「公演の成功祝いは何が良い?」そう問うたブライアンにコルデリアの返事は「娘に会いたい」だった。

 そのときの鏡に映ったブライアンの表情。

 哀しいような、諦めたような独特な表情だ。

 彼の心は想像するだに余りある。

 例えば・・・想像するだにおぞましいが、もしヴィクトリカの身にコルデリアと同じようなことが起きたとしたら、久城はどうするだろうか。

 どこかに久城は死を選ぶだろうと書いてあったが、おそらく死ぬことは出来まい。

 おそらくヴィクトリカを守って残りの人生を捧げる。それしかあるまい。

 「その程度の力で守れるか!」と言って、久城をたたきのめしたブライアン。

 おそらく、かつて簡単に気絶させられ目の前でコルデリアを拉致された苦渋の思い出がブライアンにはあったのだろう。

 あの時に、コルデリアを守れたなら!!

 そういう悔恨の念が無いわけがない。

 わずかな手がかりを頼りに何年も探し続け、ようやく救い出した愛しいコルデリア。

 しかし、もうかつての、満面の笑みを浮かべて彼を迎えたコルデリアはいなかったのである。

 コルデリアの心は、生まれた娘に行き、もはやブライアンを向くことはなかった。

 ブライアンのヴィクトリカに対する心理には、コルデリアの心を持っていったことに対する嫉妬や恨みの念があるようにも思える。

 しかし、ブライアンはこれからもコルデリアを守っていくのだろう。

 それは愛情か、贖罪か、それとも灰色狼同士の仲間意識か。

 ブライアンとコルデリアは間違いなく、この物語のもう一つの主人公だ。