いらっしゃいませ。そしてお帰りなさいませ。
庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。
山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽(せいれつ)な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。
それに加えて、時に不思議な人物に遭遇する土地でもあるのです。
今回、物語収穫人である私、佐藤美月が遭遇致しました不思議な人物とのエピソードは、全部で三夜に分けて、お届けしております。
それでは、第三夜を、どうぞこちらから、ご堪能下さいませ。
しかし、名前はともかく、寝姿は自分で確認出来ないので、美しい美しいと言われても、あまりぴんと来ません。
それでも、せっかくの贈り物なので、金彩の施された蛤を受け取り、仔細に確認してみると、そこには梅の木と、そこに咲いている紅色の花が、丁寧に描かれていました。
そのあまりの可愛らしさに感動した私は、お礼を言おうと思って、顔を上げました。
すると、そこには、街灯の灯りで薄められた闇が、蟠(わだかま)っているばかりでした。
先程まで佇んでいた筈の、着流しスタイルの男性の姿は、もう何処にも見当たりませんでした。
まるで月のように、出現する時も、去って行く時も、突然なんだなと思いました。
そんな男性が存在していた証のようにして、フランキンセンスの残り香が、漂っていました。
ピリリとしたスパイス感と、スモーキーな甘さが綯い交ぜになっている、奥行きのある香りです。
それを夜風が、優しく揺らしていきました。
そして、私が寝姿に紅を差そうと思ったのは、取り寄せていたワインレッドのシルクパジャマが、届いた頃合いでした。
いざ紅を差そうと思っても、洗い晒しのコットンのパジャマには、不釣り合いにしか感じられず、せめて紅が似合う格好をして眠ろうと思い付いたからです。
勿論、これまでは、眠る時に紅を差す習慣なんて、ありませんでした。
それどころか、勤め先の仕事柄、メイクは禁止されているので、口紅を引く機会があるのは、休日に出掛ける時くらいです。
それでも、少しだけ改まった気分になれるので、口紅を引く行為自体は、気に入っていました。
その夜、入浴を済ませて、ボディオイルを塗った素肌に、シルクパジャマをしっとりと纏いました。
洗い髪を乾かし、化粧水とナイトジェルで肌を整えた後、徐(おもむろ)に贈り物の蛤を開きました。
貝の裏側には、艶々とした檸檬色の色素が塗り固めてあります。
まるで月を彷彿とさせるような、温かみのある色合いでした。
唇に塗ると何色になるんだろうと思いつつ、水で湿らせた小さな紅筆を使って、紅を差していきました。
何度か塗り重ねていくうちに現れたのは、こっくりとした深みのあるボルドーでした。
期せずして、ワインレッドのシルクパジャマと良く合います。
その紅を差す行為が、眠るために心を美しく整えるためのものだと感じました。
心の美しさは、容姿にも滲み出るものです。
月夜絵師の男性が口にしていた、寝姿の美しさに磨きが掛かるというのは、そのことを指しているのかも知れません。
僭越ながら、私の美しい寝姿を、月夜絵師の男性が月の表面に描き、その月を眺めた人々が、月の美しさに心を打たれるという循環が生まれるのなら、寝姿に紅を差す行為は、決して無意味ではない筈です。
そんなふうに思った時、フランキンセンスの香りが、ふっと鼻先を掠めたような気がしました。
それは月夜絵師の男性が、微笑んで頷いてくれたような気がする出来事でした。
仕上げに髪の毛を、ブラシで梳かし付け、電気を消し、寝床にしどけなく横になりました。
そんな私の寝姿を、南にある窓から、柔らかな光を纏った半月が、見下ろしていました。
~~~ 完 ~~~
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佐藤美月は、小説家・エッセイスト・ライター・コラムニストとして、活動しております。
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