回想~《25歳、暗闇の集落》 | MK’S BAR

回想~《25歳、暗闇の集落》

付近には外灯ひとつ無い。あるのは数軒の民家と田畑だけ、漆黒の闇が辺りを覆い尽くしていた。


ホテルマンMK、二十五歳。


『ええ、あの頃は若かったですね』


彼は少し恥ずかしそうに当時の事を振り返る。





国道と県道を大きく外れて、峠道を奥深く入った場所に…その集落は在った。



『まあ~お陰さんでな~~ええ結婚式やったわ~~』


『MKさんも、うちの息子より年下やのに~えらいしっかりしてはって~~本当にありがとうございました~』



新郎の母親の言葉が、結婚式の成功を物語っていた。


結婚式費用の集金を済ませたホテルマンMKは、礼を述べて家の外へ出た。


母親はご丁寧に外まで見送りに出てくれた。


この集落を訪れた時、太陽はかろうじて沈まずに、まだ空と山脈の間にいた。


しかし今や漆黒の暗闇だけが集落を覆っていた。


付近には外灯のひとつも存在しない。


ホテルマンMKは後ろ向きに歩きながら、見送る母親に何度も頭を下げた。



『あ!!』



母親の表情が一変した、その瞬間。


ホテルマンMKの身体は漆黒の宙に舞っていた。





道路とたんぼの間の用水路にホテルマンMKは落ち込んでいた。


深さは1メートルから1.5メートル位あっただろうか。漆黒の闇に柔道の技を決められたかのごとく……彼の背中は水路の底面に打ちつけられていた。


幸い怪我は無かった。


スーツのスボンは見るも無惨に破れてしまっていた。


風呂に入って帰れと優しく気遣かってくれる母親を、恥ずかしさから丁重に断ると……二十五歳のホテルマンMKは、逃げ帰るように集落を後にした。




三十八歳になったホテルマンMKは、今夜偶然にもその集落を訪れていた。


『フッ』


『あの頃は若かったな』


苦笑いしながら煙草に火をつけると、営業車に乗り込んだ。


辺りは一面、漆黒の闇だった。