『ギムレットにはまだ早い』 | MK’S BAR

『ギムレットにはまだ早い』


普段は・・・派手で煌びやかな店々のネオンサインが、まるで神様にこうべを垂れている様に今夜はその灯火を失せてしまっている。幾重にも重なり合う地下の通りと橋を伏せ歩くようにいつもの集合場所に辿り着いた。

細い坂道を登り、最初の信号から数えて四つ目の角を左側の路地裏へ曲がる。


『MK’SBAR』

ハイヒールの靴音をカツンカツンと響かせながら重厚な木製のドアを開ける。


無表情で時折、眉を動かして静かに日本酒を飲む男。

マルボロをくわえたバーボンの男。

ビアジョッキを掲げる、やけに陽気な男。

他にお客はいなさそうだ。私を呼び出した三人の男達で店は貸切りになっていた。


『遅かったな!』

やけに陽気なビアジョッキの男が私に気づいて片方の手を上げた。

バーボンの男と陽気なビアジョッキの男の間に座って『ギムレット』をオーダーする。


シャカシャカシャカ、キン、キン、カシャン。


鼻腔の奥を突き刺す様なジンの香りとライムの程好い酸味。

やっぱりこの店のギムレットは絶品だ。


カチッ。

『ふうーーーーー』 バーボンの男にマルボロを一本貰って、私はやめていた煙草に火をつけた。



MK’S BAR-LASTORDERが来ない夜-2nd Season



『ルパン、アナタ本気なの!?』陽気なビアジョッキの男に問い掛ける。

ギムレットを半分だけ空けて、静かにグラスを置いた。


『おい、おい、不二子・・・そう興奮しなさんなよ。』

季節はずれのブラックスーツをまとう次元大介が、根元まで炎上したマルボロをガラス製の灰皿に押し付けながら私をたしなめた。

静かにグラスを置いたつもりだったのに、この髭面の男にはそうは見えなかったみたいだ。

マスターが絶妙のタイミングで・・・空になった次元のグラスにアイスとバーボンを注ぐ。







真緑のジャケット、半分切断されているタイガースイエローのネクタイ。

陽気なビアジョッキの男・・・ルパン。

無造作に伸びた斬バラ髪、薄汚れた羽織袴、腰元に刺した日本刀。

(街を歩いているだけで・・・充分、銃刀法違反に相当すると思うのだが・・・・・)

静かなる日本酒の男、石川五右衛門。

よくよく見ると、髭面でブラックスーツの次元大介よりも・・・相当異様な二人だ。




『ルパン、今回ばかりは手を出さない方がよくて?』

私は残り半分のギムレットを一気に空けて、ルパンを諭しながら彼の作った予告状を読み返してみた・・・・・・



《予告状。福島原発の1、2、3、4号炉の核燃料棒をすべて貰い受ける。近日参上!!~ルパン三世》










『不二子~~、まだまだ宵の口だァ~~♪ギムレットをオーダーするには早すぎるぜぇ♪』

『ギムレットにはまだ早い・・・ってのはなァ~~不二子♪アルコール度数の高いこのカクテルを飲むには、ある程度の人生経験と夜の深さが必要な訳でよう・・・・・・・』

何かの映画で、どこぞの俳優が言った名セリフ・・・・・知っている。その程度のギムレットにまつわる逸話は私でも知っている・・・・・・。

どうやら今夜は、ルパンの饒舌が止まらない様だ。




突如、マスターが助け舟を出してくれた。

『いいえルパン様・・・・・ギムレットを飲むのは、まさしく今です。』

『そして峰様・・・彼は今まで予告を裏切った事はございません♪』


マスターの言う通りだ。

この男達ならば困難な障害を乗り越えてくれる・・・そんな気がする。

事実、幾多のピンチを乗り越えて来たのだ。



MK’S BAR-LASTORDERが来ない夜-2nd Season



『マスター、ギムレットをもう一杯頂くわ。』





煌びやかな街のネオンの光を失おうとも、人の心の灯火は決してくすぶることはない。

二杯目のギムレットに口をつけて・・・・・私はなぜだかそう確信した。