野球界は思いやりを育もうとする努力をほとんどしていない"the baseball community is doing little to foster empathy”
ーGinny Searle

 

 

先月報道された違法賭博・銀行詐欺事件で解雇された水原一平元通訳は様々な憶測を掻き立てさせた。

 

 

「大谷が借金の肩代わりで送金したんだよ」

「いつも尽くしていた通訳がするわけない、大谷が本当はやったんだ」

「スポーツ賭博って書いてるから、本当は野球にも違法賭博している。

今はそれを隠しているだけだ」

 

 

これが子供が言っていたらまだカワイイものだが、実際は成人しきった大人ばかりが大谷を”悪”と仕立てて大谷(被害者)に対して悪い憶測を駆け巡らせるのを楽しんでいる。

 

 

憶測は心の中を露わにしている。事実よりも”こうだとおもしろい”と心の中で思っていることを優先することで先入観に囚われ、事実が憶測と全く違う結果だったとき素直に見れなくする心理が働く。

 

 

「先入観は可能を不可能にする」(大谷翔平)とはうまく言ったもので、先入観に囚われている以上、人として成長してない、しないと同然なのだ。大谷翔平は野球選手としてトップレベルの野球を目指し常に先入観を省いて挑んでいる。その成長に貪欲な姿勢が老若男女好かれ、尊ばれ、憧れられる要素と言えるだろう。

 

 

今年2月のファンミーティングで大谷選手は元通訳との関係性について問われた。

 

 

「ここはビジネスの関係、友達ではないので割り切って付き合ってます」

 

 

友達でもなく、管理人と割り切っていたからこそ迅速な対応を取れた。大谷翔平は公私混同をしっかり分けている、プロフェッショナリズムを感じた。

 

 

高校時代から”野球翔年”なのにも関わらず、散々神格化してきた者も彼に対しVictim blamingが止まらない。

 

 

「英語を勉強しないからこんな事件が起こるんだ」

「代理人が大谷を守らなかったのが悪い」
「大谷が口座を確認しないのが悪い」

 

 

しかし、これらは大谷翔平の同僚Tyler Glasnow選手が異議を出している。

 

 

「僕の知ってるほとんどの人は自分の口座がどうなってるのか全くもって分からない。信頼している人に全部任せて、野球に全集中したい。お金のことでいちいちストレスを感じたくないんだ」

 

 

大谷翔平もそのうちの一人だ。当時、MLBデビューが決まってから語学の壁があり、通訳を採用した。その人は仕事先の地域に詳しい人だった。

 

 

だが、どういうわけがあってか違法ブックメーカーと接触しギャンブルにハマるようになった。借金が膨れ上がり、大谷の口座開設の日に同行して手伝っていたこともあり、暗記していたのか不正アクセスに成功。後にTFAや電話番号など通知を自分だけに送るよう設定変更し、借金返済をするために横領した。銀行のスタッフに大谷と偽り、流暢な英語で送金しようと何度も試みた。1回目は車のローンで申請をしたが口座を凍結された。2回目以降の本人確認で”秘密の質問”を全問正解。ギャンブルにも負け続け、不正送金が止まることはなかった。通訳として、そして事実上の管理人としての業務内容の範囲を思い切り越えていた自覚がないくらいに溺れていたのだろうか。

 

 

「”楽しい”より”正しい”で行動しなさい」

 

 

大谷翔平は高校時代、そう教わった。彼の元通訳はその正反対の人生を歩んでいた。

 

 

Ginny Searleは今回の事件について私たちは部外者なのだと強調した。つまり、内部も事実どうなのかも全く知らないのだ。情報が限られている部外者としての最善な行動は

  • 経過を見守ること
  • ギャンブルの危険性と、スポーツリーグがギャンブル業界と結びつくことの道徳的墜落moral turptitudeに関する見解を広めること
  • 「大谷が不正行為をしたんだ」と執拗に主張してきた人たちに対してどれほど軽率で、真相を知るべきか伝えること
が大切だと述べた。
 
 
「ただ疑問に思っているだけ」と純粋な感じを出したいのだろうが、それは私たち部外者のではなく、担当している検察、弁護士や事件記者の仕事だ。彼らは妄想ではなく事実(証拠)を追い求める。依頼もしていない人に口出しされる気持ちになってみると良いかもしれないが、憶測や陰謀論で楽しんでいる人にはできるのか。
 
 

本音を言うと、私も当初ニュースで元通訳がストーリーをころころ変えた途端、何が事実なのかさっぱりわからなくなった。元通訳の言った「大谷選手が借金の肩代わりのために知らず違法ブックメーカーに送金を許したのかな?」が筋が通ってそうな話でしっくりきたが、やはり何事にもone side storyだけを聞いたところで、人は自分の都合が良くなるようなら簡単に嘘をつくと身をもって経験してきた。

