40歳で結婚(もち、初婚)するまで、土曜の夜は心斎橋、正確には鰻谷、笠屋町、松屋町辺りのバーをハシゴして過ごしていた。
当時、住まいが西区南堀江だったので、このエリアまで自転車で約10分ほどで通えた。
まずバンド仲間でもある友人の経営するバーに赴くのだが、そこの週末は満席の時もあるので、出掛ける時間は一般のお客さんが引く終電の時間に決めていた。

この時間からの鰻谷はとにかく面白い。
仕事終わりのスナックのママやクラブのホステス
怪しげなデザイナーにTV局関係者
コンパ帰りの広告マン
決して全国区ではない吉本の芸人やプロのミュージャン

深夜の老舗バーは、とりわけエコーズの名曲[ZOO]の様だった。
二十代後半から地方に転勤するまでの約15年、このエリアに集う人達との交流で感性が磨かれたのは確かだ。

人は何でも語り尽くそうとする。
自分をわかってもらおうと必死に語る。
しかし、ここで出会った人達は、自分を語ろうとしない。
それは酔いが回った時の〝言葉の無意味さ″を理解しているからだろう。

夜が明けて、ドトールの苦いコーヒーを飲んで非日常から日常に戻る
ぼんやりした記憶を整理して、いくつかの新しい秘密を胸に家路につく。

あんな場所に行ったところで、あんな人達と会ったところで、何の意味も持たない事は知っていたけれど、あの〝愛おしい日々″を思い出す度に胸が熱くなるのは何故だろう。