僕が信頼する演出家の佐藤さんから進められ
今までとは比べられないくらい大きなファションショーの演出をすることになり、僕は一日中その仕事に掛かりきりになっていた
『松本、そんなに根をつめていると身体をこわすぞ少し休みながらやれよ』
『心配かけてすみません
大丈夫です。ありがとうございます』
『まぁ~~頑張れ』
『はい』
と、数ヶ月が過ぎ
いよいよ本番
ここはパリ
『ねぇ~~この色もう少し明るく出来ない?
そっち間隔あけて・・・
これ此処じゃないよ・・・』
『松本~~』
と、僕は日本語で話しているが実際はアメリカのスタッフや日本のスタッフ、もちろんフランスのスタッフもいるので英語もフランス語も日本語も飛び交う現場だった
リハーサルがバタバタ、ガヤガヤ話す声も怒鳴る声もする中、今までもいくつもファションショーは経験して来たが、こんな大きなショーの演出をするとなると皆の要望の何処までを聞き入れ、何処までを聞き入れないのか今まで自分の判断でしてきた事が正しいのか?そんなことまでもが不安になって来ていた。
そんな僕に
『松本、自分の感性を信じれば良いんじゃないか
今までいっぱい経験して来たんだからな....フフ』
やっぱり僕を助けてくれるのは
佐藤さん....この人だった
なんとか1日目がドタバタの中終了した
『松本、お疲れさまぁ~~』
『ああ~~佐藤さん、お疲れさまです』
『なんとか無事に1日目が終わったな』
『はい、もう~~バタバタでした』
『フフ....疲れただろう?』
『はい、さすがに今日は疲れました』
『あと2日あるからな
今日はゆっくりホテルに帰って休みな』
『はい、そうします』
僕はとりあえず反省会で明日への修正点を話
指示をしてホテルへ戻った
部屋のベッドにダイブするとそのまま眠ってしまった
どれくらい寝ていたのか?
携帯のベルで起こされた
『もしもし・・・・』
『松本さん、大変です
今、明日出演予定のモデルが腹痛で病院に運ばれたとモデル事務所から連絡がありました』
『はぁ?・・・・』
寝ぼけ眼で聞いていた僕は
『え!!明日のモデル?・・・』
『はい、どうしますか?
一応代わりのモデルもいますが?』
いっぺんに夢から覚めさせられ現実へと引き戻された
『いや、とりあえず運ばれたモデルの様子が知りたいから病院は聞いた?』
『はい、聞いてます
では、私が松本さんを迎えに行きます』
『ありがとう じゃ-よろしく』
病院に着くと事務所の人が
『すみません・・・』
『いや、どんな状態?』
『実は虫垂炎で、運ばれてすぐに緊急手術になりました。これから主治医からの説明があります』
『私達も聞いて良いですか?』
『はい、もちろんです』
主治医からの説明だと
かなり前から痛みがあったようで、本人が痛み止を飲んで我慢していたとのことで、かなりあぶなかった状態だった
本人のところへ行くと泣いていた
『ごめんなさい、ごめんなさい』
と、泣きながら謝っていた。
代わりのきくモデルにとって、病気とはいえ1度ステージにアナをあけると次からは声をかけて貰えないことなど多々あることだ
だからこそギリギリまで我慢していたのだろう
そんな彼女をよそに....そこはプロ
事務所の人間は、彼女の代わりには自分の事務所のモデルを使って下さい。リハーサルも見ているので問題なくこなせます。と僕に売り込みをしてきた
泣いている彼女には申し訳ない気持ちはあるが
僕もプロ
『何人か代わりがいますので、明日ショーの前にオーディションをして決めさせて頂きます』
僕がそう言うと泣いていたモデルの子は
もう自分には出番は無いのだと受け入れた様にベッドに横になった
病院を出てアシスタントに
『代わりのモデルは何人くらいいる?』
『リハーサルを見ていたモデルはかなりいますが』
『そう、じゃ-
明日、何人か代わりのモデルを用意して
オーディションして決めるから』
モデルの世界も"生き馬の目を抜く"ほど油断のならない世界、誰かの不幸は、誰かのチャンス
虎視眈々とその機会を皆が狙っている
今回の様な大きなショーともなるとその人数も多いのだ
ホテルに帰って数時間後には2日目のショーが
始まり
誰も裏のバタバタなど知る由もなく華やかなショーは、キラキラと輝きの中で時間が過ぎて終わった
体も、心も、神経も疲れはてているはずなのに
2日目の夜は眠れずホテルのbarに行き酒を飲んでいた
『松本....』
つづく