~第6章~

結局その日は空男さんの正体は分からずじまいで終わった。 次の日、空男さんに会った時間帯に家を出たが案の定、空男さんには会えなかった。
 

「珍しいねぇ、きっちり家の美咲がリボンほどけているなんて」

 
菜花がそう言って顔を覗かせてきた。


「えっ?」


 菜花に言われて、自分の胸元を見た。


「あっ、本当だ…」


「今まで気づかなかったの?!」


 菜花は、溜息を付きながら前の席に座った。


「アンタ、絶対におかしいよ。授業中だって、いつもならぱぱっと答えちゃうのに今日は私でも分かる問題を『分かりません。』なんて言って…。数学の河合、たまげてたよ。まぁ、面白いも見れたけどさ…」

 
そう言うと、菜花は満足気に席を立って教室を出た。すると、隣の席の真琴が本から目を上げた。


「山桜さん、何かあったの?」


美咲は真琴を見ると、溜息を付いた。


「アンタは、悩み事が無さそうで良いわね。」


 真琴は一瞬黙っていたが、またいつもの笑顔に戻った。


「そうかな~。案外あるかもよ?そんな事より本当に何かあったら何でも言ってね。必要ならば俺の胸を貸してあげるよ?」


「まぁ、それはどうも。でも、そんな事はないと思うけど」


「さすが、『雪の女王』と呼ばれるだけのことはあるね」


 美咲はまた溜息を付いた。だが、気持ちのどこかではほんのり和らいだ感じがあった。


 昼休みの後の残りの授業は美術だった。その時間は驚きの発見をした。


それは、今日のデッサンのこと…


「…!そ、それは、神田くんが描いたの?」


 美術の先生が言葉を失い掛けていた。


「はい…。そうですが…。あの、何かおかしな所がありましたか?」


「と、とんでもない!素晴らし過ぎて…。神田くん、貴方もしかして…絵画全国大会の準優勝の神田真琴くんかしら?」


 真琴が一瞬、曇った顔をしたのを美咲は逃さなかった。


「ええ、まあ…」


「やっぱり!!漢字も同じだし、もしかしたらと思ってたげど…。貴方の作品はプロからも評判が良いのよね~」


 周りのクラスメイトが、どよめいた。


「でも、準優勝ですから…」

 
美咲は真琴の違和感を感じさせた態度に気づいていた。


(神田くん、貴方こそ何か悩み事があるんじゃない?)

 
美咲はもう一度、真琴の方を見ると自分のデッサンに戻った。

                      
                         ~続く~