松浦氏について解説するといいましたが、やってみると大変ですね。一筋縄ではいきません。

 悪く言われることが多い人ですしね。その多くが嫉妬に発する言いがかりのようなものですが、まことしやかに語るので信じている人もいるでしょう。冷静になって考えてみれば判りますが。

 あのavexお家騒動の時、浜崎あゆみが(松浦勝人を失うことは)「avexの終焉」であると表しました。
 avexというのが松浦勝人の個性によって成り立っている会社であるということを、如実に示した言葉でした。

 昨年の小室事件の際に、六億五千万もの金を用立てて、何とか小室の実刑を回避したのは記憶に新しいです。
 会社の草創期に世話になったとはいえ、後に決別しているわけですから、そんなことをする義理はありません。
 にもかかわらずこういうことをする人なのですね。

 悪く言えば、単なる「お人よし」です。

 そのお人好しさは、彼の経歴から来ていると思います。

 そもそも中高生のころはよくいるロック少年でバンドなんかをやっていた松浦氏が、大学でダンスミュージックに出会い、のめり込みます。

 ロックは名盤、名曲がはっきりしています。しかしダンスミュージックは、まったく資料が無かったのですね。良いか悪いかを判断するには、聴いてみるしかありません。

 しかし、そんなレコードを片っ端から買うほど金持ちではない。どうするか?貸しレコード屋にバイトで入ったのですね。
 レコード販売店に行かなかったのは、商品を勝手に開封するわけにはいかないからですね。

 さらにレコードの買い付けも任されるようになり、良い曲を多くそろえているその店の売り上げは激増しました。

 自分の、良いダンスミュージックを聴きたいという欲望を追いかけていったら、仕事として大成功したという、確かに嫉妬もしたくなります。マニアの夢ですね。

 それからヨーロッパから直接仕入れをやるようになり、avexを設立しました。さらに名曲集を作りました。そして日本人によるダンスミュージックの制作を始めました。どれも良いダンスミュージックを聴きたいためでした。

 仕入れ屋の段階で経営のプロを会社に入れて社長もその人に任せました。avexの発展はその人の手腕によるところが大きいでしょうね。松浦氏は専務として、音楽つくりに直接かかわっていきました。

 しかし、その人は会社を大きくすることが目的だったのでしょう、松浦氏とは根本的に違いました。

 どこからか様子がおかしくなっていきます。良い音楽を聴くことが目的だったのに、売ることが目的にすり替わっていきます。

 松浦氏は次第にavexの経営から疎外されていきます。この時期の松浦氏はほとんどやけになっていました。上場によって金は腐るほどあるので、遊びほうけます。生きる意味自体を見失っていたと聞きます。

 そして2004年のお家騒動です。松浦氏は一度クビになります。

 結局、浜崎あゆみをはじめとする、アーティストたちや社員たちの支持で、お家騒動は劇的な逆転劇となります。

 とは言え、当時、私は危ぶみました。

 縮小していくことが目に見えているCD市場に、avexのような大企業は適応しづらい。松浦氏はむしろ小さな会社を作って、新しい市場を開拓する方が良いのではないかと思ったのですね。

 しかし、あれから5年以上たった現在、意外なほど良くやっています。avexの売り上げは伸び続け、レッドクリフなど異業種への参入もうまくいっています。

 また、そのお人よしな人柄のせいでしょうか。縮小する業界の中で、唯一さほどに悪くないavexは、アーティストやスタッフの駆け込み寺と化しているそうです。

 業界の梁山泊になったavexが飛躍するか、それとも無駄な人員を抱えて潰えていくか、その未来は判りません。しかし、大げさではなく、avexの未来に、日本の大衆文化の未来がかかっていると思いますね。

 alanもまた、そういう不確かな、アジア文化の「未来」でしょう。