歌舞伎座二月大歌舞伎、夜の部を観てきました。
順番が逆になりますが、『芝居前』『熊谷陣屋』



『壽三代歌舞伎賑 木挽町芝居前』
これは、松本白鸚さん、松本幸四郎さん、市川染五郎さん三人揃っての襲名披露ですね。
大勢の役者さんが花道から登場して、大変華やかです。

本花道からは、市川左團次さん、中村錦之助さん、尾上松緑さん、市川海老蔵さんら粋な男伊達が。なかでも市川海老蔵さんの名乗りでひときわ大きな拍手が起こりました。私は上階から見ていたのですが、みなさん海老蔵さんを見たくて、前のめる前のめる笑 私の前に座っていた着物を召した上品な女性は、前のめり過ぎて椅子からずり落ちていたぐらいです。こんな光景を客席で見るの初めて笑

上手の仮花道からは、中村時蔵さん、片岡孝太郎さん、中村梅枝さんら美しい女伊達が。時蔵さんと孝太郎さんの間には若くて美し女性が。年齢順で孝太郎さんよりも年上で、こんなに可愛い人は誰はてなマークと思ったら中村雀右衛門さんでした。本当に若々しいですね。

本舞台では、片岡我當さんの存在に一番心を奪われました。舞台で拝見するのは初めてです。ご高齢で体調も芳しくないのかもしれませんが、こうして襲名披露に出演する気概に感動しました!

お化粧をした姿は、とっても上品で仁左衛門さんにそっくりですし、写真で見た13代目仁左衛門さんにもそっくりなんですね。台詞もはっきりおっしゃって、お声を聞くことができて嬉しかったですニコニコ

男伊達と女伊達が両花道で渡り科白を言っている間、本舞台では仁左衛門さんがニコニコ本当に嬉しそうにしている姿が印象的でした照れ昨年12月の京都顔見世でも、仁左衛門さんは襲名口上中ずっとニコニコしていたんです。大幹部の皆さんはみんなこんな感じなのかな?と隣を見ると中村吉右衛門さんは真顔でした笑。舞台の下手に目をやるともう一人ニコニコ顔で嬉しそうな方が!それは片岡我當さんでした!兄弟ってこんなところまで似るんですねラブ



「白鸚」という名跡の由来について

高麗屋の裃は、なぜ成田屋と同じ柿色なのかなぁと思ったら、高麗屋は成田屋の弟子筋にあたるとのことですね。七代目松本幸四郎が九代目市川團十郎の弟子。さらに七代目幸四郎の養父である初代藤間勘右衛門は、七代目市川團十郎の弟子。そのため市川染五郎、市川高麗蔵など「市川」のつく名跡が高麗屋にもあるのですね。詳しくは、ふうせんさんのブログdoremifabianさんのブログに書かれていて勉強になりました。

白鸚という名前の由来は、主筋である七代目市川團十郎の「白猿」になぞらえているそうです。詳しくは、二代目尾上松緑著『松緑芸話』(講談社1989)のP.63-65に書いてありました。



初代白鸚さんが、幸四郎という名跡を子供に譲りたいと思ったけれど、自分用に良い隠居名が思いつかない。松緑さん曰くちょっとこれは・・・というようなおかしな名前だったそうです。困った松緑さんは、たまたまその時掛け軸に掛かっていた「白鸚」という名前を指し、こんなのありますよ?と勧めたら、「コりゃイイやと即決だったそうです笑

襲名する名跡なのでよほど考えて決めたのでしょうと言われるけれど、実は思いつきで決まったそう笑 この掛け軸は七代目幸四郎が書いた掛け軸で、「白鸚」というのは、主筋の七代目團十郎の「白猿」になぞらえたもの。そんなことが、松緑さんの本に書かれていました。



ちなみに、七代目松本幸四郎と同じく九代目市川團十郎の弟子には初代市川猿之助がいます。猿之助の「猿」も七代目團十郎の「白猿」に由来するそうですね。

他にも、九代目團十郎の弟子には、六代目尾上菊五郎や初代中村吉右衛門もいたそうです。七代目團十郎の弟子には、日本舞踊の初代藤間勘右衛門の他に初代花柳壽輔がいたそう(中川右介著『歌舞伎 家と血と藝』pp.218-220, 234)。歌舞伎界における市川團十郎家の重要性を改めて知りました。

松緑さんの本には初代白鸚(八代目幸四郎)の生い立ちについても書かれていました。八代目幸四郎さんは、もともと役者にしようと育てられておらず、本人も役者が嫌いだったため、15歳まで舞台に立つことはなかったそうです。学者か絵描きになるつもりだったそう。しかし関東大震災で学校に通うことが経済的に困難になったので、やむを得ず役者を始めたそうです(P.53, 68, 76)。そっかぁ、関東大震災がなかったら、今回の三代襲名は観られなかったのかも、と思うと不思議な気持ちになりました。

