先日、国立劇場に第24回稚魚の会・歌舞伎会合同公演を観に行ってきました。

 

国立劇場歌舞伎俳優研修修了者による「稚魚の会」と、幹部俳優に直接入門した俳優による「歌舞伎会」の合同公演です。

普段は、脇役や後見、黒衣として活躍するお弟子さん方が、主役となって演じるこの公演、楽しみにしていきました音譜
満員の客席です。演目は『寿曽我対面』、舞踊『勢獅子』『新霊矢口渡』の三つ。

 



『寿曽我対面』
何度も観ている演目です。
市川新八さんの曽我五郎、血気盛んで傍若無人な荒々しさに溢れていました。新八さんは腰が低くて重心が低いのが良いですね。本公演で四天や捕手をやっていても、重心が低いので力強く形が決まります。1本格的な睨みは海老蔵さん仕込みでしょうか。やわらかな曽我十郎は坂東やゑ亮さん。

大磯の虎は市川升吉さん。立女方としての貫禄がありました。化粧坂少将は中村好蝶さん。観ているだけで華やかです。
工藤祐経は、立っているだけで大きさを見せる難しい役ですね。後ろに並んでいる鎌倉大名のなかでは、梶原平三の大谷桂太郎さんが声も低くて一番貫禄がありました。工藤より貫禄があったかも。そういえば、石切の梶原がここにもいたのかと思いました。

小林朝比奈の中村吉兵衛さんや、花道から紛失した家宝「友切丸」を持ってやってくる市川升三郎さんは安定感のある役者さんですね。

今回見て感じたこと。この演目は五郎の荒事と十郎の和事を味わうのが楽しみなのでしょうが、それだけではなく十郎と大磯の虎の恋人関係や、五郎と化粧坂少将の恋人関係にちらっと色気が感じられることがポイントなのかなと思いました。

鎌倉大名は、現在研修中の23期研修生の方々が頑張っていらっしゃいました。普段何気なく見ている役ですが、立った時の微妙な角度の統一感など、実はこれも難しいお役なのだなと気づきました。

 



『勢獅子』
浅葱幕が落ちると全員勢揃いのこの演出、華やかでワクワクしますキラキラ威勢の良い鳶と意気な芸者が何人も登場し、様々な踊りを見せてくれるので楽しいです。

そのなかでも一際目を引いたのは、やはり鳶頭の市川新十郎さんと、芸者の中村芝のぶさん。みなさん一生懸命やっていらっしゃるのですが、この二人は周り(お祭りの場)を見渡して楽しむような余裕が感じられました。市川新十郎さんは扇子の扱いなど手馴れていて鳶をまとめる大らかさがありました。中村芝のぶさんは、床几に座っているだけで、身のしなりや手つきに色気がありました。

最後の獅子舞も晴れやかで楽しかったです。ひょっとこの中村梅寿さんは踊りがお上手でしたし、鳶の大谷桂太郎さんは、軽やかで足先まできれいでした。

 



『神霊矢口渡‐頓兵衛住家の場』
三演目のなかで、これが一番上演時間が長く、見応えがありました。

いつも威勢の良いとんぼを返っている市川新次さんは和事のお役に挑戦。お舟(中村芝のぶさん)が新田義峰(市川新次さん)に惚れるシーンは、芝のぶさんが魅せてくれました。ぽわーっと惚れ惚れする顔や仕草など、乙女心満開ラブラブそんなお舟の挙動を怪しがる傾城うてな(中村蝶次さん)もおもしろい。

六蔵の尾上音蔵さんは、下男らしく飄々としたお芝居が良かったです。
頓兵衛の中村橋吾さんは父親らしい大きさと、お金のためなら娘を殺すことも厭わない冷血漢ぶりが上手かった。

一番の見どころは最後、お舟が新田義峰を逃がす場面。歌舞伎によくある瀕死の状態になってからが長ぁ~いのですが(笑)、惚れた男のためなら命さえも惜しまない、一途な女の心情が表われていました。橋吾さんの冷酷な憎々しさもよかった。それによって芝のぶさんの可憐さが際立っていたと思います。

この演目は「芝のぶ劇場」という感じで、劇場の空気を引き付ける力を感じました。合同公演は、研修修了後30年まで出られるそうで、今年は中村芝のぶさんが、最後の出演になるそうです。芝のぶさんは、このお舟ちゃんをずっとやりたかったそうで、その通り渾身のお芝居を見せてくれました。本公演でもできそう。

 



小さい劇場だからこそ、舞台や花道の役者さんとの距離が近く息遣いが伝わってきました。みなさんがそれぞれ密かに熱く抱いている役者魂を感じましたニコニコ

芝のぶさんは国立劇場第9期歌舞伎俳優研修修了生とのことですが、第10期修了生には市川新十郎さんがいらっしゃいます。来年(再来年?)は新十郎さんの合同公演出演が最後になるということですね。これもぜひ観に行きたいです音譜