はななんの守護者ユカリーンの真似をして、おれもはななんとの思い出を、過去の保存写真を掘り起こしながら、振り返ってみることにした。

だが、何分大昔のことなので、多少(多量)の記憶違いもあることを、何卒ご了承願いたい。



はななんとの出会いは、遠く○年前にまで遡る。あれは、おれが初めて猫カフェに行った日のことだった。

肉球マッサージを試すために行ったのだが、店内にいたのは、とても近づくことのできないコワモテの猫だけであった。


「とほほ・・・」
はるばる電車で来たおれが、落胆して道を歩いていると、背後から声をかけられた。
少女「そこの者、ちょいとお待ちなさい」
おれ「?」
少女「そうだ、お前だ」
おれ「おれ?え?何か用でしょうか」
少女「実はな・・・」
ど派手な車に乗った少女であった。


少女「この車に一目惚れして衝動買いしてしまったのじゃが、私は免許とやらを持っておらん」
おれ「はあ」
少女「そこでじゃ、お主に我が家まで運転を頼みたい」
おれ「ええっ?!」
少女「ただでとは言わん。頼まれてくれるのなら、この車をお前にやろう」
おれ「え?だって、この車を気に入って買ったのでは」
少女「手に入れただけで満足じゃ。それに、片道乗れば飽きるワ」
おれ「いや、でも」
少女「そもそも私は免許を持っておらんでの。大丈夫、金など取らん」
おれ「そ、それなら・・・」
おれは引き受けることにした。

東京某所、少女の自宅に到着した。広すぎてどこに車を停めたらいいのか分からない。
少女「ご苦労。車はそこに停めるがいい」おれ「あ、はい」
少女「それから、家で少し休んでいくがよい」
おれ「え?あ、そ、それでは遠慮なく・・・」
巨大な豪邸の中がどんななのか、おれは興味があった。
おれ「すごい!」



大理石の床、無数の宝石で作られたシャンデリア、馬の彫刻。驚いたが、これだけで玄関に過ぎないという。

別室に案内されたおれは、一枚の絵を見て尋ねた。
おれ「この絵は?」
少女「ああ、この絵か。これは我が守護者ユカリーンと私の絵じゃ。ピアノを教わっておる」
おれ「そうですか」

このときおれは、「守護者」という言葉を聞き逃すべきではなかったと、後になって後悔するのであった。


結局おれは、そのまま1時間以上もお邪魔してしまった。

おれ「あの、そろそろ帰ります」
少女「そうか。ではしばし待て」
おれ「?」
お土産でもくれるのかと期待していると、奥から表れたのは、手ぶらの女性であった。

女「生か、死か、・・・」
少女「またやるのか?」
女「当然だ。女の子一人の家に遠慮なく上がり込む男などゴミだ」
おれ「・・・」
何やら様子がおかしい。二人は一体何を話しているのだろうか。


女「おい、そこの男!」
おれ「(ビクッ)」
女「10億払ってもらおう。それができないのなら、この屋敷で一生ゴキブリ以下の暮らしをしながら働くことだ」
おれ「い、一体何を言ってるんだ」
女「外を見ろ!駐車場だ。あそこに停まっているのはお前の車だろう」
たしかに、もらったのだから、あれはおれの車だ。
おれ「まあ、そう、だけど」
女「では看板をよく見てみろ!」
おれ「!!!」


おれ「有料駐車場?!そんな馬鹿な!」
女「馬鹿はお前だ。どうする。払えるのか?払えないなら一生この屋敷でこき使わせてもらうぞ、ゴキブリとしてな!」
女が指差すほうを見ると、ゴキブリのコスプレセットが置いてあった。どうやら本気のようだ。

おれ「ううう」


おれ「一生ゴキブリ扱いされるなんて・・・」


そのときだった!
?「やめなさい!」
新たにもう一人の女性が表れた。
少女「あなた・・・」
女「こ、これは、はななん殿」
おれ「(はななん?今度は誰?)」


はななん「あら?今日が何の日か覚えてないの?守護者を譲り受ける日、でしょ?」
少女「そうだったわ」
はななん「あれからちょうど200年。ユカリーンはまた私のものよ」
少女「そうね。古いしきたりには私も従うわ」
おれ「(200年?まるでそれ以上前から生きて来たみたいな言い方だけど)」