今回の三代襲名は37年ぶりで大変お目出度いですね。松緑さんの本によると37年前の三代襲名はお目出度いだけではない波乱があったことが書かれていました。初代白鸚さんはその時皮膚癌(ベーチェット病)にかかっていてすでに厳しい状況だったそう。治療に専念するべきところ、襲名興行を自分の命と引き換えにしてしまったので、白鸚さんもブスッとしていたそうです。皮膚がんの場所が場所だったため、医者に通うことも嫌い、襲名の3か月後に自宅で亡くなってしまったそうです(pp. 70-71)。三代襲名の裏にもいろいろと波乱の歴史があったのですね。存じませんでした。

 



『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』
この演目は、以前観て楽しめなかったので、今回楽しめるか心配でした。松本幸四郎さんも中村芝翫さんも、型の固有性があるにせよ、なんでこの湿っぽいお芝居を襲名披露でやるのかなぁと思っていました。でも今回はある方のブログを読んだおかげで楽しみ方が少しわかりました。

私が前回楽しめなかった理由はおそらくこの3つ。①登場人物が少なくて、動きが少ない(特に前半)。②常にだれかが泣いていて湿っぽい③弱い者の命が奪われむせび泣き、権力ある者の命が助けられるやるせなさ。

でも今回はふうせんさんのブログを読んでハッとしました。このお芝居は、忠義に囚われ過ぎてはいけない、家族の愛の物語であるというようなことが書かれてたからです。

おそらく前回、私は主従関係や忠義に囚われ過ぎていたんだと思います。そこで、今回はできるだけ主従関係を無視して、人間の物語として見るように努めました。

そこで今回気づいたのは2つ。二組の母-息子の物語であるということと、白毫弥陀六が登場してからが見せ場だということです。このお芝居の楽しみ方はもっと他にあるのでしょうが、今回はこのふたつに気が付きました。

■二組の母息子の物語
藤の方-平敦盛 母息子
相模-小次郎 母息子

藤の方は熊谷次郎直実と妻相模の旧主かつ恩人なので、藤の方と相模には主従関係があります。しかし、そこには主従を超えて幼い少年の死を悼む母息子の物語がありました。敦盛も小次郎も同じ16歳。幼い少年の初陣を心配する母心は、相模も藤の方も同じです。たとえ身分の違う敵同士であっても。



■白毫弥陀六が登場してからが面白い
前回観た時は前半で疲れてしまい、後半は集中力が切れていたのですが、このお芝居は白毫弥陀六が登場してからが圧倒的に面白いんですね。そう気づかせてくれた市川左團次さんのお芝居に感謝です!敵味方が殺し合う殺伐とした状況においても、人間の情がそれを上回る。それを左團次さんの、怨みを抱きつつも、人間として懐の大きなお芝居で感じさせてくださいました。

平家方の弥陀六は、かつての戦乱で幼き源義経を救ったのでした。しかしそれが仇となり、いまや平家は追い詰められています。それを恨み悔しがる弥陀六。

しかしながら、義経が弥陀六に与えた鎧櫃のなかには、平敦盛が助けられて入れられています。敵味方の戦いのなかでも恩と情を大切にする両者。そんなところが見どころなのかなと思いました。

今回、私が感じたのはここまで。このお芝居の主人公である熊谷直実の物語として理解するには及びませんでした。次回観る時には、もう一歩踏み込んだ理解ができるといいなぁ。一度見て苦手と感じた演目でも、何度も観ることによって少しずつ面白みを味わえるようになりたいです。

 

ちなみに、四天王には中村歌昇さん、中村萬太郎さん、坂東巳之助さん、中村隼人さんらが出ていました。台詞や動きは少ないのですが、舞台に若手が座っているだけで華やぎますね。

 





3月の観劇
3月は歌舞伎座と市川海老蔵さんの『源氏物語』を観に行く予定です。歌舞伎座夜の部は、今月に続き片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さんの共演が楽しみです♪そして昼の部は大好きな『男女道成寺』。『男女道成寺』は2016年の團菊祭で菊之助さんと海老蔵さんのを観て衝撃でした!!眩しすぎる美男美女の舞キラキラこの世にこんな美しい踊りがあるものかと♡夢のような1時間でした。時が経つにつれて、また観たいまた観たいと、ふつふつと思いが募っていたのでした。今回は雀右衛門さんと松緑さんですね。音楽や詞章も好きなので、昼はこれが楽しみです。



『源氏物語』は2016年4月に京都劇場で観ました。海老蔵さんにぴったりの愛と憂愁の世界キラキラ明石の君(市川ぼたんさん)と明石の姫君(市川福之助君)の別れに涙しました(そのときのブログ)。今回はプロジェクションマッピングを使った新たな演出があるそうで、前回とどう違うのか楽しみです♪朧月夜の君との艶っぽいシーンは、そのまま残っているといいな♡光の君は多くの女性との出会いと別れがあるんです。今回は麻央さんのことと重なって涙するだろうなぁえーん

 

歌舞伎美人(http://www.kabuki-bito.jp/news/4383)より

 

歌舞伎美人に載っている海老蔵さんのインタビューによると「外見は光、しかし、その中には闇がある。闇を表現することによって、より、光の君の光が見えるのではないか」「歴史の重みを表現せずとも、自然とその時代にタイムスリップしたかのような空気感に浸れる」とのことで、楽しみです音譜