今月号の「ボクシング・ワールド」に、ショックな記事が載っています。
「イーグル引退へ」...これは、本当なのでしょうか。
イーグル・デーン・ジュンラパン。前WBCミニマム級(~47.6kg、最軽量級)王者。僕が、内藤大助選手と並んで、一番好きなボクサーです。タイ人ですが、タイにキックボクシングの修行に来ていた日本人の女性と結婚し、日本で活動していました。
とても、ハングリーな少年時代を過ごしたそうです。
幼いころ、船賃がなかったので、大きな川の対岸の小学校まで泳いで通っていた(流されそうになったこともあるとか)。
貧困のため母を医者に見せることができず、亡くなってしまった母のお墓をチャンピオンになってから建立した(それがずっと目標だった)。
奥さんに「僕がリングで痛い思いをしてくるから、子供は君が守って」と、あるいは、奥さんが駄目だといっても、「食べさせてあげられることがうれしくて」と、ご飯の前におやつをあげてしまう、
...などなど、胸を打つエピソードはいろいろあるのですが。
それより何より、僕は、彼のボクシングが好きです。
アップライトに姿勢よく構え、教科書のように高いガード。その上目が良くて、スッとスウェーバックして放つ右クロス、アッパー。卓越した動体視力と洞察力が可能にする、ほぼ相打ちのタイミングでのカウンター。
「美しさ」さえ感じさせる、攻防とも高いレベルの技巧の奥に、普段は隠された闘争心。元来カッとなりやすい自分を抑えるためという、試合中の「笑顔」。2006年5月の、ロデル・マヨール戦で見せた、ハイレベルな技巧戦を超えて勝利を手繰り寄せる、崇高なまでの精神力。
僕は内藤大助選手の大・大ファンですが、現在日本にいる世界チャンピオンの実力で言えば、 長谷川≧新井田>内藤>坂田(リナレスは別格、小堀は未知数) と思っていて、さらにその(長谷川選手よりも)一番上が「イーグル」だったんです。
昨年12月のオーレイドン戦では、「故国でありながら敵地」というプレッシャーからか、力んで空転し、王座陥落してしまいましたが、僕にはそれは躓いただけ(その1つの負けがあまりにも重いのもまたプロボクシングですが)、まだ修正可能なもので、イーグルのボクシング自体は全く衰えていないように思えます。
ボクワーの記載では、「イーグル本人に再起の意思がないと判断し、引退の方向を打ち出した」となっていますが...これは本当なのでしょうか。オーレイドン戦がタイで行われたころから感じていましたが、ジムとの間に何らかの不協和音があったのではないか...安易な憶測は避けなくてはなりませんが、僕はそう感じていました。
イーグル本人が限界を感じ、引退を決意したなら、本当に惜しみながら、お疲れ様といいたいですが、もしも、イーグルが心ならずも進退窮まっていて、もしも支援されている方がいたりするなら、少しでもお役に立ちたいです。
僕はまだ、イーグルのボクシングを観たい。