あたしはホテルのなんちゃてコンシェルジュ~《渦巻く欲望》前編 | MK’S BAR

あたしはホテルのなんちゃてコンシェルジュ~《渦巻く欲望》前編

朝早くに最接近した台風18号の影響で、


東京の都市機能は完全に麻痺していた。


「ちっ、まさか山手線が止まるかよ!」


吐き捨てるように呟くと、磯野カツオは新宿まで歩く事にした。


電車の各路線はストップしていて、タクシーがまったく拾えない状態でもあったが、


現在のカツオは、タクシーに乗る金も、持ち合わせていない。


磯野カツオ、38歳。どこと無く実年齢よりも、老けて見える。


彼は憔悴しきっていた。


ギャンブルと女遊びで失敗を繰り返えし、


父、波平が築いた実家も抵当に取られてしまっていた。


今日、カツオは新宿のホテルで、ある人物と会う事になっていた。





「やあ、Apoさんおはよう。今朝は台風が大変だったね。」


端正な顔立ちと、生気がみなぎる爽やかな笑顔の青年は、フグ田タラオと言う。


30歳。ニューヨークに拠点を置き、世界中を股に掛ける…新進気鋭の青年実業家である。


東京でビジネスがある時には、この『ホテルタツヤード東京』を定宿としていた。


「フグ田様、おはようございます。急なニューヨークへのフライト、なんとかチケットもお取り出来ましたわ。」


「ありがとう。Apoさんの有能ぶりには、敬服するよ。」


少しだけだが、彼女の顔が紅潮した。


彼女は無類の、イケ麺…いや、イケメン好きだったのだ。


Apoは、風邪気味の声を精一杯隠しながら尋ねた。


「フグ田様、心なしかいつもより表情がすぐれませんが……?」


「さすがはApoさん、貴女にはごまかしは効かないね。」


「実は僕の伯父が少し困った事になっていて……」





時同じくして、磯野カツオは『ホテルタツヤード東京』に到着した。


ロビーを抜けて、エレベーターへと向かう。




午前10時。


東京の都市機能は未だ麻痺していた。


しかし、巨大ホテルはその機能を停止させる事は無く……深く渦巻く、人間の欲望を飲み込もうとしていた。


(つづく)