 

 

大谷選手が被害者なのにも関わらず声明発表を開いてくれた時、「話が被ってるところがない。これは元通訳がでっち上げた可能性が高い」と思ったが、個人的には、相手が私の推しであろうが個人的に知っているわけではないので、法律に全て明かしてもらえるまで待つことにした。

 

 

Searleは面白い見解も示したー「元通訳被害者だ」と。確かに目を見張ることをしたが、そもそも事の発端は違法ブックメーカーが絡み、困窮させるために仕向けさせたのだと言う。先日カリフォルニア州の中央裁判所で提出された37ページに及ぶ訴状では、元通訳がギャンブルに依存していると認識したうえで借金が莫大に膨れ上がってもギャンブルをするための手段をどんどん提供し、より一層膨れ上がることを許した。

 

 

それでも疑問は絶えないだろう。なぜ大谷の代理人は一度も日本語が話せる部下を雇わなかったのか?なぜ銀行は声で明らかに口座名義人(大谷)とは別人とわかる人にアカウントの凍結の解除を許したのか?数千万ドル入っている口座が急に「非公開にしたい」という理由で財務チームはなぜおかしいと思わなかったのか?$325,000分の野球カードを偽名でドジャースのクラブハウスに届くようさせたことが怪しいRed flagと気付かなかったのか?それになぜ水原がクラブハウスでギャンブル依存症だと打ち明けた時、大谷に話の確認をすぐ取らず、試合後のミーティングで球団に発表したのだろうか?だからこその捜査というもので、私たち部外者がやる仕事ではない余計なお世話なのだ。

 

 

その答えをあたかも事実かのように広める輩がいちばんの厄介だ。「ただ質問しているだけ」と無害を主張したいだろうけど、憶測は途端に刃に変わり、人の心を傷つけたり、相手を自殺に追い込んだりもする。これが陰謀論の仕組みの基本であり、自分では疑問だったつもりでも、実際は誹謗中傷だと変化し得ることを理解するのが重要だと思う。

 

 

ことのVictim blamingでは、メディアやSNSは二刀流選手に対して
「大谷が英語が喋れないからダメなんだ」
「代理人が大谷を守らなかったのが悪い」
「大谷が口座を確認しないのが悪い」などと述べているが
同じロジックで他のケースに当てはめると、これが如何に酷い言葉か解るだろう。
「狙われた君が悪い」
「虐められる君が悪い」
「盗まれた君が悪い」
「痴漢される君が悪い」
「〇〇プされる君が悪い」
「専門に任せる君が悪い」と言ってるのと同じ。
落ち度は犯罪者ではなく被害者に向けている。「犯罪をしてはダメ」ではなく、「犯罪に巻き込まれるお前が悪い」という世の中を作ろうとしているメディアや陰謀論者はその異常さに気付かなければならない。そして、誹謗中傷も温かい声もみんな大谷翔平に届いていて、どんなスポーツ選手でも温かい声に救われているのも自覚すると良い。

 

 

大谷翔平も神格化されているとはいえ実在する人物で、長年”いちばんお世話になっていた人”から裏切られた被害者だ。「ショックだけでは言い表せない」ほどのどん底を経験していたなか、彼の不幸を蜜の味のように楽しむように「世界中が疑ってた」と言う人もいる。

 


今まで大谷選手の取材・報道をしていたならば、「知らない人たちに対して、信頼に足る人間かどうかが一番」という考えを貫き通すため、直向きに二刀流のルーティーンをこなし、結果を残してきたことを知っているはずだ。日本代表選手として選ばれ、世界中に愛され、尊敬され、彼を日本の宝と言いつつ、憶測を広めて被害者(大谷)を貶めることが正しい”情報”番組の在り方と思っているのだろうか。「世界中が疑っていたんだ」などと開き直ったところで大人な対応とは見てくれない。画面の向こうに子供たちもテレビを見ている。大人として意識して行動してほしいものだ。

 

 

誤った情報で話を始めたところで誰のためにも、何のためにもならない。ただ、憶測を間違って楽しんでいる人が「他人を貶めるのが好きな人」と認識されるだけだ。

 

 

大谷翔平含め野球選手は皆、このスキャンダルからすでに区切りをつけ、野球に集中している。未だしつこく「大谷(側)が悪い」と言い続けるのは、欠点の粗探しをしたいメディアと陰謀論者くらいではないだろうか。あまり共感できないところがある。

 

noteに投稿したものを少し編集しています。

 

Source:

Number 1094・1095号

Baseball Prospectus -- "Ippei Mizuhara, Shohei Ohtani, and Moral Hazard of Speculation"