第二章 ルビー・ティアラ

 両親の四十九日も終わり、レイの周囲も落ち着きを見せてきた。中学生であるレイはとりあえず伯父のところに身を寄せることになった。不思議なほどに悲しいという感情が無かった。周囲はもちろん、両親の死という現実をまだ少女であるレイが実感として捉え切れていないのだと考え、それは彼らの同情の涙をそそったが。
 両親は即死であった。衝突したのみならず、その後車は崖下に転落してしまったのである。レイは後部座席であったために運良く助かったのだと判断された。怪我という怪我は何もなかった。ただ気を失っているだけなのを翌日発見された。
 しかし、レイはぶつかった物体をしっかりと見ていた。そして崖下に落下した後、薄れゆく意識の中で、それとは違う大きな影が見えたことも。

 その日は満月であった。緑色の月がかつてない妖しい光を投げかけていた。単に緑色になっただけではなく、月の反射率が数倍に高まり、そのため従来の満月に数倍する明るさになっていた。人々は不安に駆られながらもその妖しい美しさに魅せられ、天を仰いでいた。
 と、その色が変化した。人々が見つめる中で月はエメラルドのような緑色からルビーのような鮮やかな赤に変わっていった。わずか三〇分後には、月は真紅の天体に変貌を遂げた。そしてその明るさはさらに数倍に高まり、その輝きは地球を真紅に染め上げた。

 その変化の原因はすぐに判った。月を覆う植物が一斉に赤い花をつけたのだった。今までも花は咲いていた。しかしそれは小規模であり、月全体の色を変えるほどの規模ではなかった。何故今回に限り、このような一斉の開花が起きたのか、それは判らない。しかし、確実に言えることがあった。花が咲いたのであれば、次に来るのは実りである。大量の種が発生する。それがどういう結果をもたらすか、正確に想像できた者は誰もいなかった。
 一週間経ち、月の色は、さらに血の色のような赤に変わった。月の一面に真っ赤な実が生ったのだった。その真っ赤な実を、月のいきものたちはむさぼり食い、繁殖していった。