~第9章~


「これからどこに、向かうの?」


美咲は、横に居る真琴に聞いた。真琴は、美咲に笑顔を見るだけで何も答えなかった。


美咲は、真琴が気がつかないようにため息をついた。


(今日で、何回ため息をついたんだろう・・・)


美咲は、空を見た。美咲は空男さんの絵を見てから、よくこうして空を見上げるようになった。今までは気がつかなかったが、同じ場所から見ても日にちが違えば、もう昨日見た空とは違うものになっている。


(そう言えば空男さん、元気かなぁ・・・帰ったら空男さんの絵、ホコリがたまらないうちに綺麗にしなきゃ)


「山桜さんは、空は好き?」


突然声をかけて来た真琴に驚いて、美咲はバッと真琴を見た。真琴は、そんな美咲をじっと見ていた。太陽の逆光で、真琴の色素の薄い目が金色に見えた。


「空は・・・好きかどうか、正直分からない。けど・・・最近はよく空を見上げるようになった。それに、空には全く同じ空がない事が分かったの」


言い終わって自分が今、どんな恥ずかしい発言をしたかに気が付いた美咲は、顔がだんだん赤くなっていくのを感じチラッと、真琴の方を見た。

(きっと、変に思われているんだろうな・・・)


だが、美咲が思っていた反応とは逆だった。

真琴は、本当に嬉しそうな顔をしていたのだ。

美咲は、そんな真琴に呆気に取られていた。すると、真琴は美咲の手を握ると急に走り出した。


「ち、ちょっと・・・! 神田くん⁈」


真琴は、何か急いでいるようだった。美咲も、真琴の意外な足の速さについて行くのがやっとで、これ以上口が利けなかった。


どの位走っただろうか・・・急に真琴が走るのをやめ、美咲がぶつかりそうになった。


「・・・着いたよ。」


そう言って 真琴はようやく口を開いた。


美咲は、真琴の背中から顔を出した。


そこには・・・






「キレイ・・・」


美咲は、無意識に言葉を言っていた。正に、釘付け状態だった。


「ここを山桜さんに 見せたかったんだ。良かった~間に合って・・・」


その夕日に照らされている真琴の笑顔は とても眩しく見え、そして・・・


ー ドキッー


(・・・何だろう、この感じは・・・)


美咲の心を、揺らがせた。


「ところで、どうしてここを私に見せたかったの?」


お互いを知るほど、関わった事も無いのに・・・やはり、何となくか?


美咲はそう思っていたが・・・


「兄貴が、絵をあげた子をここに連れて行ってあげてって言ってさ」


そう言って真琴は、上着のポケットから紙を出して美咲に渡した。渡された紙を見ると 、そこには自分の似顔絵が描かれてあった。


「・・・もしかして、神田くんのお兄さんって・・・『空男さん』?」


真琴は、その名前をいってもしばらくは反応がなかったが、何か思い出したように答えた。


「あっ、うん。たぶん・・・画家のペンネーム、『青山空男』だから」


「あっ、やっぱり~・・・って、えっ⁈」


遅くに驚いた美咲に、真琴はニコニコと笑って頷いた。


~続く~