〈園部邸広間の場〉

園部邸奥方、梅の方と籬(まがき)が薄雪姫を気遣っています。
「このまま、六波羅殿の手に渡っては、殺されるかもしれない」
と、兵衛は妻平と籬をお供に、薄雪姫を「密かに身を落とす所存」。

薄雪姫は自分だけ助かる訳にはいかないと言いますが、
兵衛は舅の意見に背くなら、「親子の縁切る」と。
梅の方も同様に言うので、
「はい、落ちます。嫁じゃとおっしゃってくださりませ。」
薄雪姫は心を遺しながら、出ていきました。

伊賀守の使者(松江さん)がやって来て、
伊賀守が影の刀で左衛門の首を討った、との口上を伝え、
刀を持参し、「姫の首討ち待て」。
二人の首を六波羅に持って行くことになりました。

刀の切っ先には生々しく血糊が付いています。
血が付いている部分に注目です。

梅の方は、伊賀守を恨みます。
「婿は子じゃないかいなあ。これが左衛門の血か、、」
梅の方は菊之助さん。
武家の奥方らしく、品格があって、落ち着いたお声です。

左衛門は薄雪姫の後を追おうとしますが、
血糊のついた刀をじっと見て、口上を思い返し、
何かを感じ取りました。
「咎は同罪、、、同罪とは、、」
伊賀守の来訪が告げられると、
梅の方へ、「恨み、必ず言いやるな」と言い残して、
決心して、刀を持って奥へ下がりました。


舞台が廻って、〈園部邸奥書院合腹の場〉

花道から、伊賀守が首桶を持って来ました。
前傾で、歩き方がよろよろとゆっくりしています。
悲痛な表情です。
部屋に上がるのもやっとのことです。

迎えた梅の方は、伊賀守の顔を見ようともしません。
伊賀守が「左衛門を討ったからか」とたずねても、
「物言うまい、何もおたずね申さぬ」とこらえています。

花道から、頬被りをした左衛門が両親と薄雪姫に
一目会いたいとやって来ました。
なよっとした、若侍風です。
伊賀守は梅の方に、「万が一見えたら、狐か狸か幽霊だ」と言い、
左衛門には、「契約に背くは人間にはあるまい、ただしは幽霊か!
無くなれぇー!消えろー」と追い払いました。

奥から、首桶を持った兵衛が現れて、
「ご口上に仰せられたように、只今支度いたした。」
「娘が首を討たれたか。」「討たいでか」
「その首見せなされ」
両者が同時に首桶を開けると、両方とも願書が入っているだけです。
我が子を逃がした代わりに、自分たちの命を差し出すのでした。

兵衛は陰腹を斬っていました。
伊賀守が陰腹を斬ったことを、
口上と持参された刀を見て、察していました。

子を思う親心を確認し合いました。
二人とも、痛みと苦しさに耐えています。

「今日までの心苦しさ。笑いというものをとんと忘れた。
 伊賀殿さもあらん。」
「かかる子を落とし、かように覚悟決めたる今の心安さ。」
「六波羅殿への忠心。門出んで。」
「いざ一笑い、笑おうまいか。」
「それよかろう。奥、そちも笑え。」

梅の方は、泣きながら、無理に笑います。
子供たちの罪が晴れるまで、生きていてほしいとの
想いが込められています。
兵衛は、振り絞るように笑います。
子を助けた安堵と、大膳への憎しみがこもっているようです。
伊賀守も、いろいろな思いが渦巻いているような、
こんな目に遭わなければならないのか、無念である、
というような笑いでした。

笑いの中に、三人それぞれ、思いの深さが感じられました。

伊賀守と兵衛は、陰腹を斬ったまま、
首桶を持って六波羅へ向かいました。