もう半年も前のお話です。

 

2020年10月に「古典への誘い」を見に行きました。

 

私の次の観劇はまだ1か月先なので、下書きのままになっていたブログを今さら更新したいと思いますニコニコ
 
2020年2月に舞台が中止になって以来、この時が市川海老蔵さんの復帰舞台キラキラ
1. 寿式三番叟、2. 御目見得口上、3. 男伊達花廓の3本立てでした。コロナ対策に配慮して、短い時間ながら、歌舞伎が見られる喜びを体感した公演でした。
順番に感想を書きたいと思います。
 

1. 寿式三番叟

国土安穏、天下泰平を祈る、儀式的な長唄舞踊。化粧や拵えのない素踊りでした。コロナ禍を経た再開公演の第一幕目にピッタリキラキラさすが市川海老蔵さんのチョイス。
 
千歳(せんざい)は大谷廣松さん。一昨年の市川会で「寿式三番叟」を見たときは、女性的な振りが多かったですが、今回の千歳は男性的でした。足を開いたり、大きな所作が多かったような気がします。千歳にも色々な種類があるんだなぁと知りました照れ
 
翁は市川九團次さん。そして、三番叟の海老蔵さんによる神々への祈り。全人類を代表したような静粛な祈り、内なる思いを込めた舞のように感じました。
 
籾の段は、力強く大地を踏みしめ、鎮まれ鎮まれと悪霊を大地に封じ込めているよう。鈴の段は、大地よ実れ実れと言わんばかりの深い祈りと気を感じました。
 
静粛な儀式であるとともに、三番叟ならではの、軽やかさや華やかさもありますルンルンそこを同時に共存できるのが、海老蔵さんの凄いところですねキラキラ
 
三番叟は、これまでいろいろなバージョンを見てきましたが、詞章を確認してこなかったことを反省し、今回は長唄の詞章を探してみました。しかし、本でもネットでも見つけることができずショボーンどなたか御存知でしたら、教えていただきたいですお願い
 
調べて出てきたのは、義太夫の三番叟の詞章ばかり。これに比べると長唄はほとんど唄っていませんでした。長唄で聞き取れたのは最後の〽天下泰平、国土安穏、今日の御祈祷これまでなり だけアセアセ
 
しかし、予習で読んだ義太夫の詞章が素敵だったのでここに書きたいと思います。
宇宙の始まりの神秘が描かれていますキラキラ
 
 
〽それ豊秋津州(とよあきつせ)の大日本 国とこたちの尊(みこと)より
天津神七世の後 地神のはじめ天照御大神(あまてらすおんおおみかみ)
 
〽岩戸に籠らせ給いし時 世は常闇となりけらし
その時四方津神(よもつかみ) 八百万の御神
神集めに集め給い 庭火を焚いて庭神楽
神棲む注連と木綿襷 太宣言(ふとのりこと)の神歌(かみうた)や
式三番のそのいわれ おさおさ申すも畏れあり
 
三番叟の演奏は、天照大御神が天岩戸に隠れたとき、神々が集まって、演奏した曲。
また、こうもあります。
 
〽とうとうと鳴る鼓 宇佐の神の御役にて
笛の初音も高円や 笛吹きの大明神
大鼓は高野の大明神 
太鼓は熱田の源太夫
 
小鼓、笛、大鼓、太鼓など、三番叟で演奏されるそれぞれの楽器は、神々が演奏したものである。
 
天照大御神が天岩戸に隠れ、真っ暗になり、食べ物が育たなくなり、病気が蔓延します。しかし、神々がこの三番叟を演奏することによって、天照大御神が天岩戸から出て、日が照り晴れ食べ物が育ち、疫病も収まった。そんな神聖な呪力を持つ曲なんですね。あらためて、この曲の尊さを感じました。
 
宇宙の始まりを知るには2つの方法があります。一つは宇宙物理学により初期太陽系の姿を観測すること。もう一つは神話。太陽神である天照大御神が天岩屋に隠れたときに、どのように出てきたのか。後者を伝えるのがこの三番叟です。
 
どちらが正しい、どちらが間違っているではなく、どちらも正しい。宇宙の始まりの神秘が詰まった曲で、人間の想像力の豊かさを感じましたキラキラそして、このコロナ禍の歌舞伎再開にピッタリニコニコ
 
