七月大歌舞伎、初日夜の部に行ってきました。

全員歌舞伎!出演者全員が一丸となった、熱気にあふれる素晴らしいお芝居でした。

 

 

市川海老蔵さんは、新歌舞伎座史上最年少の座頭!おめでとうございます。そして昼夜通して7つの役を演じ、そのうち5つが初役という大奮闘ぶりです。

 

「秋葉権現廻船語 駄右衛門花御所異聞」

五代目市川海老蔵(七代目市川團十郎)が演じた、成田屋にゆかりのある演目の復活上演です。遠州月本家を足掛かりに天下を取ろうとする日本駄右衛門の野望があらすじのベースにあります。海老蔵さんは、将軍家への結納品である月本家の家宝古今集を盗み、将軍家を揺るがそうとする日本駄右衛門と、家宝を取り戻そうとする月本家家来の玉島幸兵衛という相対する役を早替りで演じます。さらに日本駄右衛門を降伏させようとする秋葉権現の三役を演じ大活躍でした。もちろん勸玄君の史上最年少宙乗りが一番感動しました。しかし、それ以外にもたくさん見どころがある楽しいお芝居です。ストーリーは主線伏線が絡み合って面白く、それぞれの役者が主役となって見せ場があります。若手を抜擢してくれているのも嬉しかったです。

 

↑『歌舞伎台帳集成第十五巻』P.579より

 

発端

発端でまず度肝を抜かれました。市川海老蔵さんは船に乗って舞台上手の揚幕から登場。古今集をめぐって討ち合う玉島幸兵衛と日本駄右衛門を早替りで演じるのですが、いったいいつ変わっているのか全然わからない!しかもほんのちょっとの時間で何度も完璧に変わってる!一番驚いたのは舞台で闘っていた玉島幸兵衛が次の瞬間、花道にある船の上から駄右衛門となって登場した時です。度肝を抜かれました。客席からは「え~!?」「ひぇー」という驚きの声が溢れました。

 

序幕 遠州月本館の場

月本館の場では、月本始之助を演じる坂東巳之助さん、妻花月の坂東新悟さん、お才の中村児太郎さんという若手の活躍が嬉しかったです。巳之助さん+新悟さんという善人側と、お家を乗っ取ろうとする分家の悪人市川男女蔵さん(月本祐明)+側室お才の中村児太郎さんの対比的なお芝居が面白い。男女蔵さんは憎々しさが十分。声がますます左團次さんにそっくりでびっくりしました。児太郎さんは側室の時は、気品に満ち、駄右衛門の手下という本性を現してからは、強さや小悪さのある女性を演じ、抜擢に大健闘で応えていました。

 

将軍からの使いと偽って登場する市川海老蔵さん扮する、大舘亘理。正体が日本駄右衛門とバレたあとも、まったくたじろがず開き直ります。長袴を肩に担いでの様式美に満ちた立ち廻りはとても大らか。大敵としての大きさが、石川五右衛門の時よりもさらに磨き掛かっているように感じました。

 

 

二幕目 大井川の場

古今集の紛失を責められ逃げ落ちる坂東巳之助さん(月本始之助)と、坂東新悟さん(花月)の道行の場面です。巳之助さんはスラッとした清廉な若殿で、新悟さんは上品な色気のある傾城。哀愁を帯びた若い男女の連れ舞が美しかったです。「ご両人!」と大向こうが掛かる通り、お似合いの男女でした。

 

お才茶屋の場

この場面は六部(行脚僧)に扮した玉島幸兵衛(市川海老蔵さん)と生き別れた女房お才(中村児太郎さん)の再会、そして女房の死の場面なんです。情感たっぷりの一場で泣きました。海老蔵さんがブログで、女房とのやり取りの台詞で麻央さんを思い出し、頭に入らないと言っていたのはこの場面ですね。

久しぶりに再会し喜ぶ女房お才。さっそく幸兵衛に風呂を勧めます。再会を楽しみに縫っていた新しい浴衣があると幸兵衛に言うと「持つべきものは女房じゃなぁ」と海老蔵さんの台詞。・・・涙。

 

白い浴衣に着替えた風呂上がりの幸兵衛は、二枚目の色男でめっちゃカッコ良かったです。幸兵衛は傾城だったお才に入れ揚げて御用金に手を付けたため、月本家を勘当されたのでした。和事っぽい、ちょっとなよっとした柔らかみと色気のある海老蔵さんの二枚目っぷりが見ものです。お才の兄(市川九團次さん)とお小姓(大谷廣松さん)に不意打ちをされる場面でさえ海老蔵さんは美しかった。斬り付けられるなかで色気と美しさを放っていたのは驚きです。そして女房お才が亡くなるくだりに涙。瀕死のお才を海老蔵さんが強く強く抱きかかえ、「来世でも必ず夫婦になろう」と叫ぶと、お才が息を引き取ります。もう、ただただ涙です。

 

 

