英国へと無事に辿り着いたものの心穏やかには過ごせないブリジット。

仕方がないので何かと付け狙ってくる探偵の隙をついて再び海を渡ることにした。


四代目伯爵夫人が活躍した地を避けヨーロッパを彷徨い、やがて父と目されるカリオストロと縁の深いイタリアへ。

ようやくミラノ辺りで落ち着くことになったものの、悲しいかな路銀が底をつきてしまう。


…仕方がないわね、こうなったら私、歌うわよ!


昔取った杵柄、その上怖いもの知らずときた。

何と言ってもここ十数年は日常的にアドリブ芝居をこなしつつ生きてきたようなものだし、上流社会へと難なく潜り込めた優美な身のこなしが加わっている。

かつて大部屋女優だっただなんて何のその、磨き上げた美貌もあって人気を博し上り詰め、気がつけばワルシャワ帝室オペラに所属。


そうして暮らす内にとある国の皇太子と出会い、アヴァンチュールを楽しむことに。

フランスでの贅沢かつスリルに満ちた日々を忘れられなかったか、文字通り燃えるように愛し合う。

しかしスカンジナヴィア国の王女との婚約が決まるとあっさりと捨てられた。


何が素晴らしい女王になったよ、調子のいいこと言ってくれるじゃない。


もちろん有り得ないことだとは分かってはいたが、ここで大人しく引き下がってはジョゼフィーヌ・バルサモの名が廃る。

何しろ今後の生活の為にも財源は必要だ。


手元には残された写真が1枚、皇太子とのツーショット。

これを使わない手はない。

上手く交渉するつもりだったが彼が再び現れることはなかった。

それどころか自宅には泥棒、旅先では荷物が煙のように消え、さらに追い剥ぎまで現れる始末。

難なく猛追撃をかわすものの日常生活すら危ういのは全くもって頂けない。


そこで敵の裏をかき再び英国を目指すことに。

ヴィクトリア女王統治の下、経済の発展が著しいロンドンは人種のるつぼ、様々な人がひしめき合っている中なら上手く紛れられると判断したのだ。

隠伏する為に忠実なる右腕はゴドフリーと名前を変え、ジョジーヌもその夫人として新生活を始める。


写真は身を守るために必要な武器、決して失わなぬよう慎重に自宅のとある場所へと上手く隠した。


落ち着いたら新大陸へ渡るのもいいかもしれない、元々アメリカに劇場を作るのが夢だったもの。

それにあまりこの国には長居しないほうがいい気もするのよ、あの探偵が私の前へ再び現れるとも限らないしね。


そんな、ある女性の物語。


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