北海道地震のニュースに胸が痛みます。

日本全国、どこで地震が起きてもおかしくないでしょうので、備蓄品の確認や非常用電源の準備など改めて行おうと思いました。

 

私は先日、市川海老蔵さんの古典への誘いを観に行ってきました。忘れないうちにその感想を綴りたいと思います。

1. 辻勝さんの和太鼓、2. 海老蔵さんのご挨拶、3. 大谷廣松さんの「汐汲」、4. 市川九團次さんの「越後獅子」、そして5. 海老蔵さんの「蛇柳」と、とてもバランスの良い番組でした。



1.和太鼓「響」
辻勝さんの和太鼓、初めて聞きました。
真っ暗な舞台から照明が灯る演出いいですね。辻勝さんの影が2つ和太鼓とその後ろに映し出されて、3人で太鼓を叩いているようにも見えました。

そして、やはり音がいいですねー音譜
暗闇にドンドンドンドンと鳴り響く太鼓の音は、何か宗教的な儀礼が始まるようで、太鼓の音に合わせて舞台の神様が下りてくるようでした。開演前の「俗」世界から、舞台の「神聖」な異世界へと誘われていきました。

今まで室内で聞く和太鼓の音は大きすぎて苦手だったのですが、これはそういう次元ではなかったです。静寂、躍動、物悲しさ、雄大さなど、太鼓を叩く場所によって、様々な感情や景色が映し出されるようでした。歌舞伎でも太鼓の音で、風や雨、雷、物の怪など様々な表現をするので、なるほどなぁと思いました。

太鼓を叩く姿も、歌舞伎の所作のように力強くて楽しめます。辻勝さんの背中には次第に汗がジットリ滲んできて、ドキドキするようなライブ感も味わえましたキラキラ

辻勝さんの演奏が終わり、客席に拍手が響くと市川海老蔵さんも拍手をしながら花道から登場。このタイミングにビックリですびっくり

 



2.「挨拶」
今年で7回目の古典への誘いが行えることの海老蔵さんの挨拶。会場からは質問を3つ受け付けて下さいました。なかには質問ではなくて、海老蔵さんへの激励もあったのですが笑、それはカウントせずにきっちり3つ質問を受け付けていました。サービス精神満点です音譜

海老蔵さんはやはり頭の回転が速くてユーモアがありますねー。客席は海老蔵さんのお話に終始笑いっぱなしでした爆  笑基本的な質問にも、一を聞いたら十を返すがごとく、懇切丁寧に、でも笑いを作って答えてくれます。

最後に「汐汲」「越後獅子」「蛇柳」の演目の解説をしてくれました。そういえば、会場ではイヤホンガイドがあったので、私は借りました。筋書には載っていない作品の解説やあらすじがあり、勉強になりました。幕間には九團次さんのトークも。



3.「汐汲」
長唄の舞踊。舞台には海辺に一本の松。須磨の海女(大谷廣松さん)が都の貴公子、在原行平との恋を懐かしむ舞踊です。廣松さんは華やかな赤い振袖に汲桶を掛けて花道から登場します。最近は立役も多いですが、やはり女方が廣松さんの本分ですよね。在原行平への思いを訴えるクドキの場面は、恋しさや哀愁の表情などとても良かったですニコニコ

この舞踊は小道具や衣装が変わるごとに、長唄の調子や鳴物も変わって、変化舞踊のような楽しさがありました音譜

はじめ汐汲桶を掛けた踊りはしっとりと色っぽく、扇子を使った踊りは躍動的、淡黄色の着物では、鐘(オルゴール)がチリチリなって華やかでした。そして三蓋傘(さんがいがさ)を使った踊りが珍しかったです。後見は大谷明三郎さん。

最後は在原行平が置いて行った忘れ形見の烏帽子を慕って去っていきました。廣松さんの女方をたっぷり味わえて満足でしたビックリマーク

 




4.「越後獅子」
こちらも長唄の舞踊です。舞台は江戸。新潟を出て諸国を周る若い旅芸人(市川九團次さん)が踊りを披露します。田舎出身者の愛嬌や、故郷を離れた旅芸人の哀愁を味わう舞踊です。

この舞踊も様々な小道具を使って変化に富んだ踊りが楽しめました。最初は獅子頭に鞨鼓を使った踊り。続いて獅子頭を取り、赤い着物を襷掛けにした手踊り、最後に晒を使った踊り。晒を越後の波に見立てて綺麗に捌くところがみどころですね。

この舞踊は2017年1月に中村鷹之資君のを観ました。その時は、越後出身の少年の旅芸人の踊りだと思って観ていました。実際、そのような若々しさ、溌溂とした良さがありました。

しかし、今回長唄の歌詞をよく聞いていたら、踊っているのは少年ではなくて女房のいる若い男性なんですね。初めて知りましたあせる

音符おらが女房をほめるぢゃないが 飯も炊いたり水仕事」と女房自慢があります(※「越後獅子」の長唄の歌詞はこちらに載っています)。


最後は「音符いざや帰らん 己が住家へ」と女房の待つ郷へ帰れる喜びが唄われていました。最近結婚した九團次さんの心情のようです笑

旅芸人なので踊りが上手くなければならないのは当然ですが、踊りつつも愛嬌や哀愁といった心情を表現するのが難しい舞踊なのかなと思いました。九團次さんは終始、神妙な面持ちで踊ってらっしゃいました。後見は市川升一さん。

