【天声人語】死者をしのぶ行為は個人の心の問題 しきたりや世間体を離れ自分に正直に、気が済むように
欧州に住んでいた女性の話である。
6年前の夏、日本の母親が信号無視の車にはねられ、急死した。
一番早い飛行機と新幹線で帰郷し、スーツケースを引きずって斎場に駆け込むと、火葬が始まっていた。
後日、実家の洗面所で母を見つけ、そっとティッシュにくるむ。
ブラシの毛髪だ。
横浜市で開かれた葬祭見本市で、「手元供養」の商品群を見た。
たとえば、遺骨や遺髪から合成するダイヤモンドは、炭素の結合力を故人とのきずなに見立てる。
遺骨と石の原料を溶かして飾りにする業者は、工程を遺族に見せるという。
「愛する人たちとの死別に比べれば、他のことはいずれも、人生で取るに足らない」。
物理学者の米沢富美子さんは『二人で紡いだ物語』(朝日文庫)で、夫との別れをこう書いた。
風になると思えば、いくらかは安らぐ。
でも、「人の世の悲しみをよそに、自然は容赦なく営みを継続し、春がゆき、夏が来ようとしている」(同書)という心境になれば、愛する人の「かたち」を欲することもあろう。
日本の死者は03年に年100万人を超え、葬祭関連の市場も膨らんでいる。
一方で、介護や医療の負担もあって、葬儀1件あたりの出費は減る傾向という。
都会では、お墓や仏壇が縁遠くなりつつある。
死者をしのぶ行為は本来、すぐれて個人の心の問題だ。
しきたりや世間体を離れ、簡素でも自分に正直に、気が済むようにすればいいとも思う。
私事にわたるが、冒頭の話は今回、手元供養をめぐるやりとりの中で、妻から初めて聞かされた。
朝日新汎http://www.asahi.com/paper/column20070625.html
6年前の夏、日本の母親が信号無視の車にはねられ、急死した。
一番早い飛行機と新幹線で帰郷し、スーツケースを引きずって斎場に駆け込むと、火葬が始まっていた。
後日、実家の洗面所で母を見つけ、そっとティッシュにくるむ。
ブラシの毛髪だ。
横浜市で開かれた葬祭見本市で、「手元供養」の商品群を見た。
たとえば、遺骨や遺髪から合成するダイヤモンドは、炭素の結合力を故人とのきずなに見立てる。
遺骨と石の原料を溶かして飾りにする業者は、工程を遺族に見せるという。
「愛する人たちとの死別に比べれば、他のことはいずれも、人生で取るに足らない」。
物理学者の米沢富美子さんは『二人で紡いだ物語』(朝日文庫)で、夫との別れをこう書いた。
風になると思えば、いくらかは安らぐ。
でも、「人の世の悲しみをよそに、自然は容赦なく営みを継続し、春がゆき、夏が来ようとしている」(同書)という心境になれば、愛する人の「かたち」を欲することもあろう。
日本の死者は03年に年100万人を超え、葬祭関連の市場も膨らんでいる。
一方で、介護や医療の負担もあって、葬儀1件あたりの出費は減る傾向という。
都会では、お墓や仏壇が縁遠くなりつつある。
死者をしのぶ行為は本来、すぐれて個人の心の問題だ。
しきたりや世間体を離れ、簡素でも自分に正直に、気が済むようにすればいいとも思う。
私事にわたるが、冒頭の話は今回、手元供養をめぐるやりとりの中で、妻から初めて聞かされた。
朝日新汎http://www.asahi.com/paper/column20070625.html