歌舞伎座で行われている二月大歌舞伎昼の部に行ってきました。

 

二代目松本白鸚、十代目松本幸四郎、八代目市川染五郎襲名披露興行の2か月目です。演目は『春駒祝高麗』『一條大蔵譚『暫』『井伊大老』。曾我物の舞踊あり、祝祭劇の歌舞伎十八番ありで楽しめましたニコニコ

 

 

『春駒祝高麗』

『寿曾我対面』の舞踊バージョンですね。あらすじは『対面』とほとんど同じですが、曾我十郎と曾我五郎が春駒売りに扮して工藤佑経に対面します。登場人物は『対面』よりも少なく主要な数人ですが、所作立てなのでその分個々人の踊りが楽しめます音譜15分と短いながら、『対面』と同じようなお目出度い雰囲気も味わえました。

 

幕が開くと、美しい遊女三人組、大磯の虎(中村梅枝さん)、化粧坂少将(中村米吉さん)、喜瀬川亀鶴(中村梅丸さん)、そして工藤佑経(中村梅玉さん)が、大ゼリからせり上がります。幕開きから若手女形の3人がとっても美しくて華やかキラキラ特に中村米吉さんと中村梅丸さんは、おめめくりくりで本当の女の子より可愛いラブ中村梅枝さんは可愛いと言うよりはお姉さんとしての品格がありますね。

 

そこに、春駒売りに扮した曾我十郎(中村錦之助さん)、と曾我五郎(中村芝翫さん)が花道から登場します。春駒売りというのは、お正月に目出度い口上を言いながら馬の人形を持って歌ったり踊ったりした大道芸人。中村錦之助さんは十郎のニンにぴったり。大磯の虎(梅枝さん)の恋人というのも違和感ありません。五郎の中村芝翫さんは、血気盛んな青年というにはちょっと貫禄があり過ぎるなあと思いましたが、襲名興行を寿ぐ配役なのでしょうね。

 

最後は『対面』と同じく、工藤佑経から富士の巻狩りへの通行手形を渡されて幕となります。

 

 

『一條大蔵譚』

初代吉右衛門の当たり役で、初代吉右衛門の血を引く新幸四郎さんの襲名披露狂言です。この演目は2015年12月に放送された片岡仁左衛門さんの情熱大陸でちらっと見ましたが、実際に見るのは初めてです。情熱大陸では、仁左衛門さんの上品な公家姿がとっても愛らしく、ぶっかえってからは凄味がありました。

 

義太夫はダンディーな竹本葵太夫さん。松本幸四郎さんの大蔵長成は、阿呆を演じている時のたれ目のお化粧が可愛い。長成の登場では仕丁や侍女が、わんさかわんさか出てきて驚きました。江戸時代は京都観光が盛んで、特に公家たちが出てくる行列を見るのが一つの名物だったそうです。江戸の庶民たちはこのお芝居を通して京都観光も疑似体験していたらしいですね。

 

大蔵長成の言動は、予想以上にぶっとんでいてビックリしましたびっくり愛嬌のある作り阿呆というよりは、結構ヤバめのいっちゃってる人というのでしょうか・・・滝汗こんな人物が主人公の演目があるんですね・・・!?吉岡鬼次郎は尾上松緑さん。お京は片岡孝太郎さん。手堅いお芝居がいいですね。このしっかり者夫婦が狂言廻し的に物語を展開していきます。

 

常盤御前は中村時蔵さん。中村時蔵さんは松本白鸚さんのはとこなので、親戚なんですね。楊弓(ようきゅう)に興じるように見えて、実は的の下に平清盛の絵を掛けて調伏(ちょうぶく・呪う)していたという展開が面白い。

 

大蔵長成は、最後はぶっかえり、源氏再興への思いを語ります。虚と実の演じ分けが鮮やか、というよりは虚と実がない混ぜになった、ぬるぬるとつかみどころのない人なのかな、という印象を持ちました。大蔵長成はそうして時勢を待っていたのでしょうかはてなマーク

 

衣装や演出など仁左衛門さんの大蔵長成とは違う部分がいくつかありました。例えば、2015年10月の時は大蔵長成は御簾内から勘解由を斬りますが、今回は衝立の後ろにいる勘解由を斬りつけていました。いろいろなパターンがあるのでしょうね。今度は違う人の大蔵長成も観てみたいです。そしていつか仁左衛門さんのも観てみたいなあ音譜

 

 

歌舞伎十八番内『暫』

待ってましたぁ~ビックリマークザ歌舞伎!ザ祝祭劇!ザ勧善懲悪!ザ荒唐無稽!最っ高に楽しかったですビックリマークビックリマーク歌舞伎を観始めた時から『助六』と並んで、ずっと観たいと思っていた演目!ついに願いが叶って嬉しいです照れやはり何度も演じ重ねられているお家芸は洗練されていて、隙がありませんね。

 

鎌倉鶴岡八幡宮の社頭。大薩摩の演奏に胸が高鳴ります。書割が開くと舞台にずらーーっと大勢の役者さんが並んでいて大変華やかですキラキラ善人側は、大谷友右衛門さんをはじめ、尾上右近さん、坂東亀蔵さん、大谷廣松さん、市村家橘さん、市川齊入さんら。あとから坂東彦三郎さんも登場します。好きな役者さんばかりで嬉しい。さらにその脇には侍女たちも。片岡千壽さん、市川右若さんら。一番下手には市川福太郎さんもいました。この侍女たちが脱いだ草履を回収しに、小さい黒衣さんが出てきます。あれは市川福丸君だったのかなはてなマーク

 

(↑2016年に博多座で撮影した「暫」の模型)

