少し前になりますが、吉例顔見世大歌舞伎、夜の部を観てきました。
「桜門五三桐」、「文売り」、「法界坊」の三つの演目です。
「桜門五三桐」
何度か見ているのですが、短くて歌舞伎界の社会保障的なイメージのある演目です。
浅葱幕が張られているとワクワクしますそこから、幕が落とされた後の視覚効果が大好きです大薩摩の演奏が豪快で、気持ちを高めてくれます。
中村吉右衛門さんの石川五右衛門。「絶景かな~」の声は高く細々しく、少し心配になってしまいましたが、さすが見た目は凄味がありますね。
対する尾上菊五郎さんの真柴久吉は品があります。右忠太、左忠太は中村歌昇さんと中村種之助さん。大歌舞伎ならではの贅沢な配役ですね。
いつも、五右衛門が投げる小柄を久吉がどうやって柄杓で受け止めているのか気になっていたので、今回は菊五郎さんの手元を凝視なるほど仕掛けがわかりました
人間国宝のお二人が対峙する贅沢な配役・・・・・
・・・だそうですが未熟者の私は人間国宝の良さを味わうにはまだまだ経験不足のようです。
「文売り」
中村雀右衛門さんの舞踊です。舞台に紅白の梅が描かれていて、お正月らしく華やかです
清元の浄瑠璃とともに、太夫どうしの喧嘩など、廓の様子を仕方話で踊り分けるのが楽しかったです
衣装や小道具が変わったり、ということはなく、ずっと手踊りでした。
「法界坊」
初演1784年、四代目市川團蔵。初代中村吉右衛門や十七代目中村勘三郎が得意とした喜劇味のある世話物です。喜劇の世話物を観たいなぁと思っていたのでした
今回の収穫は、中村種之助さんの野分姫を観られたことかなぁ。頬は中村米吉さんのようにふっくらぽってりして可愛い。この野分姫の幽霊がとっても良かった!可哀想さ、悲愴さに溢れていました
もう一人の女形、法界坊が思いを寄せるおくみは尾上右近さん。ずっと女形をされてきただけあって発声やしぐさなど安定感がありますね。中村種之助さんは、声は少し辛そうでしたが、男性がやる歌舞伎の女形として独特の魅力があります
二人の女性の間に挟まれる手代要助(実は松若丸)が中村隼人さん。隼人さんの和事のやつしは難しいお役ですね。今回勉強になったのは、やつしは女形ではないということ。
隼人さんは声が高く、目を閉じて野分姫、おくみ、要助のやり取りを聞いていると女形3人が話しているようでした。所作も内股でなよっとしています。
和事のやつしってこんな感じでしたっけ・・・今回気付いたのは、やつしのなかの“男性性”が実はキーポイントであるということ。なよっとしていて女々しいのですが、決して女形ではありません。やつしのなかで男性的な魅力をどう出していくかが鍵なのだと感じました。
例えば、要助は手代の身にやつしていますが、実は吉田家の嫡男という高貴な身分です。言われるがままに女性に振り回されたり、あるいはただ単に優柔不断な弱い男ではありません。その品格や育ちの良さをちょっとした演技から感じさせてくれればなぁと思いました。
法界坊の市川猿之助さんは、志村けんさんのコントを彷彿させる場面がいくつもあって楽しかったです。「痛い!腕がまた折れた~」とか「猿之助と隼人とどっちがいい男か」とか「早く楽屋に帰りたい」とか、ギャグをたくさん連発します
楽しいのですが、こういう楽屋落ちって連発しすぎると、お芝居の世界から現実世界に引き戻されてしまうので難しいですよね。何事もバランスが大事だなぁと感じました。ギャグだけでなく自然な愛嬌で笑わせるバランスも。
道具屋甚三の中村歌六さん、おらくの市川門之助さん、五百平の坂東巳之助さんなどは、さすが安定のお芝居で上手かったです。
大切りで法界坊と野分姫が合体した霊が出てくる物語は1784年にできたそうで、江戸時代の物語の巧みさに驚きました。最近納涼歌舞伎で「東海道中膝栗毛」など新作の喜劇を観ましたが、やはり江戸時代の喜劇は物語が凝っていますね~ストーリーが断然面白いです。野分姫、法界坊、要助(松若丸)、おくみそれぞれの思いが交差するなかで法界坊と野分姫の合体霊が出現します。また、掛け軸が物語に重要な小道具として出てきます。温故知新。小手先の笑いだけではない、主線と伏線が絡み合った江戸時代の物語の緻密さ、質の高さを感じました。
法界坊は市川中車さんでも観てみたいなぁとおもいました。また、手代要助(松若丸)は中村錦之助さんや松本幸四郎さんでも観てみたいです。特に中村錦之助さんは「霊験亀山鉾」で観た、二人の女性に挟まれる和事の役がハマっていたので、ぜひ錦之助さんで観てみたい
まだまだ観たことのない演目がたくさんあるので、色々な喜劇の世話物を観てみたくなりました。
さて、12月歌舞伎座は、チケットは買っていないのですが、時間がうまくできたらふらっと幕見でみたいと思っています