毎日うだるような暑さが続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
半年ぶりの歌舞伎鑑賞で、国立劇場に第26回稚魚の会・歌舞伎会合同公演の千穐楽を見に行ってきました。
数日前からずっとワクワク~
歌舞伎を見る前のこのワクワク感も久しぶりだなぁ~
今年は、なんといっても市川新十郎さん最後の合同公演。新十郎さんの「傾城反魂香」を楽しみにしていました。もちろんすべての演目に熱がこもっていて素晴らしかったです
国立劇場は新型コロナウイルス感染対策がバッチリで、安心して見ていられました。客席は一席空けて座るのですが、そのなかでも満席拍手も普段の客数と変わらないぐらい、熱い拍手が沸き起こっていました
演目は、1修禅寺物語、2茶壺、3傾城反魂香。1新歌舞伎、2松羽目物の舞踊、3時代物とそれぞれ違った趣向でよかったです。順を追って感想を書きたいと思います。
修禅寺物語
明治44年に初演された新歌舞伎です。新歌舞伎なので、義太夫の語りはなく、ほぼ現代語でセリフを聞くことができます
時は鎌倉時代、2代将軍源頼家の時代。伊豆の修禅寺に暮らす、ある面作師(おもてつくりし)の一家を取り上げた物語です。芸術一筋の面作師の一家が、時の北条氏vs源氏の戦いに巻き込まれていきます。そのなかで繰り広げられる家族模様や、伊豆の情緒ある男女の愛、面作師の狂気ともいえる芸術志向がみどころのお芝居です。
面作師・夜叉王(やしゃおう)の中村橋吾さんは、どーんと構えて、いかにも芸術家という感じが素敵でした。お声もすごく通りますし、老け役に全く違和感がありません。
面作師の2人娘の姉、かつらは中村好蝶さん。気位が高い娘。でも父親思いで、頼家が父親に刀を抜きかけた時は、必死に間に入ります。
妹のかえでは片岡市也さん、片岡市蔵さん門下の役者さんです。姉のかつらとは対照的に、直実な娘というのがお芝居から伝わってきました。かえでの婿晴彦は尾上松三さん。
夜叉王に面を催促しに来た源頼家は中村梅寿さん。声が良く通り、白塗りが似合う役者さんでした。頼家とかつらが目を合わせ恋に落ちる瞬間は「キャ」っという感じでした
そんな頼家は、若いのに自分も叔父(源範頼)のように伊豆で殺される運命にあると悟っており、戦の世に嫌気がさしているような、ちょっと冷めた感じもしました。例えば、夜叉王に、「頼家の面は死人の相が出ている、まなこに怨霊がついている」と言われても表情一つ変えません。史実でも頼家は当時病気だったので、覇気がないのに納得です。
ですので、かつらとの川辺のデートは、戦の世の醜い陰謀を忘れられる、楽しいひと時だったのでしょうね~。桂川の場面は舞台美術も美しく、月光がキラキラ川面に揺れる趣向が素敵でした
かつらもすごい女性ですよね。義経でいう静御前のような愛妾にいきなり抜擢されるのですから。「若狭局」は頼朝の嫡男を生んだ女性なので、すごい抜擢です。
敵の北条方の尾上貴緑さんもうまかったです。声が良くて存在感がありますね。
北条方の家来には、現在の研修生の方々も出演されていました。コロナ禍でも頑張ってらしてすごい家来のなかでも、立ち廻りの動きがひときわ美しく、目に留まったのが、市川新八さんと市川福五郎さんでした
北条方に討たれたかつらの「御奉公初めの奉公納め」という言葉は悲しいですでもあの征夷大将軍の頼家様に半時でも仕えられたから本望、と言えるかつらは強い女性です。かっこいい。「こうなるんだったら奉公に行かなければ良かった」なんて決して言いません。さらに芸術志向の父のために、顔を見せろと言われて死ぬ間際に父の言いつけにも従うのです。なんて強い女性。
最後は、かつらがなくなる瞬間の形相がすごかったです宙を見て口を開け、幽霊のような、ゾクゾクするような顔でした夜叉王も一瞬、後ずさりしてびっくりし、それでもくぎ付けになるように筆を執ります。
はじめ、この結末をどのように解釈したら良いのか、よくわかりませんでしたですが、夜叉王の狂気を帯びた非情な芸術志向よりも、家族の物語として味わったほうが面白いのかなと思いました。
例えば最後に痛手を負ったかつらもわざわざ家族の元に戻ってきます。そんなかつらをみて、夜叉王も「奉公に行かせなければよかった」などとは言わず、希望だった将軍様の傍にひと時でも仕えられて死ねるのは本望であろう、とかつらの気持ちを尊重します。
また、夜叉王がかつらに顔を上げさせて、絵を描いたのは、芸術志向もありますが、娘への愛もあるのかなと思いました。まだ生きている娘を絵に残しておきたいという父親の気持ち。次に、この演目を見る機会があったら、そのあたりをしっかり見たいなぁと思いました
権力者の戦に巻き込まれていく人々の家族物語。歴史というと、一般的に知られているのは為政者の歴史です。しかしその背後にある民衆の生き様を丁寧に教えてくれるのが歌舞伎の素晴らしいところです。もちろん創作なので、すべて史実ではありませんが
個人的には、源氏の歴史との関わりから見ても面白かったです。
コロナ禍の直前、今年2月に見た最後の歌舞伎が「勧進帳」でした。
「修禅寺物語」は「勧進帳」の1世代後。「頼朝、義経、御仲不和とならせ給うにより」の頼朝は死に、その息子の頼家の時代です。あれほど執拗に義経を追い詰めて頼朝が開いた鎌倉幕府ですが、息子頼家は、実母(頼朝の妻)北条政子によって修禅寺に幽閉され、21歳で北条方に殺されます。すごいですよねー。母に幽閉され、母方の祖父の力で殺されるのですから
頼家の妻妾である若狭局も北条氏によって殺されます。そして頼家の弟の実朝も26歳で死に、母である北条方が力を握っていきます。ほんとうにすごい時代ですよね。身内どうしが陰謀を掛け合い、殺しあう時代。そんな世の中に頼家の嫌気がさすのもよくわかります。
夜叉王のセリフに「蒲殿といい、上様と言い、いかなる因縁かこの修禅寺には、土の底まで源氏の血が沁しみるのう」というのがあります。
蒲殿は叔父(頼朝の弟)の源範頼のこと、彼もまたここ修禅寺で殺されたのでした。
その理由は、頼家が12歳の時に富士の巻狩りを成功させた際、曽我兄弟の仇討が起こったことだそうです。いろいろな歌舞伎の物語がう〜っすら繋がって興味深いなぁ。
さて、この「修禅寺物語」は、早鐘こそ鳴るものの、三味線や鳴り物がほぼありません。久しぶりの歌舞伎観劇に「もっと三味線が聞きたい」と思ってしまいました。そんな時、ちょうど次の演目が「茶壷」で長唄をたっぷり聞けたので良かったです市川升三郎のすっぱに、めっちゃ笑いました
長くなってしまったので、続きはまた明日書きたいと思います。
週末は、24時間テレビで市川海老蔵さんの歌舞伎が見られますね〜キンプリの岸優太さんと「景清」を元にした歌舞伎の共演。海老蔵さんの華やかなハレの気をバンバンに浴びたいあと音の会も観に行く予定なので、楽しみです