あるホテルのこと~『あれから、それから、これから』 | MK’S BAR

あるホテルのこと~『あれから、それから、これから』


目の前のソムリエは音もたてずに

そしてまったく無駄の無い動きでワインを抜栓した。

シルバーのトレイにコルクを静かに乗せた後、

ほんの数センチだけ目の前のグラスに注いでみせた。


『どうぞ』とテイスティングを視線だけで促して来る。

『うん、大丈夫です』

今考えると、ワインの味もテイスティングの意味すらも解っていなかったのに

何が大丈夫なんだかと若かりし頃の自分に言いたくなるのだが。


付き合って初めて迎えた彼女の誕生日。

ホテルのイタリアンレストラン。

人生の中で初めて遭遇するソムリエ。


ソムリエは確かに僕を大人へと導いてくれたし、

あのホテルは色んな事を僕に教えてくれた。






あるホテルがまさにその一生を終えようとしている。


そのホテルは全国に名だたるブランドを冠に掲げて

バブル終焉時にこの地に開業した。


一時代、県下トップクラスの婚礼施行数を誇り・・・・・

度々ホテルマンMKの前に不落の要塞の如く立ちはだかった。


しかし、ゲストハウスや新興ブライダル施設に押されて、婚礼組数は激減の一途を辿る。

数年前まで400組を受注していたホテルが0組にまでなるのがこの業界の怖いところ。

宴会売上がそこまで落ちてしまってはホテルとしての大動脈を断たれたも同然だ。


以来、二度に渡り経営母体が変わった。



ゲストの立場で、同じ土俵上のライバルとして

そのホテルは僕を育ててくれた。






そして2003年某日。

僕はそのホテルのメインバンケットで雛壇に座っていた。

マイクを取って旧従業員に向かって高圧的に言い放った。

『明日からこのホテルは我がグループが経営致します』

『必ずこのホテルを再建します!!』

 




あれから・・・・・・


それから・・・・・・・


それから、約十年。



このホテルの一生はいかがなものだったのだろう。


思えば、時の権力者達に翻弄され続けた生涯だった気がする。




当社も色々な大人の事情により、ついにこのホテルを手放す事になった。

ホテルとしては完全に廃業して、

ショッピングモールとして生まれ変わる様な事を誰からか伝え聞いた。








『和洋ブッフェ、ブレイクダウン¥6060×300P


おそらくこのホテルのラストになるであろう宴会受注書を書き上げて、

僕はチーフボックスへと足を速めた。





また、ひとつの時代が終わろうとしている。




MK’S BAR-LASTORDERが来ない夜-Season 4