はななん「ところで何?この男は。新しい召し使い?」
少女「そうよ、10億円の代わり」
はななん「10億って、またあの汚い手を使ったのね」
少女「あなたには関係のないことでしょう。ただ、今回は、ユカリーンが生か死を選ばせるみたいだけど」
はななん「・・・」
はななんとやらが、おれのほうをじっと見ている。そしてしばらくして言った。
はななん「ねえ」
少女「何?」
はななん「この男は私が引き取るわ」
少女「冗談でしょ?それともあなたが10億を払う気?」
はななん「それ以上の額よ。ほら」
おれはびっくりして、彼女の手元を見た。しかしそこにあったのは・・・



おれ「(なんだ、何千円かしかないじゃないか)」
すると彼女が少女に言った。
はななん「どう?8000億円よ」
少女「」
おれ「は?」








この屋敷では、奇妙なことが起き続けている。それは有史以前からのことである。何より不思議なのは、この屋敷が有史以前から存在したことと思うべきなのだが、彼女らにとってそれは重要な問題ではなかった。何よりも問題なのは、世界に広がるインフルエンザが某国某所の一点を起源としているように、この世のあらゆる災悪もまた、この屋敷を発祥としていることである。それは、人類史において紛れもない事実であった。


おれ「あの、あなた方は一体・・・」
はななん「詳しい説明は後。今は早くこの屋敷を出ましょう」
おれ「ええと、その、10億円は」
はななん「大丈夫。あの子、一万円札しか見たことないから、あれが1000万円札だって信じてるの。今回も通じるか分からなかったけど、今でも信じててよかった。前にね、“1000万円札がなかったら、何億も数えるの大変でしょ?”って言ったら、簡単に信じるんだもの、おかしいかったわ」
おれ「・・・」
おれには、全てが常識を外れていて、何が何だか訳が分からなかった。

おれ「そうだ、守護者っていうのは?」
はななん「ああ、ユカリーンね」
おれ「君のガードマン的な?」
はななん「ふふふ、違うわ」
おれ「じゃ、じゃあ、おれの?」
はななん「ふふ、まさか」
おれ「そう、だよね・・・」
先ほどの屋敷に少女と居た女、いや、ユカリーンの姿が見えない。
おれ「ところで、今ユカリーンはどこにいるの?君が引き取るみたいなこと言ってたけど」
はななん「うん」
彼女は、直接それには答えなかった。

はななん「ユカリーンはね、世界の守護者なの」
おれ「世界の?」
はななん「うん。人間の、ではなく、世界の」
おれ「・・・」
はななん「彼女は、人間を、価値あるものか、そうでないものかの二つにしか分けない。その彼女が、あなたに選択を迫った」
おれ「ああ、脅されただけだけど」
はななん「違うの。本当なら、選ばせずに、ゴキブリ以下の扱いをしたわ。なのにあなたには、どちらかを選ばせた。つまり、あなたには、世界の役に立つ可能性もあると、彼女は示していたのよ」

ユカリーンにとって、ゴキブリとして生きながらえることが生であり、10億を払えず逃げて殺されるのが死であるわけではなかった。彼が、世界の役に立つ生き方をすることが生であり、それをあきらめ、ゴキブリになってでも生きようとする惨めな姿こそが、死と同義であると言っていたのであった。

おれ「な、なんだかよく分からないな。でも、だから君は、おれを助け出してくれたの?」
はななん「そう。とても10億円持っていそうに見えなかったし!」
おれ「たしかに」
はななん「ふふふ」
おれ「ところで、さっきも聞いたけど、その、ユカリーンは?」
はななん「彼女ならいるわ。どこにでも」
おれ「どこにでも?」
はななん「そう。今は私のターン・・・つまり、これからの200年は、私が彼女の保護者を努めるってわけだから」
おれ「守護者の保護者って。そ、そもそも200年って、君は一体・・・」

彼女は背中を向けてこう言った。
はななん「天使、なんてね」
おれ「天使・・・本物の・・・」





はななん「そういうわけだから、私にストーキングなんてしようものなら、いつでもどこでもユカリーンが現れて、叩きのめされるからね、覚悟してね!ふふふ」
おれ「いや、おれ他に単推しいるけど」
はななん「」
おれ「?」
はななん「(怒)」
ユカリーン「きさま・・・(怒)」
おれ「うわあ、現れた!」




こうしておれは、あの日以来、半強制的にはななんのファンであるようになったのであった。

つづく






おれ「そういうわけで、ハッピーバースデー!」

・・・
・・・・
・・・・・

(はななん)「このファンレター長っ!!」