秋葉権現の場

ここはお待ちかね、堀越勸玄君の登場です!この場では海老蔵さんが三役目の秋葉権現となって神々しく現れます。「白虎よ、来たれ~!」というと、揚幕から勸玄君の「はーっ!」という威勢の良い声が。このいじらしい声を聞いただけでボロボロに泣きました。見ると両隣の方もボロボロに。手をグーにして、狐の姿で飛んでくる勸玄くん。花道七三までくると、左足を力強く踏み、両手を上に上げて決まります。力強い綺麗な所作です。あちこちから「成田屋ー!」と大向うの嵐。「勸玄白虎、御前に」という台詞も良く響く大きな声でした。

 

ここの場面では、市川新十郎さんや、市川福太郎さんらの天狗の勇ましい踊りもカッコ良かったです。そして、スッポンから海老蔵さんと勸玄くんが登場し宙乗りに。海老蔵さんが空中で見得を切って舞台を睨むと勸玄君も左を見ていてました。そして途中まで来ると客席に誰かを見つけたのか、勸玄くんが嬉しそうにお手振りをしてくれました。麗禾ちゃんに振っていたのでしょうか。その後は両手でお手振りもしてくれ客席は大盛り上がりです。すごい余裕と度胸!ここぞというときに期待以上のことをしてくれるのはさすが成田屋の御曹司です。将来が楽しみ!客席は「きゃー」とも「わー」ともいうような大歓声とともに万雷の拍手です。その後幕間となっても、熱い拍手はひと際大きくなりました。しばらく誰も席を立たず、ひたすら拍手が鳴り響きました。こんな雰囲気を経験したのも初めて。勸玄くん、客席全員に魔法をかけてくれましたね。

 

 

大詰

大詰では、比叡山の僧侶に扮した日本駄右衛門が月本家から盗んだ古今集と三尺棒をもって、将軍家に乗り込みます。将軍東山義政(市川斎入さん)が遊びに興じるのは、壮絶な戦いの前の息抜きの場面ですね。その後、廻り舞台を効果的に使った写実的な立廻りが迫力満点!三尺棒の妖術によって生き返った玉島逸当(市川中車さん)に対峙するのは、弟の玉島幸兵衛(海老蔵さん)。幸兵衛が討たれそうになったその時、早替りで神秋葉権現(海老蔵さん)が現れビックリ!最後は、秋葉権現の力で火は伏せられ、三尺棒の妖術も解け、御騒動も解決し、始之助の婚儀も整います。その祝儀として駄右衛門は見逃されるという、歌舞伎らしい大変大らかな終わり方!「大当たり!」という大向うもかかり、拍手喝采。

 

その他、海老蔵さんに討ちかかる市川九團次さんの悪っぽい役作りも良かったですし、大谷廣松さんのお小姓姿は中性的な美青年でした。もっと長くみたかった。市川笑三郎さんは女形でも貫禄があり、場が引き締まりました。

 

天下を狙う日本駄右衛門の活躍を主線とした物語に、月本家御家騒動の伏線、幸兵衛お才夫妻の伏線、始之助と花月夫妻の伏線など様々な物語が絡み合い、壮大なお芝居でした。これまで、日本駄右衛門と言えば「白波五人男」のイメージしかありませんでした。この作品は駄右衛門の魅力的な人物像を描いたもので、今後歌舞伎座のレパートリーに加えるべき、大変優れた復活狂言だと思います。海老蔵さんの日本駄右衛門は天下を狙うにふさわしい迫力と大きさ。荒事の日本駄右衛門に対し、和事風の玉島幸兵衛、そして神々しい秋葉権現の三役を、見事に早替りで演じ切りました。

 

そしてなんといっても客席と舞台の一体感が素晴らしかった。完売で2000人近くの方がいらっしゃったのに、心は一つの感じがしました。みなさん麻央さんの愛に包まれていたのでしょうね。麻央さんもご家族のご活躍を観てさぞ喜んでいらっしゃると思います。私も、海老蔵さんと勸玄君のもっといろいろなお芝居を観たいと未来への希望が湧いてきました。

 

その希望を強くしてくれたのは幕間の出来事。大間を快活に走り回る麗禾ちゃんの姿が。「ばぁば、勸玄やったねー!」とばぁばのもとに駆け付け腕に絡む麗禾ちゃん。とっても自信に満ちて、キラキラ輝いていました。勸玄君のことを誇らしげに思う、嬉しそうな表情でした。このご家族は大丈夫です。家族としての絆をさらに強め、これからどんな困難なことでも乗り越えていかれるでしょう。麻耶さんや麻央さんのお母さんの姿もちらっと拝見しましたし、大間では希実子さん、ぼたんさんや紅梅さんが一丸となって対応にあたっておられました。劇場内は、勸玄くんが大役を果たした目出度さ、喜ばしさ、ハレの空気でいっぱいでした。私もこれからもずっと成田屋さんを応援し続けたい。未来への希望に満ちた心持ちに変わりました。

 

 

夜の部は、あと2回取ってあるので、海老蔵さんと勸玄君の英姿を見守りたいです。夜の部のチケットは完売していますが幕見で見ることが出来ます。急に見たくなったら、幕見に行くかもしれません。

 

そして今週は昼の部も観に行きます。海老蔵さんは出づっぱりでさぞかし大変でしょうが、観客としてはたくさんみることができるので、とてもありがたいです。千穐楽まで、みなさん無事につとめられますようお祈りしています。