農業に対して日本農業が見劣りするのは当たり前だ。

 しかし、質に目を転ずれば、日本農業は宝の山である。

 これは人類の食文化を大きく底上げする物でもあるはずなのだ。