七月の歌舞伎座といえば、泉鏡花作品。
5年前のさよなら公演以来となります。

泉鏡花作品といえば、玉三郎さん。
天守物語の台詞にもよくでてくる表現ですが、玉三郎さんから発せられるお声、言葉は、とても涼やかです。
鏡花作品には、「婦系図」などの花柳界ものと異界ものがありますが、異界もの、この世のものではないものを面白く表現されるのは、玉三郎さんの美しい魅力だと思います。
相手役を勤められる海老蔵さんも、怪しい世界の中に見事に溶け込んでいらっしゃいます。涼やかなお役が、お似合いです。


物語の前半は、白鷺城の天守の異界の人々?の奇妙な暮らしぶりが、面白く描かれています。
白露で秋草を釣る場面、独特な言葉の楽しい会話で、天守の異界へ誘ってくれます。

五百里離れた亀ヶ城から、手鞠をつきに亀姫一行が訪ねてきます。
亀姫は尾上右近さん。奇妙なお土産を持ってきますが、富姫は大喜びします。

今まで拝見した亀姫は、春猿さん、勘太郎さん(現勘九郎さん)でした。亀姫はお客さまなので、いろいろな亀姫があって、良いような気がします。
右近さんは、すっかり異界の人になっていて、富姫とそれはそれは仲良しで、引けを取らない異界人ぶりで、良い雰囲気でした。

亀姫に仕える朱の盤坊は、猿弥さん。愛嬌のある明るい朱の盤坊で、猿弥さんが初めて演じられるとは思えないほどでした。海老蔵さんのブログに常連さんで、毎日お顔を拝見させていただいていましたが、この日はお口が小さめのお化粧でした。大きければ良いわけではないけれど、ちょっと物足りなかったりして。。
天守で、踊ったり、侍女たちと楽しそうに過ごしている場面は、とても和やかでした。
「ぼろろん、ぼろろん」
あまり、強すぎず、力んでいない感じが良かったです。

お待ちかねの舌長姥の門之助さん。
不気味ですが、にこやか、嬉しそうにいて、そのまま寝てしまいそうなおもしろいお婆さん。舌長で、ペロペロするところは、双眼鏡でしっかり観察させていただきました。
周りで見ている人たちも、お婆さんを温かく見守っているようでした。

後半、
下界から、天守に鷹を探しに上がってくる図書之助。
俗界の他の者とは違う、涼やかな人物。富姫とお互いが、惹かれ合っていく様子、会話は、やはり涼やかで、美しいお二人でした。

玉三郎さんの富姫は、どの場面を切り取っても、形が美しいです。気高く、涼やかですが、温かい美しい心を持っています。


下界では、切腹だとか、主従関係だとか、謀反人だとか騒いでいます。
富姫が、鷹には鷹の世界がある。と言う台詞に、人間が勝手に決まりを作って、他のものまで我が物に支配しようとする愚かさが込められているように感じました。

異界のものたちは、平和に過ごしているのに。
下界から図書之助を追って上がって来た、武田の家臣たちが、天守を襲い、獅子頭の眼を傷つけてしまいました。富姫と図書之助は光を奪われてしまいます。

どこからともなく登場する、獅子頭を作った桃六は我當さん。
獅子の眼を直し、再び富姫と図書之助に光を与えてくれました。
濁りのない、透明な二人は救われました。

戦国の世でも胡蝶が舞う、撫子も桔梗も咲く。
朗々と語る桃六は、俗界でも異界でもなく、両界の間に居る人物のようでした。




富姫は玉三郎さんを引き継いで、演じられる方がいらっしゃるでしょうか。
涼やかな図書之助は、海老蔵さんの他にいらっしゃるのかしら。
私が今まで、観劇した天守物語も、もちろん、玉三郎さんの富姫で、図書之助は海老蔵さんでした。
海老蔵さんは「海神別荘」「高野聖」でも演じられていますので、鏡花作品の異界ものにはピッタリのような気がします。海老蔵さんはブログで、図書之助を演じられるのは最後とほのめかしていらっしゃいますし、玉三郎さんの富姫も最後なのでしょうか。この公演が最後なのなら、本当に寂しくなってしまいます。
泉鏡花作品のうちで、天守物語は上演回数が多いと思いますが、歌舞伎座で上演をぜひ続けていただきたい作品の一つだと思います。
今月の天守物語では、カーテンコールがありました。
カーテンコールのある作品は珍しくなくなりましたが、最後のご挨拶なのかなと思ったら、寂しいカーテンコールと感じました。
七月の歌舞伎座では、玉三郎さんで、鏡花作品の上演を続けていただきたいです。