吉本隆明のこの詩集はこれで五冊目かも。
前回は近所の喫茶店に行った帰りに落としたのか、失くしてしまった。。
なのでAmazonで再購入。

高校時代、吉本隆明って(何だか難しい事を言う人)っていう印象でした。
また、当時ファンだったパンクバンド「ザ・スターリン」の遠藤ミチロウ、坂本龍一が敬愛する思想家だったので、幾つか主著を読んだけれど、詩集を除いてはサッパリだった。

ある評論家が「理想主義の極北にある思想」などと言っていたが、それはサラリーマンをやりながら荒地派詩人として表現していた吉本であって、評論、思想家としては全く同意出来なかった。

その理由は単純で、「大衆の原像」の論理から吉本さんの発言の全ては紐解く事ができる。
この言葉は吉本隆明さんの造語であり、あらゆるものから自由に思想する吉本さんの中心にあるものでした。

日常のなんでもない生活を繰り返し、仕事や子育てなど、生活の範囲でものを考え、様々な問題を解決し、日々を生きている。
そんな、普通の人々の像を「大衆の原像」と名づけていました。
あらゆる思想は、この「大衆の原像」を自らに組み込む事が必須であり、思想を生み出す知識人は、いつもこの人々に試されていると吉本さんは考えていたからです。
ポール・ヴァレリーも『ムッシュー・テスト』で同じ様な事を書いているし、吉本さんも相当影響されたと思います。

だいぶ逸れましたが、この定本詩集の中で一番好きな詩は[恋唄]です。

〝行きたまえ
 きみはその人のためにおくれ
 その人のために全てのものより先にいそぐ
 戦われるものが全てだ
 希望からは涙が
 肉体からは緊張がつたえられ きみは力のかぎ り救いのない世界から立ち上がる″

大衆の原像を凝視する態度と、リスクを厭わない覚悟。
鮎川信夫も絶賛した才能は詩のみに止まらず、後に評論で[小林秀雄賞]を受賞した。
本当の意味での「市井の思想家」、「戦後最大の知の巨人」だと思うのです。