ちなみに、「越後獅子」の元になっているのは、新潟県月潟村の郷土芸能「角兵衛獅子」(かくべえじし)だそうです。この「角兵衛獅子」の歴史がとても興味深かったです。

 

新潟市南区観光協会http://www.shironekankou.jp/shishi/kakubei.htmlより。

江戸時代は、子供の大道芸として越後のみならず江戸でも人気を博します。しかし、明治時代になり政治体制が変わると義務教育が始まり、児童就労が禁止され、月潟村の人も角兵衛獅子を恥の文化として忌避するようになったそうです。悲しい。その後昭和30年代になって芸が消滅するのを恐れた人たちによって郷土芸能として復活しているそうです(新潟市南区観光協会Wikipedia「角兵衛獅子」より)。


やはり、江戸時代と明治時代は社会的価値観が全く異なるのですね。どちらが良いかではなくて、明治時代になり消えてしまった各地の芸能が江戸時代には多様にあったのかもしれません。そのうちの一つがこうして歌舞伎の演目に取り入れられ残っているのはありがたいことです。この演目を観ることで、江戸時代の習俗に思いを馳せることができるので。いつか新潟に行く機会があったらぜひ郷土芸能「角兵衛獅子」も観てみたいです。

 

新潟市ホームページhttps://www.city.niigata.lg.jp/shisei/koho/kohoshi/shiho/backnumber/h29/shiho170910/2_04.htmlより

 


5.歌舞伎十八番「蛇柳」
待ってましたービックリマークビックリマーク長唄連中による舞踊劇です。歌舞伎十八番なので皆さん柿色の裃を付けています。

幕開きは九團次さんと廣松さんによる阿仏坊と陀仏坊が物語の背景を語ります。九團次さんも廣松さんも先ほどとは打って変わって、愛嬌のある坊主姿。九團次さんは、こういうユーモラスと可笑しみのある三枚目がハマリますねぇ。こういう役柄をもっと極めていって欲しいなぁ照れ

海老蔵さんの丹波の助太郎は美しいーキラキラ髪が少し乱れ、やつれた表情や、蝶々と無邪気に戯れる物狂いの姿は、寂しさの中に何とも言えない色気があります。助太郎は愛する妻と別れ物狂いになったのでした。妻の菩提のために高野山へやってきたと語ります。妻の忘れ形見の打掛を愛おしそうに抱く姿が、麻央さんを失った海老蔵さんの悲しみさと重なり・・・何とも言えません。

ここで坊主二人と問答があり、物の怪の疑いが晴れた助太郎は舞を所望されます。

ここの舞が素晴らしかったビックリマーク最初は、妻を思うあまり物狂いになった男の哀愁や寂しさを感じる踊りで、すごく色っぽいですラブ九團次さんや廣松さんの踊りも素晴らしかったのですが、海老蔵さんは目線や表情が全然違いますね。助太郎そのもの。引き込まれます。

そして哀愁の踊りから、次第に雌蛇を柳に変えられてしまったことを恨む雄蛇の姿を現していきます。ここの部分がすごかったですビックリマーク柳をチラッと睨む目の鋭さ、雌蛇に対する情念、人ならぬものの妖気など。ゾクッとしました。『京鹿子娘道成寺』で愛らしく田植え唄を踊っていた白拍子が一瞬鐘を睨むときにゾクッとするような感覚です。一連の踊りの中でその変化を味わえるのが見どころですね。

九團次さんと廣松さんの間狂言は、おどろおどろしい舞台の中でもユーモラスのあるお芝居が息抜きとなって良かったです。

蛇柳の精魂となった海老蔵さんの二役目は、この世の存在とは思えない妖気と迫力がありましたびっくり蛇柳の精を祈りの力で鎮める学僧役には、市川福太郎君と市川福丸君がでていました!嬉しい!いつの間にかお二人とも声変りをおえて低い声を出しておりビックリしました。

 

そして、早替りで、海老蔵さんが金剛丸照忠となって登場するのですが、いったいどうやって舞台から消えたのか!?分かりません。謎です。

 

金剛丸照忠は、太陽のようなおおらかなヒーロー太陽ハレのパワー全開キラキラ荒事の海老蔵さんの本分です。金剛丸の力によって蛇柳の精魂は鎮められ幕となりました。

短い舞踊劇ながら和事味のある哀愁の色男、そして妖気の迫力、最後にハレの荒事、と海老蔵さんの三つの魅力が存分に味わえました。おどろおどろしさ一辺倒ではなく、物語の起伏に富んでいて、目で見て楽しめる作品。歌舞伎十八番として申し分ない、完成度の高い作品だと思います。

 



最後にはカーテンコールが2回あり、役者さん達が手拭撒きをしてくださいました音譜観客を楽しませようという思いが伝わってきて嬉しかったですニコニコ

 

 


 

さて、話は変わりますが再来週9月22日から9月28日は、シネマ歌舞伎で「海神別荘」をやるんですね~音譜このポスターを目にした時から、ずっと観たいと思っていた作品です。坂東玉三郎さんと市川海老蔵さん。うっとりするような美男美女~キラキラお二人の「天守物語」も観たい!

 

日々、日常生活が送れることに感謝しつつ、1週間の期間中にもし観に行けたら嬉しいです。