皆さま、ちょっとご無沙汰しておりました。
コメントも色々いただいておきながら、ブログをほったらかしにしていましたが、先週はほぼ毎日、トロントのドキュメンタリー映画祭「HOT DOCS」で通訳をしていました。
今年は日本からの作品に焦点が当てられていたこともあって、たくさんの素晴らしい映画がトロントで上映されました。
私が担当したのは
中村佑子監督の『あえかなる部屋:内藤礼と光たち』("A Room of Her Own: Rei Naito and Light")
この作品に関しては監督さんが特別パネルディスカッションに招かれていらしたので、その通訳も務めました。
会場が私の職場でもあるトロント大学のキャンパス内にあったので、個人的にはすごく馴染みがあって良かったです。
ヴィクトリア・カレッジという建物は内装もユニーク:
ホールにはオルガンもあったりして、礼拝ができるようになっているのですね。
このイベントは業界向けであり、一般公開はされていなかったのですが、けっこう人が入っていて盛況でした。
上映会では中村監督の作品にとても共感して、涙を浮かべて握手を求めるお客さんもいました。質疑応答では「すごい鋭い質問」と監督さんも驚かれるほど、深い理解が示されて、トロントには本当に多くの、そして幅広い層の映画ファンがいるのだな、と実感します。
二つ目の映画は西原孝至監督の『わたしの自由について』 ("About My Liberty").
この作品はドキュメンタリー映画の中でも長編で、2時間45分という力作。最初にプレビューを渡された時はちょっと尻込みしましたが、見ている内にどんどん引き込まれて行く不思議なリズム感を持っています。
2015年の夏、若者たちが国会前で毎週金曜日、安倍総理の改憲法案に反対デモを催した様子を描いています。中心となった「SEALDs」のメンバーのインタビューやミーティングの映像も盛り込まれ、臨場感に溢れています。
上映の日は最初の一時間ほどを監督さんと見て、後は休憩してから
ケールとビーツのサラダに白ワインのソーダ割り!
質疑応答のために会場に戻りました。
会場からは色んな質問が飛び、なかなか活発なディスカッションとなりました。観客からは「日本のこういった状況についてはカナダで全く報道がなかった。これはカナダのメディアの落ち度だ。」といった声が多く上がっていました。
そして三作目は重野康紀監督の『ラーメン・ヘッズ』("Ramen Heads")。
千葉県松戸市にある、3年連続TRY大賞に輝いた「中華蕎麦『とみ田』」の店主、富田治氏を取り続けた作品で、海外に日本のラーメン文化を伝えるためには最高の仕上がりになっていました。
トロントでも日本のラーメンは現在、大ブームということもあって、会場は連日満員御礼。
当日、キャンセル待ちが出るのを期待して長蛇の列が出来ていました。
そして上映初日はワールド・プレミアでしたが、なんと、富田治氏ご自身が登場!!
もう会場は大騒ぎでした。
矢継ぎ早に質問が飛びましたが、中でも面白かったのは「映画の中では仕込みの様子など、躊躇なく、見せていたが、それは自信があるという証拠か?」と聞かれて富田氏が「自分は修行中、親方(=大勝軒の山岸氏)から全てを見せてもらったので、自分も弟子には何も隠さない。材料に何を使っているのか見せるだけで味が真似できるんだったら、それは自分がそれだけの腕だ、ということなんで。」とおっしゃったことでした。やはり極めた職人さんはオーラが違います。
二回目と三回目の上映は監督さんのみでしたが、これまた面白い質疑応答となりました。どうやってあんな小さな店の中で調理の映像が撮れるのか、店主のモーレツ働きぶりに家族は何を思うのか、などなど。
海外での上映会でこんなにもお客さんが入るとは思わなかった、と監督さんもスタッフの皆さんも大感激でしたが、私はラーメンがテーマであるだけに、全く驚きませんでした。
最後の上映会の後、私が決まって日本からのお客さんをお連れするDistillery District に移動して打ち上げ。
日本の造り酒屋「泉」もあったり
そしてやはり地元のビールが美味しいMill Street Brew Pub で仕上げ。ちなみにここのビールはうちの主人のイチオシです!
せっかくカナダに来ていただいたので美味しいソーセージやサラミ
そしてPOUTINE (フライド・ポテトの上にグレイビーとチーズのかかった、いかにも血管が詰まりそうなもの)もお勧めしました。
この後も幾つかハシゴして、色々なお話を聞くことができました。
(実はスタッフの中に、例の「情熱大陸」を担当した方もいらしたりして。。。?)
疲れたけど、楽しい日々でした。
トロント国際映画祭やスケートカナダの大会もそうですが、今回も交通費や拘束時間を考えると、正直、「手弁当」に等しいお仕事です。もちろん、大きな配給会社がPRを担当している作品に専属通訳として付く場合は違いますが、映画祭は通常、非常に限られた資金で運営されているので、膨大な通訳料は払えません。会場の運営もボランティアの協力なしでは成り立ちません。
そんな事情から通訳にもピンキリがあって、必ずしも良い人が当たるとは限らず、英語が苦手な監督さんや俳優さんたちは時には質疑応答の際にとっても困ったりするのです。今回も一人のイタリア人の監督さんが少し力不足な通訳に業を煮やして「もう自分で話した方がマシ」と、途中から自力で英語を駆使されていました。
それを聞いて日本からいらした方々はびっくりされていましたが、私はお金を寄付する代わりに自分の時間と語学力を物納しているのだ、とお話ししておきました。その代わりにこうやってイベントの運営側の状況も知ることができるし、日本の映画関係の方々ともお話ができるし、何よりも言語の壁を越えてのコミュニケーションに貢献できているという満足感を十分、得ています。
またいつかこのテーマに関してはゆっくり書きますが、老後の趣味としては本当に良い物を見つけたと思っています。