TABOO
もしも、現実を一つだけ変える事が出来るのなら…
あの人を
自由にしてあげたい
今日の午後…
色々な手続きの準備をする為に
あの人が一旦、部屋に戻ったようだった
マンションの解約
駐車場の解約
荷物の整理…
あの部屋には
別れた彼女との
沢山の思い出がある
彼女と一緒に暮らした
幸せな日々…
彼女が残していった
沢山の思い出が詰まった
可愛らしく小さな品物たち…
私にとっても
あの部屋は特別な場所だ
悲しい時も
寂しい時も
嬉しい時も
私は
あの部屋に向かって歩いた
朝焼けのベランダ
真夜中に見上げる星空
白で統一された広くてシンプルな部屋
何度も食事をしたテーブル
角にキズのある、お酒のグラス
毎回、奪い合いになるクッション
肩まで入って、何度も朝まで寝たコタツ
酔っぱらって勢い良く倒れ込んだ、寝心地の良い大きなベッド
沢山の時間を
休日のほとんどを
あの部屋で過ごした
今も
私がプレゼントした左利き用の包丁を握って
キッチンで料理をするあの人の背中が
鮮明に蘇る
もう戻る事は無い
私の大切な
温かく穏やかな時間
あの人が求めた
小さな幸せは
形を変えて
未来へと動き出してしまった
決してあの人が望んだ
未来ではないのに
薄暗い早朝や星の瞬く深夜
寒い日も暑い日も
天気も雨も
毎日、通った部屋へと続く何も変わらぬ道のりが
瞳に映る景色の全てが
あの人の心を揺さぶり動かす
当たり前が
当たり前じゃなくなる
足を踏み入れたくない地域
戻ってきたのは
この場所を終わらせる為だから
本当は
逃げ出したいのに
自分を犠牲にしてまで
人の為に尽くす人生になど
少しも納得なんて、出来ていないのに
本当は
あの人の本心を知っていても
気づかないフリをして
強引にでも、物事を進めて行くしかない
厳しい状況にある人達
そして、あの人も
自分の気持ちに蓋をしたまま
無理矢理にでも
全てを受け入れている
終わってしまうから
終わりと新たな始まりを迎える為に
あの人は
気持ちの整理をしなくてはならない
少しだけ
ほんの少しだけ、期待していた
今日、あの人が戻ったら
逢えるんじゃないかって…
だけど
やっぱり連絡は無かった
きっと、一人で
辛くて
哀しくて
やり切れなくて
泣いていたんじゃないのかな…
あの人は
一人の時にひっそりと
誰にも気付かれないように
よく泣くから…
ブログに綴ってある、あの人の素直な言葉が
とても痛い
切なくて
哀しくて
身を斬られるような
悲痛な叫び
何故、こんな事になってしまったのか
果たして
自己犠牲を選んだあの人の選択は
正しかったのだろうか…
何処にもぶつけようの無い、怒りと悲しみが
寂しさが
纏わりついて、いつまでも消えない
私は
あの人にも
明るく輝く未来が待っていると信じたい
どうか
少しだけでも
苦しいだけの状況が
好転して行きますように…