外を降る雨はその激しさを増し強く窓を打ち付け続けていた。
静かに煙草に火を点けるその仕種とは裏腹に完全にY氏はキレていた。
今トップで立場上断る事の出来ないマスターは渋々レートアップを受けた。
五回戦・�—�—3—5000
俺は焦っていた。
ピンで打つのは(勿論大きい方)始めてではないがこの展開は俺にとって未体験の世界だった。
いくら勝とうがレートを上げられラスを引いたらパァーである。
事実今日の微々たる勝ち分は今回跳べば消えてなくなる
そして、俺には負けた時レートを上げる金も勇気も持ち合わせがない。
マイナス思考ばかりが頭の中をグルグルと廻る
なぜここまでマイナス思考に捕われたのか。
もしかしたらY氏の威圧的な態度に当てられたのかもしれない。
しかし俺が恐れる最も大きな理由は他にはっきりとある。
この麻雀はおそらく終わらない。
いい方を変えるとやめようと言い出す人間がいない。
熱くなったチンピラ。
店主。
流れにノリ勝ち続ける博打打ち。
誰がやめようと言い出す?みんなやり続けたいに決まってる。
(今思えばあまり上手くなくかつ熱くなっているY氏が卓に着いている以上大勝ち出来る可能性も高いし、果たしてY氏にレートアップし続ける金があるのか?という最もなプラス思考が浮かぶのだが)
そして、そんなマイナス回路で勝てるほど麻雀は甘くない
その半荘俺は始めてのラスを引いた。比喩ではなく、ハッと気が付いたらラスにいた。
トップはエヌ氏。
だが、これでちょうど勝ち金がチャラぐらいのラスだった。
「博打の途中で金の勘定をしたら負けだ。」
って誰かが言っていたがその時俺は自分のズクを何度も数え、ただひたすら負けないように、金を減らさないように考えていた。
末期症状だ。
勝つ気が全くない。
負けたくないだけ。
ぢゃあ最初から博打なんて打たなければいい。
打たなければ負けないのだから。
平時の当たり前の理屈がもう解らなくなっていた。
それでも次の半荘は始まる。
六回戦・|—|—3—5000
ただ必死だった。
麻雀に神様がいるかどうかはわからないが神様は少しだけ哀れな男に味方してくれた。
必死の二着。
トップはまたしてもエヌ氏。
だが、ラスを引いたY氏が感情を込めずこう言った。
「次はダブルだ。」
「ちょっちょっと!」
流石に俺は間髪入れずエヌ氏に食いついた。
「いや、ホントキリがないですよ。流石に無理ですよ。」
必死の懇願。
時間は6時前。
俺を睨み付けるY氏
しかし俺は引き下がらない。いや、引き下がれない。
絶対にこのレートアップの流れを断ち切らなくちゃいけない。
この狂った状態からなんとかして脱出するんだ
続く。