さて、10月はノーベル賞が話題になっていたので、今回は発明にまつわる短編で行きたいと思います。テーマは男の……いや人類の永遠の夢である『透視メガネ』です! 下書きはまだ完成しておりませんが、思いの外長くなってしまったので、とりあえず続きを書きながら数回に分けてアップします。
【Year01】
『彼』がその計画を親友の『私』に打ち明けたのは半年ほど前のことだった。
「私は『彼女』のすべてが見たいのだ……」
酒の席での発言ではあるものの、その声にはしっかりとした意思が宿っていたし、なにより目には確かな決意がうかがえた。周りには酔客が放つ奇声と雑談による騒音が渦巻いていたのに、『彼』のバリトンの声はかき消されることなく、『私』の気持ちを揺さぶったのだ。
練られた計画はすでに基礎研究がほぼ完成しており、あとはスポンサー探しと機材を調達するだけだった。だがいくら有能な物理学者の画期的な研究とは言え、着衣を透視するなどという研究はあまりにも……そう、あまりにもバカバカしく、スポンサー選びは難航を極めた。しかも透視する相手が、メディアを賑わせる人気若手女優となれば尚更だ。信憑性の部分でも、世間への体面や体裁の部分でも二の足を踏む者が多く、計画は早くも黄信号が点る。それでも『彼』は信念を宿した目で『私』に告げた。
「私は『彼女』のすべてが見たいのだ……」と。
【Year02】
『彼』ひとりでは難航していたスポンサー探しも、企業人である『私』が協力することでどうにかクリアできた。こんな時に祖父が遺してくれた人脈が役立つとは……。しかし10カ月を浪費した現実は、『彼』も『私』も手放しに喜ぶことはできなかった。
スポンサーの条件は1年以内に実用化の目処をつけること。量産化まで行かなくても、せめてプロトタイプを完全な形にして成果を出してほしいとのことだった。『彼』の見積もりによれば3年は必要らしいが、提示された条件を飲むしかない。それほどまでに我々はこのチャンスに賭けていたのだ。
それにしても何故、彼らは我々のスポンサー提案を受けてくれたのだろうか。最初はアポイントさえ弾かれていたというのに、いくつか計画案を提示したら目の色を変えた。特に、今はまだ夢物語にすぎない、荒唐無稽なあのアイデアは……。
それはともかく、いざ研究が始まるとそれまでの苦労など吹き飛ぶもので、『彼』はまるで水を得た魚のように、日夜、研究に没頭した。昼も、夜も、休日も、毎日、毎日……。なんといっても基礎研究はすでに完成しているのだ。約2カ月を要したものの、『彼』は偉業を成し遂げることとなる。ついに装置の第一号を完成させたのだ。
理論はいたって単純だ。『彼』が発見した劣化ガンマ線を照射することで着衣を透過する。つまりレントゲンの応用である。しかしここで問題が発生した。『彼』は失念していたのだ。なんの工夫もなく透視すると、どのような不都合を生じるかということを……。
透視はフィクションの世界において作者の都合というものが優先される。つまり物理的に正確な描写がされず、読者のためのデフォルメがされるのだ。要は本来、衣類を着用した状態というのは、例えば下着を着用していたり、場合によっては胸を大きく見せるための“仕掛け”が様々な形でされる。その状態で透視すると、背中の肉が不自然な形で胸に集められたり、上げ底のパットで肉が押し付けられるなど不格好になってしまうのだ。しかも衣類のせいで全体的に影になり肌色がうまく出ない。
これには正直、『彼』も『私』も参ってしまった。スポンサーにあわせる顔がない。早急に対策を講じ、必要なら根本的に研究を見直さなければ。さて、どうしたものか……。
【Year03】
結局、『私』たちは研究を見直すはめになった。しかし幸運にも『彼』はすぐに代替案を用意し、『私』とスポンサーの交渉をスムーズに進める手助けをしてくれたのだ。
約1年がかりで方針転換した研究とは、繊維の隙間に着目するものだった。それだけではない。補助システムの開発も同時におこない、より確実な結果を得られるよう安全策も講じたのである。
まず透視のアイデアだが、これは繊維のミクロ単位の隙間を透過して撮影する方針で決定した。繊維は、言ってしまえば細かな糸の集合体だ。……かなり乱暴な説明ではあるがね。とにかく、顕微鏡なみに拡大ができるカメラレンズを開発し、繊維の隙間を縫って人体を撮影することができればいい。ただこの方法は、劣化ガンマ線計画と同様の課題がのしかかる。つまり被写体の変形と、影の問題だ。
この2点は安全策が解決してくれるだろう。安全策とは補正システムで、下着等がもたらす肉体への負荷を計算することで、本来の肉体構造を映像上で復元するものだ。影の問題も同様で、繊維の隙間を透過する際に、遮光率を計算し、映像上で明度を調整する。この2つのシステムがあれば、きっとフィクションで夢見たような綺麗な透視が可能となるはずだ。少なくともそう信じていた。この時の『私』たちは……。
……つづく。