また暇が出来たのでついでに。
これは第3巻の最終話ですね。実質の最終回。
もし漫画の単行本をまだご覧になってない方がいらっしゃれば、興味を持って頂けたら幸いです。
実際の漫画の方は、ネームが足りなかったのか作画の井田さんが脚色を加えて下さってます。
井田さんはこういうのも巧いんですよね~。
ところで今近代麻雀の方で、近代麻雀漫画賞を募集していますね。
近代麻雀漫画生活さまより勝手に拝借→
http://blog.livedoor.jp/inoken_the_world/archives/51940351.html原作部門とか考えている方は、参考になさって下さるといいんじゃないでしょうか。
(別に竹書房に頼まれたわけじゃないですよw)
それではどうぞ~
3-8「黙聴」
(注:今回趣向を変えて・・・中林がストーリーテラーとなって、須田を見ている形にして下さい)
フロアーで立ち番をしている須田と、麻雀を打っている中林。
カランカランと扉が鳴って、カップルの客が来店する。
男性は派手なコートの偉そうな若者、女性の方はそれに似つかわしくない、とても清楚な印象である。
須田「いらっしゃいませ――」
須田はその女性が来て、いくらか嬉しそうな表情で迎える。
卓の中林がそれを見る。
N(・・・見てらんねーな)
ソファに掛ける二人。
須田がおしぼりを二つ持ってくる。
N(ちょっと前、こうやってカップルで来る客がいて――)
N(まあなんつーか・・・)
N(多分先輩は、わりと彼女のことが好きだったんじゃないかと思ってた)
麻雀を打ちながら中林が、おしぼりを彼女に渡す須田の顔を見ている。
彼氏「アイスティーあったっけ?」
須田「すいません、アイスティーはなくて――」
彼氏「なんだよ――。うちの近くの店はあるのにな」
彼氏「いいやコーラで」
彼氏はつまらなそうに話す。
彼氏「わざわざこんな店まで来なくてもよくね?」
彼女「いいじゃん。私、ここがいいな」
彼女が須田の方に目をやり、無言で目を伏せる須田。
ちょっとトイレ、と彼氏が待ち席を立つ。
彼女が須田に話しかける。
彼女「ごめんね――。無理に起こして来たから機嫌悪いみたい」
須田「いえ――」
彼女「今日は須田さん一緒に打てる?」
須田「そうですね――。メンバーツー入りで立てますから」
彼女「ふふ。よかったぁー」
N(もちろんこれは俺の勝手な想像に過ぎないけど――)
N(彼女の方も、なんとなく須田さんに好感を持っていたんじゃないだろうか――、という感じはしていた)
N(もっとも、彼女はいつも彼氏連れだったし)
トイレから出てきた彼氏と彼女が話している画。
N(俺たちメンバー風情が、雀荘の客に何を期待するってわけでもないけどさ――)
彼女「――ツモ」
<彼女の手>
一二三五五六七七七八九九九 ツモ六
彼女「4000・8000――」
カウンターに立って、麻雀を見ている中林。
N(麻雀は、彼女の方が好きでやっているんだろう)
N(彼氏の方は、どちらかというと渋々付き合っている様子だ)
須田「ロン!」
須田「ツモ!」
カウンターで頬杖をついて見ている中林。
N(最初彼女がダントツだったけど――、須田さんが必死に追い上げた)
N(なんていうのか――)
N(彼氏に張り合ってとか、彼女にいいトコを見せたいとか、そういう子供じみた意地を見せるような人じゃなかったけど)
N(須田さんはただ静かに――、トップの彼女を追いかけていたんだ)
N(オーラス――)
東家(男性)
南家(倉橋) 北家(女性)
西家(須田)
N(北家の彼女は35200点持ちでトップ目)
N(西家の須田さんは35000点と、その差は200点)
中林(共に和了りトップ――)
王牌の画。ドラ表示牌は南。
<彼女の手>
■■■■ 四三五(チー) ⑦赤⑤⑥(チー) 発発発(ポン)
<彼女の河>
九白②東8⑨
八西③4
N(ドラは※西で出枯れ。赤※5は場に見えており――)
倉橋の河に赤5索の画。
中林(彼女はまず※発赤1枚の2000点といったところか)
須田、ツモ八。
<須田の手>
三三六七①②③45789北 ツモ八
中林(須田さんも聴牌――)
須田、打北で黙聴。
<須田の手>
三三六七八①②③45789
中林(オーラスの和了りトップだ。当然のダマ――)
親の彼氏が※6を切ってリーチ。
彼氏「リーチ!」
中林(出た――!)
須田「ロン!」
N(そのとき――、透き通るような声がそれに被さった)
彼女「ロン――」
①①45 四三五(チー) ⑦赤⑤⑥(チー) 発発発(ポン) ロン6
須田「あ――」
須田が唖然とした表情。
須田「・・・1000点です」
彼女「私は2000点――」
中林(確かに、彼女は予想通りの2000点か――)
N(彼女が2000点のダブロンで――、彼女は須田さんが必死に伸ばした手をすり抜けるように、すっと逃げのびてトップになった)
N(そうだ。彼女の待ちも、仕掛けと河から索子の中ほどが濃い)
彼女の河の画。
N(※3‐※6あたりの2000点、といった予想は容易に立つ)
N(それなら――、同聴だったときに備えて、須田さんはダマにせず曲げておいた方が良かったんだ)
散乱する牌の中、凛として立つ王牌の画。
須田がそれを注視している。
中林(裏ドラは――なんだったのかな)
須田の倒した手牌のアップ。
三三六七八①②③45789
N(メンピンだけでは無論2000点で結局足りないが、裏ドラが乗れば当然彼女はかわせる。上家だからリーチ棒も失わない)
うなだれている須田に、彼女が悪戯っぽく微笑む。
「リーチ、すればよかったのに」
須田が彼女の顔を見る。
N(これも無粋な俺の想像だが――)
N(もしかすると、どこかで須田さんが、堂々と思いの丈を告白すれば――、何か運命は変わったのかもしれない)
N(堂々とリーチをすれば、転がった裏ドラが違う未来を示してくれたのかもしれない)
王牌の画。
彼氏と彼女が上着を着て帰ろうとする。彼女は彼と腕を組んで、後ろを振り返って須田を見る。
N(結局先輩が、彼女に思いを吐露するリーチを宣言するようなことはなかった)
N(彼女の気持ちは、今となっては誰も確かめようがない)
N(伏せられた裏ドラのごとく、俺たちには知る権利もなかったんだ――)
カランカランとドアが閉じる。
二人「ありがとうございました――」