 
話はそれますが、2021年2月20日
Earth&Humanの設立記念公演で海老蔵さんが踊ったのもこの三番叟でした。
 
 
現代的な演出を駆使して、海老蔵さんが神聖に舞うと、まるで天照大御神が天岩戸から出てきたかのよう。暗く枯れていた地球に、日が照り晴れ草木が生い茂りますクローバー
 
(画像はSankei Bizより)
 
(画像はニュースキャストより)
 
鈴の段で、鈴をもって振ると、草木が実り花を咲かせますガーベラオカメインコや動物ネザーランド・ドワーフたちの生命も宿り、さらには人間の文化が生まれます。「あぁ、三番叟とはこういう踊りなのね」とこの曲の貴重さと、それを現代的な環境問題につなぎ合わせて理解させてくれた、演出のすばらしさを感じました。未来の環境への種まきとなることでしょう。
 
 

2. 御目見得口上

「古典への誘い」では、三番叟が終わって海老蔵さんが花道に来ると、そのまま引っ込まずに、御目見得口上が始まりました。
 
市川海老蔵さん、市川九團次さん、大谷廣松さん、市川新蔵さん、市川新十郎さん、によるご挨拶でした。コロナ禍をどのように過ごしていたのかや、この公演にかける意気込みが語られました。
 
以前、12代目團十郎さんが「寺子屋」松王丸の衣装を新しく作り直すときに〇千万円かかったというお話に、客席から「おぉ~」と声が上がりました。今は職人さんが少なくなってきているので、作れる人が少なくなっている、もう作れないものもあるかもと。
 
このコロナ禍で伝統芸能やそれに類する伝統工芸を絶やすわけにはいかない、と力強い心意気が語られました。
 
 
 

3. 男伊達花廓

曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)」を所作立てにした舞踊劇。歌舞伎の様式美と舞踊の華やかさが一挙に味わえる楽しい演目です。
 
舞台は桜が咲き誇る吉原仲之町。江戸の侠客、御所五郎蔵は市川海老蔵さん。下駄をはいて、笛をもって助六みたいな男伊達ですラブラブ
 
そして、五郎蔵の着物は、助六みたいに裾が少し開いています。引き締まった下腹に、歩くたびに裾がはだけてみえる生足、そして赤いふんどしの色っぽいことラブ
 
五郎蔵の妻、傾城皐月に横恋慕する星影土右衛門の手下が絡んできます(ちなみに、この舞踊に皐月や土右衛門は出てきません)。
土右衛門の手下、新貝荒蔵は市川九團次さん。その取巻きが、市川新十郎さん、市川新次さん、市川新八さん、市川福五郎さん、市川米十郎さんら。
 
遊郭の新造、梅が枝(大谷廣松さん)が、五郎蔵の妻皐月からであろう天紅の文を届けにきます。
廣松さんは、ますます女形としての花を咲かせていますね。廣松さんの登場で舞台に艶を与えてくれます。
 
最後は所作立てで土右衛門の手下たちと床几を使った立ち廻り。海老蔵さんは片肌脱いで、赤い襦袢が血気盛んで色っぽい。三升の傘を使った派手な立ち廻りに、客席も大拍手でした拍手市川福五郎さんはトンボをたくさん切って華やか。海老蔵さんがスパーンと投げた傘をキャッチするのもカッコいい!
 
最後にはカーテンコールが3回あり、スタンディングオベーションとなりました拍手
海老蔵さんがお手振りしてくださると、周りの女性たちがみんなキラキラ笑顔にキラキラやっぱりすごいスターだなと改めて思いました照れ
 
キラキラ笑顔は女性達だけではありません。この公演で一番感動したのは、客席に酸素チューブを付けたご高齢の男性と、その奥様を見たこと。
 
このコロナ禍で、ご高齢で、さらに酸素チューブを付けてまで見たいものが歌舞伎にはあるキラキラ人々に元気を与える力を目の当たりにしました。
 
 
 
 
下の写真は十一代目團十郎さんの御所五郎蔵。横顔が海老蔵さんと瓜二つで驚きましたびっくりルンルン
 
(「名作歌舞伎全集」東京創元社1969より)
 
(「名作歌舞伎全集」東京創元社1969より)
 
ぜひ、「曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)」を海老蔵さんの五郎蔵で見たいですラブラブ
 
凄みのある侠客、皐月に愛想尽かしされる時の悔しさに表れる男の色気、星影土右衛門に討ちかかるときの肉体的な強さ美しさなど、海老蔵さんにぴったりだと思いますラブラブ