 

「しばらく~~」「しばらく~~」「しばらく~~」揚幕から聞こえる鎌倉権五郎(ごんごろう)の大音声に胸がバクバク!花道に登場する市川海老蔵さんの鎌倉権五郎はすごい迫力キラキラ歌舞伎座が小さく感じました。周りにいる役者の1.5倍ぐらいの大きさ!ほかの役者さんが子供に見えるぐらいです。江戸時代の人が考えた、このスーパーヒーローのスケール感はすごいなぁ。

 

問われて名乗る海老蔵さんのツラネも聞きどころです。三百余年、市川の柿色の素襖に三升の・・・と先祖由来の文句をちりばめた自己紹介を言い、高麗屋襲名の祝言も述べます。このツラネは毎回工夫を凝らして違うそうです。茶後見は市川福之助君。可愛かった。

 

悪党のボス清原武衡は市川左團次さん。さすがの貫目と凄味がありますね。鹿島入道震斎は中村鴈治郎さん。道化役が上手くて面白いです。照葉は片岡孝太郎さん。「あら、成田屋の海老様じゃありませんか」「揚幕の方へもう少し」というくだりは、お約束だとはわかっていてもおかしくて大笑いです爆  笑

 

 

奴たちが立ち向かうところは、海老蔵さんの「ふぅ~」という息に吹かれて凧のように飛んでいくところが面白い笑

 

赤ッ面の腹出しは、市川右團次さん、片岡市蔵さん、市川男女蔵さん、市川九團次さん、市川弘太郎さん。このなかでは、片岡市蔵さんと市川男女蔵さんの声と所作が力強かったです。「やっとことっちゃあうんとこな」の化粧声とともに力足を踏む姿も決まります。市川男女蔵さんは、去年もいいなぁと思いましたが、今年もたくさん観たいです。成田五郎は市川右團次さん、立派な隈取に反してお声が高く細いのが残念ですが、左團次・右團次の両者揃った舞台ですね。

 

本舞台に来てからは様式美のオンパレード。特に元禄見得がカッコイイビックリマーク大太刀を持った見得もカッコいいビックリマーク鼻筋の通ったお顔に筋隈、五本の車鬢がよく映えます。市川海老蔵さんの持っている圧倒的なハレのパワー、豪快さ、豊かな声量、おおらかさ、ユーモアが存分に発揮されていました。


それにしても、鎌倉権五郎の衣装が60-70kgあるというのも納得です。花道に座っているだけで本当に大きい! 市川團十郎さんの『團十郎の歌舞伎案内』(pp.203-204)によると、重さの原因は衣装の染料と仁王襷の正絹の束、袖の突っ張りにあるそうです。柿色はいくつもの染料を重ねて色を出すそうなので、新しい衣装ほど重いそう。以前衣装を染め直したが重くて動けなかったので、古い衣装で出たこともあるのだとか。衣装の着付けのバランスが悪いと本当にしんどいそうです。

 

 

竹の張りが入った両袖は、花道で座っているときに力を入れていないと開いてしまうそう。すごいなー。そして30cmの重い継ぎ足を履いていますからねぇ。相当に頑丈な身体でないと、務まりません。普通の人がやったら、おそらく花道へ出ようと継ぎ足を持ち上げた時点で両足大腿四頭筋の肉離れを起こし、張りの入った袖を持ち上げた時点で上腕二頭筋の肉離れを起こして鳥屋で転げて終わるでしょう。海老蔵さんは、その扮装で勇壮な立ち廻りをし、最後六方で引っ込むのですから驚きですびっくりイヤホンガイドでも、普段から努力をして体を鍛えていないとこの役は務まらないと言っていました。日ごろのストイックな鍛錬がいかに舞台のため、歌舞伎のためなのかがわかります。

 

華やかで目出度くてザ歌舞伎キラキラな演目なのでもっと頻繁に見たいですけれど、これをつとめる役者の犠牲も相当大きいものと思います。そんなに頻繁に掛けられる演目ではないでしょうから、観られるときにたくさん見ておかなくちゃニコニコ

 

 

『井伊大老』

この演目は、幕開きから最後までずーーーーっと暗いんです・・・。客席は真っ暗で、舞台上も薄明かり。登場人物も動きが無くてずっと座り語り・・・自然と瞼が重くなってしまいますにやり

 

おめでたい襲名披露興行で、なぜ暗い演目をやるのかなはてなマークと思いましたが、八代目幸四郎がたくさん務めた役だそうですね。いずれ新幸四郎さんが演じていくことを期待してのことなのでしょう。

 

井伊大老は中村吉右衛門さん。中村雀右衛門さんのお静の方は、少女のよう嫉妬をするところが可愛らしかったです。観ているうちに気が付いたのですが、このお芝居には誰も花形・若手が登場しないんですね・・・。

 

途中で両隣の方々が寝ているなぁと思ったら、いつの間にやら私もウトウト・・・ショボーン すみません、このお芝居の見どころや、面白さが分からずに幕が閉まってしまいました。あとで調べたら、井伊直弼とお静の方の情愛がみどころ、とのことです。このお芝居を楽しむには、まだまだ私の経験が足りないようです。

 

それにしても江戸時代の人たちはすごいなぁ。当時は今みたいに照明技術が発達していなかったので、ほぼすべての演目を『井伊大老』の暗さで見ていたようなものですよね・・・。

 

四つ観た演目のなかでは『暫』が一番楽しかったです音譜次は『春駒祝高麗』。いろいろある演目のなかでも、やはり華やかで綺麗で、わかりやすくて祝祭性の強い演目が好きなのかもしれません。