2022年の10月くらいから、娘のターリア(10歳)のクラスにウクライナから難民として編入してきた女の子がいた。
イギリスでは、一般市民が空き家や空いている部屋を無料でウクライナ人に提供するという政策をとっている。
この子もこうしてイギリスに移住したウクライナ人だった。
英語があまり話せないようだったが、聞くところによるとロシア語が話せて、母子家庭らしかった。
何か手伝えることはないかなと思い、数ヵ月後、職場のラトビア人に頼んでロシア語で自己紹介をそえて私の連絡先など紙に書いてもらい、娘が学校に持っていった。
数日すると、ウクライナ人のクラスメートの母親からメッセージが英語で届いた。
「私の家でお茶をしませんか?」という内容。
そして後日、学校のあと彼女のうちに娘と一緒に遊びにいった。
大きく素敵なおうちが立ち並ぶストリートの住所。
行ってみると、道路に面したおうちの庭の一角にある離れで暮らしていた。
ウクライナ人のママは、小柄できれいなアラフィフ(全然そう見えないけど)。
彼女は「私英語あまり得意じゃないの。」と言いつつも普通に会話が成り立った。
世間話をするつもりで来たが、彼女はウクライナ情勢や戦争のことについて語りたいらしく私は始終聞き手に回った。
「ロシアが~」となると思ったがそうではなかった。ニュースとはまた違った情報を教えてくれた。
まとめると、
彼女は今はロシア領になっているウクライナの南部出身。
2014年にロシアがクリミアを占領したあたりから、彼女のいる地域では爆弾が投下されることもしばしばあった。でもロシア軍がそうしているのか、ウクライナ軍がしていることなのか誰もはっきりとはわからなかった。
こういう事もあって、2022年にロシアがウクライナに侵攻した時も「また爆弾の音か。」といつもの事だと思って本当に戦争が始まったとは思わなかったらしい
彼女の住む地域は、ロシア語が母国語(もちろんウクライナ語も学校で習うが)、ロシア系の住民が多い。彼女の母もロシア人。
ウクライナ政府は近年ウクライナ国内のロシア文化を徹底的に否定、ロシアの祝日の際、祝っていたロシア系ウクライナ人を射殺するなどという事件もあったらしい。だんだんとロシア系住民が住みにくい国になってきていた。でも海外メディアは特に取り上げもしない。
こういう背景もあって、彼女のいる地域ではウクライナ政府を信用していない人も多数。
「ロシアもロシアだけど、ウクライナ政府もひどいのよ。」という彼女。
戦争が始まってからは2か月間地下に避難していたらしい。
そこでラジオを聞くと、ロシア、ウクライナ政府どちらもプロパガンダを流していたらしい。
ウクライナ兵士からは「ロシアに加担するスパイ」みたいに扱われた人も大勢いた。
結局ロシアが占領した時には、ロシア兵は皆にお水を配ったりしていたそう。ロシア軍の印象は悪くはなかったらしい。
彼女は、オーストリアに逃げたが、知人の何人かはなんとロシアに避難したらしい。
そのほうが安全だと思えたようだ。
彼女と子供たちは、オーストリアで数か月過ごしたが、ドイツ語が喋れないので仕事ができなかった。
イギリス政府がウクライナ難民を受け入れているという情報を得て、さっそく手続きをした。
イギリスに来てからは、ハウスキーピングの仕事をホテルでしていたが、キッチンの手伝いも頼まれるようになり、仕事が楽しくなってきたらしい。
「話ができてすっきりしたー。報道されている事と私が経験した事は本当に違うのよ。」
そして
「私は別にロシア政府もいいと思わないし、ウクライナ政府だって狂ってると思っている。」
と言う彼女。
これを機に彼女のうちに娘とともに何度か遊びに行った。
一緒にロンドンでBBCの特別展示なども見たりした。
遊びに行くといつもお茶と大量の食べ物を出してくれる
料理が好きな彼女はボルシチの作り方も教えてくれた。
ウクライナ人のコミュニティーも町に存在するが、子供たちの学校ではほかにウクライナ人ファミリーがいない。
彼女の都合がつかない時は、彼女の子供たちの送り迎えも私が手伝ったりした。
私の娘ターリアと同じクラスの彼女の娘は、町でばったり会うと必ず私と会話をしてくれる。
だんだんと長く喋れるようになってきて彼女も嬉しそう
大変な思いをしてイギリスまで来た彼女の娘ちゃん。
異国の地で慣れるのにも大変。
母親と違い、英語が全く分からなかった彼女。
なのに笑顔でいることができるのは、彼女のママと彼女自身の努力のおかげなんだろうなと思う。
息子が生まれてからはバタバタしていて、私は彼女のうちに遊びに行けていない。
クリスマスのあたりには、遠いのにわざわざ自転車で家族で遊びに来てくれた。
そしてクリスマスと息子へのプレゼントをたくさんもらった私
今年は一度故郷に帰ろうかなと言っている彼女。
「え、ロシア領になっているけど帰れるの?」と聞く私に、
「ロシアはウクライナ人を受け入れているから、ロシア経由で地元に帰れる。ロシアが復興作業をしていて、町は修復されつつあるからそれが見たい。」と言う彼女。
しかし情勢は安定していないから、帰国してまた暮らすのは難しい。
それでも紛争地に遊びに(?)行けるなんて、なんとも不思議な世界としか言いようがない