短編小説 『心 KIDS』 | 日々幸進(ひびこうしん)

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『心 KIDS』

               

「へいわって何?」

 おかあさんに聞いてみた。

「すごく気持ちのいいものなのよ」

「へいわって何?」

 おとうさんに聞いてみた。

「優しくなれる事だよ」

 答えは簡単。

 でも、なんか苦しい。

 今日も学校で男子が言った。

「いい恰好すんな!」

 そんなつもりはなかったんだ。

 ただ、

 道端にスズメが落ちていて、

 可哀想だったからお墓を作ったんだ。

 最初に触った時、驚くほど冷たくて止めようかと思ったけど、何か自分の番のような気がして………

 そして、

 そんな僕の言葉がその男子には面白くないらしく、

「そしたら今度犬の死体持ってきてやるヨ」

 そう言って笑った。

 厭な笑い顔。

 つられて笑う横の男子。

 苦しくなる。

 何で?

 何でそんな事を言うんだろう?

「へいわ、がいいのに」

 悲しい僕の呟きに男子の動きが止まる。

「へいわ………」

 ほんの一週間前、

 世界中の空に溢れかえった「へいわ」という文字。

 〔空ペンシル〕という宙に描けるペンで綴られた愛の言葉。

 何も分からないが、その『へいわ』という言葉に集約された優しい思い。

 それらが世界中に咲き乱れ、僕達の心に優しくなれる印を残したんだ。

 だから………

「へいわ……………」

 その心温まるニュースは一瞬の内に世界を駆け巡ったが、それよりも早く僕達を変えた。

 悲しいだけは厭だ。

 辛いだけは厭だ。

 苦しくなるもの厭だ。

 僕達には「へいわ」になれる権利がある。

 僕達には「へいわ」になれる義務があるのだ。

 そう、

 僕達は幸せになる為に生まれた。

 ならば「へいわ」はそれを生み出す力と太陽だ。

「……ごめん…………」

 その男子が言って頭を下げ向こうへ走っていった。

 僕はその子を追いかけた。

 その子に「ごめん」と言われた瞬間に胸で生まれた言葉を伝えにだ。

「ありがとう」

                END